まえがき
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「燃えよ剣」
それでは「燃えよ剣」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・新選組副長・土方歳三の生涯を描き、過去に映画化、ドラマ化もされてきた司馬遼太郎の歴史小説を、「関ヶ原」の原田眞人監督&岡田准一主演の再タッグで新たに映画化。江戸時代末期。黒船の来航により、外国から日本を守るため幕府の権力を回復させようとする佐幕派と、天皇を中心にした新政権を目指す討幕派の対立が深まりつつあった。武州多摩の農家に生まれた土方歳三は「武士になりたい」という思いで、近藤勇、沖田総司ら同志とともに京都へ向かう。芹沢鴨を局長に、徳川幕府の後ろ盾で新選組を結成し、土方は「鬼の副長」と恐れられながら、討幕派の制圧のため京都の町で活躍を見せるが……。土方歳三役の岡田のほか、土方と生涯愛を貫くお雪役を柴咲コウ、近藤勇役を鈴木亮平、沖田総司役を山田涼介、芹沢鴨役を伊藤英明がそれぞれ演じる。
「燃えよ剣」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#燃えよ剣」鑑賞!
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年10月16日
こんな邦画大作を待っていた。冗長的な尺の一切を切り捨て独特のリズムで進み2時間半の尺で土方の一生を見事に再現。#岡田准一 #山田涼介 のジャニーズ俳優も集客ではなく演技・アクションの要として機能し、今昔を問わないスター性を発揮。
やっと時代が追いついた。最高です。 pic.twitter.com/sKIJsiXJRf
こんな邦画大作を待っていた!
いやぁーーー、良かった!!
まさかここまで面白いとは、本当に予測できなかった!
「原田組だぜ!」と意気揚々と撮影に臨む岡田准一の姿を、スクリーンに流れる宣伝で流れていたのが、何故か印象に残っていた。
岡田准一が期待する原田眞人監督。90年代の「KAMIKAZE TAXI」や「バウンス ko GALS」は大好きだが、それ以外は正直印象に薄い。
「日本のいちばん長い日」も悪くはなかったが、大傑作とまでは行かなかった。
直近では「検察側の罪人」があるが、これも面白かった!と胸を張って言えるものではなかった。
そして今作でようやく改めて原田眞人監督の偉大さを確信した!
土方歳三の一生を1本の映画に収め、二時間半という長尺にも関わらず飽きさせない作り。本当に素晴らしい。
ジャニーズ俳優の起用、日本人に人気のある新選組モノを、映画界の重鎮である原田眞人監督に撮らせた。
これまでも「関ヶ原」など時代劇に挑戦してきた。数々の作品で蒔いた種がようやく実になり、今作で花ひらいた!
こんな邦画を待っていた。
エンドロール中、思わず涙が出た。
ありがとう、原田眞人監督!!
独特の編集が生む邦画リズムの大変化
今作で最も評価すべき点は、間違いなく「編集」だろう。
他の邦画大作と圧倒的に異なるのは編集であり、独特のリズムで物語を進めることによって、二時間半以上の尺で土方歳三の一生を描き切った。
普通、日本なら大河ドラマで何十時間も掛けて作られる内容を、一本の映画としてやってのけたのだ。こんなこと、他の邦画ではありえない。
新選組になる遥か前。壬生浪士組よりもっと前。何と武州多摩郡(現在の日野市にあたる場所)で喧嘩屋として暴れていた時代を開始時点として、五稜郭の戦いで死亡するまでを描いているのだ。
なんということだ。
新選組の時代から描いても、二時間では収まらない場合だってある。
この奇跡を成し遂げたのは、原田眞人の息子である原田遊人の仕事に他ならない。
原田眞人監督は、2007年の「伝染歌」から原田遊人を編集として起用してきた。
彼の編集の特徴は、良く言えば大胆、悪く言えばブツ切りな独特のカッティングにある。
