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細田守監督作品「バケモノの子」ネタバレあり感想解説と評価 ジブリの屍を超えろ!

 

 

まえがき

 

さて、映画評論のお時間です。

 

今回の作品は、

 

細田守 監督 「バケモノの子」

 

 

週末の六本木ヒルズで鑑賞してまいりましたが、公開から数週間経っているのにほぼ満席。人気の高さが伺えます。場所柄もあるでしょうが、観客の多くはカップル、夫婦での鑑賞。小さい子供は少なかったです。

 

さて、作品の内容ですが、、、 まずは細田さんの特徴を知りたい。という方は、前回の記事を読んでください。

 

www.machinaka-movie-review.com

 

 

スタジオジブリが宮﨑駿の引退とともに「長編アニメーション映画は作らない」と発表して以降、初めての細田作品となります。

 

映画ファンとしては、これから日本の長編アニメ映画の中枢を担う細田守さんが、どんな作品を作ってくるのか、と大変興味深く観てしまうのです。

 

細田監督が実際にどう思っていたのかは分かりませんが、ジブリ無き今、相当のプレッシャーを感じているのではないでしょうか。

 

宇多丸さんのラジオで聴いた情報ですが、ジブリの作業机をスタジオ地図が格安で譲り受けたそうです。いよいよジブリも店じまいなのでしょうか。

 

 

 

バケモノの子の感想

さて、今回のバケモノの子ですが、、、

 

相変わらず絵力がスゴい・・・。まずは冒頭で流れる渋谷の街。これでもかというくらい、リアルな渋谷の風景。

 

ドラマや他の映画でもさんざん流れてきた渋谷ですが、スタジオ地図が作るとここまでリアルなのか、と恐ろしくもなる。

 

細田作品の特徴ですが、主役以外のいわゆる「モブキャラ」のセリフがリアルすぎて、本当に雑踏の中を歩いている感覚に陥ります。

 

特に渋谷だとスクランブル交差点でのリアルな雑踏は、もはや街の一部。細田作品に渋谷は合っているのかもしれません。

 

また、バケモノの街の表現や食事の絵。ジブリと比べてあっさりした印象ですが、それがかえって物語に集中できるというか、すんなり頭に入る。ジブリの様な、異常なまでこってりと美味しそうな食事の描写とはまったく異なります。

 

もちろん、音響も最高。超一級の俳優さんと声優をミックスした配役。エンディングがMr.Children。日テレがバックについてるとこれだけ詰め込んでも予算がパンクしないのか、と感動してしまいます。さすがマスコミ。

 

さて、肝心のストーリーですが、前作の「おおかみこどもの雨と雪」を意識せざるを得ない脚本でした。要は子どもの成長を描いたお話です。

 

母を亡くし、父親が行方不明となっている子ども(蓮)が、親戚からの「理想の子ども像」の押し付けに嫌気が指し、渋谷のまちをふらつく。

そこにバケモノの世界からやってきた熊徹一行が現れ、こいつを弟子にするかと誘う。

なぜかバケモノの世界に入り込めた蓮は、熊徹に「九太」と名付けられ、二人の奇妙な共同生活が始まる。

 

メンターとメンティーの関係

 

子どもの成長という点では同じですが、前作とは家庭環境も、保護者の人物像もまるで違います。私の評論では、この2作品を徹底比較することで作品に対する理解を深めていきます。

 

下にバケモノの子、おおかみこどもの雨と雪での保護者ー子どもの関係を示します(図1)。いやぁ、Yahoo!映画時代は文章だけの表現しか許されなかったので、こういうフロー図を書くのは大変楽しい!! 

 

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   ■バケモノの子とおおかみこどもの雨と雪の人間関係

 

2作品とも子どもの成長を書いているだけあって、物語の構図は非常に似ています。

 

用語説明

メンター/Menter: 精神的な指導者、大事なことを教えてくれる恩人。映画でのメンターとして有名なのは、ルーク・スカイウォーカーを指導するヨーダ、など。英語のメンタル(Mental)が人を指す名詞として派生したのでしょう。

 

プロテジェ/Protege:フランス語で被指導者を指す。あまり聞き慣れない言葉ですが、メンターとの対比を表すために用いることとします。

 

 

2作品の比較

さて、一般的には保護者と子どもである関係も、見方を少し変えれば保護者はメンター、子どもはプロテジェという言い方ができます。そこから、両作品の違いについて解いていきましょう。

 

まずメンターですが、本当に水と油の関係です笑。性別が違うのはもちろん、熊徹と花では全く性格が違います。

 

非常にシンプルに書きましたが、熊徹は頭より手が先に出るタイプ、花は手を出す前に勉強して考えるタイプです。

 

人物像では、熊徹は非常に短気。

自己中心的で本当に保護者なのか?と疑いたくなる。特に生真面目な猪王山との比較により、ダメ父っぷりがより強調されてます(本当の父ではありませんが)。

 

おそらく、猪王山と一郎彦の関係と、熊徹と九太の関係を対比させたかったのでしょう。おそるべし細田守。

 

一方の花は、絵に書いたような優秀な母として描いています。

 

子どもの意見を尊重し、分からないことがあればすぐに勉強するまじめな母。家族中心に物事を考える優しい母。

 

聖母マリアのような、何の欠点もない最強の母親像が作られています。

しかし、この花の完璧な母親像が女性には眩しすぎたらしく、映画の賛否が真っ二つに分かれた一因ともされています。私は男なので当時は違和感を感じませんでしたが、結婚・出産を経験した女性、結婚を間近に控えた女性にとっては、「こんな母親どこにいる!?」と憤慨したのかもしれません。しかも声を当てたのは宮崎あおいさんですからね、もう敵いません笑。

 

このように、二人は全くタイプが異なるメンターであることが分かります。

 

そしてプロテジェである子ども。子どもの定義が曖昧かと思いますが、今回は10歳前後の年代での環境に絞らせて頂きました。自我が芽生えているが、保護者なしには自活は不可能な、そんな年齢だと思います。

 

興味深いのは、それぞれの人種と育った環境です。九太は人間ですが熊徹のいるバケモノの世界で生まれ、雪と雨はバケモノ(オオカミ)ですが人間界で育っています。

お互いに、人種と生きる世界がそれぞれ正反対になっているのです。

いやぁ、なんて偶然。まさか、この対比も細田監督は考えていたのか? まさか笑。

 

育った環境は違っても、九太の場合は家出により、自主的にバケモノの世界に行っており、雪と雨は母親の判断で富山県の豊かな田舎へと引っ越します。

 

この違いでも分かる通り、九太には比較的多くの選択権が与えられており、非常にタフな強い子どもとして設定されています。

 

実際親戚の元を離れても熊徹と喧嘩しながらたくましく成長していきますし、弱音を吐いたこともありません。10歳前後の子どもがこんなにも強靭だなんて、ある意味人間離れしています。

 

最後に家庭環境ですが、九太は9歳に母親を無くし、父親は生まれた頃から会ったこともない、という複雑な家庭で育ちました。一方の雪と雨は、母が出産して間もなく父親が死んでしまいます。

 

まだ自我が芽生える前なので、父親の思い出がほとんど残っていません。両者の違いは、父が生きているのか母が生きているのか、ということです。両方とも片親なのです。

 

ただし、九太の場合は熊徹もいますから、親の影響は本作ではほとんどありません。

 

つまり、「おおかみ」では親に依存する(依存せざるを得ない)子どもを描いた反面、「バケモノ」では親ではない師匠との関係が濃い作品となっているのです。

 

さらに、メンターとプロテジェの関係を見て行きましょう。熊徹も花も、方法は違えど生きるための術を子どもに教えています。

 

「バケモノ」では熊徹がダメ父(ダメなメンター→ダメンター)なだけあって、九太に助けられる場面が散見されます。

 

熊徹は「この世界では、強い奴が偉い。生きるためには強くなれ!」という戦国武将のような価値観を持っています。

 

九太もそれに従って修行に励みますが、熊徹の下手くそな説明に嫌気が指して、ずっと熊徹を監視し続けます。

 

その結果、九太は人の考えていることや行動が手に取るように分かってしまいます。

 

ただメンターの教えに従うだけではなく、自分で考えることもできる。それをメンターである熊徹に教えようとするのですから、普通の師弟関係ではありません笑。昭和のスポ根マンガだったらありえない話ですよね笑。

 

ただし九太の意見は正しく、熊徹は少しだけ、相手の気持ちを考えるようなったのです。

師匠と弟子が意見を出し合って、切磋琢磨する関係になっています。

 

一方で「おおかみ」では、花が完全無欠の母親として君臨していますので、子どもたちは突っ込む隙すら与えられません笑。

 

基本的にはお母さんの指示に従う場面が続きます。

ただし、「オオカミ」では子どもの出産シーンから小学校高学年までをじっくり描くので、子どもはよく考えられる年齢ではない、というのも一因でしょう。

 

花は父親の死後ということもあって、強い母親像を徹底的に目指します。そして絶対に自分の力だけで子どもを育てる、という確固たる意志。

 

実際のお母さんが頑張ったら、育児ノイローゼになってしまいそうです。そういう背景もあってか、子どもには厳しく、そして優しい「しつけ」をします。

 

決して怖い母親、というわけではなくて、男の私からみると、「こんなお母さんいたら良いな」と感じるくらいの心地よさなのです。

 

しかし、男は反抗期には自立したくなるもの。息子はオオカミとして生きることを選択し、母親と決別します。そんな時に、花は「まだ何も教えていない。

 

もっともっと教えたいことがある」と、悲しみ嘆きます。しかしそんな出来事があっても、自立した弟を全力でサポートしていきます。花、恐るべし。

 

まとめ

 

というわけで、「バケモノ」と「オオカミ」では、保護者と子どもーメンターとプロテジェとの比較で観てみると、正反対の子ども教育映画だということが分かります。

 

どっちが面白いというわけではありません。男女両方のメンターを描いたという意味では、男性ファンも女性ファンも、どちらか必ず楽しめるのではないでしょうか。

 

個人的には、「こんな母ちゃんいいな!」と感じた「オオカミ」の方が好きですが。とはいえ、ジブリ無き世の中で、こんな深いアニメーション作品を作れるのは、細田さんだけではないでしょうか。庵野さんとは全然違う意味で、考察したくなる作品です。

 

ぜひ今のうち、劇場で鑑賞してください! オススメです!

 

 

 

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