普通の邦画なら、ゆっくりたっぷりとベテラン役者の受けの演技を見せるのが通例。セリフを終えても、顔がどアップになるシーンが何秒も続くことが多い。
しかし、彼の編集は役者がセリフを話し終えても受けの演技を見せず、音楽が流れているのにフェードアウトせず、ブツ切りで次のシーンへ移行させる。
テンポ良く進んでいるように見えて、他の編集ではまず見れないようなカッティングをしている。特に、「検察側の罪人」では「まだ途中でしょうが!!」とツッコミたくなるようなカッティングが目立っていた。
いつもの邦画の演技では、彼の編集との相性が悪い。
とにかく溜める演技、何も喋ってないシーンは、容赦無く切り落とされるのだから。
その証拠に、ラストで土方が死ぬシーンも情緒たっぷりに描くことなく、アッサリと人生の幕引きを行なっている。
しかし今作は、彼の編集特性を理解した上でなのか、役者の喋りが異様に早い。
特に新選組時代に池田屋を襲撃するシーンでは、矢継ぎ早にセリフが飛び交い、それに呼応して次々とカットが切り替わる。
演技と編集の特性が完全にマッチした瞬間なのだ。
役者のセリフの速さを象徴するのは、普段は芸人として活躍?するウーマンラッシュアワーの村本。彼が誰よりも早くボソボソと話すことで、他の役者のセリフが相対的に遅くハッキリと伝わるようになっており、影の立役者は村本に違いない。
こんな早口なセリフを邦画で見たのは、「シンゴジラ」以来ではないだろうか。
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こうした演技と編集のマッチングによって、司馬遼太郎原作を象徴する膨大な情報量を見事に消化し、一本の映画に収めたのだ。
邦画では異様なテンポに思えるのだが、これはハリウッド大作では標準的なテンポのように思える。
エンドロールに英語名が流れていることからも、今作はおそらく海外出品を意識しているに違いない。
日本人にばかりターゲットを絞り、内気な産業にも見える日本映画界だが、今作は違う。ちゃんと海外に焦点を当てている。
その片鱗が、編集にも現れているのだ。
常日頃から、邦画はテンポが悪いと感じていた自分にとっては、今作はまさに青天の霹靂。
原田遊人さん、本当にありがとう!!!
新選組入門として非常に優れている作品
個人的な話だが、新選組はあまり詳しくない。
歴史の授業で新選組結成や池田屋事件のことは知っているが、壬生浪士組時代や日野でバラガキをやっていた土方の存在は全く知らなかった。
そもそもなぜ新選組が誕生したのか、名家の生まれではない土方や近藤がなぜ著名な人物にのし上がっていったのか、その理由すら知らなかった。
今作によって、京都守護職として任命された会津藩の藩主との関係性や、京都の朝廷との関係が丁寧に描かれ、新選組についての理解を深める内容になっていたのが素晴らしい。
新選組はもともとエリート集団だと思っていた私が間違いだった。
そうだ、そもそもエリートなら寄せ集めの集団など作らない。わざわざ京都に移動したりなんかしない。
彼らは最初から最後までバラガキを貫き、喧嘩屋としての最後を全うした。
五稜郭での戦い、明らかに無謀とも見て取れる土方の突撃も、序盤に描かれる道場破りのシーンと重なる。
これからも永遠に映像作品になり続けるであろう新選組を知るためにも、今作は非常に優れている。
まとめ
新選組で一番記憶に残っている映像作品は、NHKの大河ドラマ「新選組!」
高校受験にも関わらず毎週楽しみに見ていたのが懐かしい。今でもメインテーマが記憶に残っている。
私の記憶が正しければ、この作品は新選組に絞った話で、坂本龍馬との対峙はあっても、今作で描かれたような会津藩との関係や朝廷を描いたわけではなかった。
こんなにも新選組は奥深いのか、、と目を丸くしながら見ることができた。
知ってるようで何も知らなかったんだな、と改めて知識のなさを実感した。
今作をきっかけに、もっと新撰組について知っていきたい。
司馬遼太郎の本は「坂の上の雲」で挫折した苦い思い出があるので、出来れば別の作品で学びたい・・・
97点 / 100点