まえがき
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「デッド・ドント・ダイ」
洋画邦画問わず公開延期が相次ぐこともあり、 豪華キャストの影響もあり、相対的に大作に見える本作。
けど、冷静に考えると、どこかおかしい。
これジム・ジャームッシュだよ!?
同じアダム・ドライバー主演で、なんのとりとめもない日常をただ描いた作品「パターソン」を作った人ですよ!?
そんな男が撮った新作が大作のように見えるって、今の映画界はどんな現状なんだよ!!
ちなみに、本作はジャームッシュ監督作の中で初めてワイドリリース(アメリカ600館以上の劇場で公開)された作品であり、日本の規模と比較すると十分大きな映画ではある。
まさかジャームッシュ作品が超大作に思えるなんて、夢にも思わなかった。こんな時がやってくるなんて。
アメリカでは2019年に公開されたようだが、まさか今の時期になって公開されるとは、ジャームッシュも想定していなかったんじゃないか?
よりにもよってゾンビで、必然的に感染モノである映画を見にいくのも、なんだか流行に乗ってる感じがして仕方ない。
自粛されている今だからこそ、娯楽は必要だ。ちゃんとルールに則って、平日に、パーソナルディスタンスを作って、鑑賞しに行った。
それでは「デッド・ドント・ダイ」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・鬼才ジム・ジャームッシュがビル・マーレイとアダム・ドライバーを主演にメガホンをとったゾンビコメディ。アメリカの田舎町センターヴィルにある警察署に勤務するロバートソン署長とピーターソン巡査、モリソン巡査は、他愛のない住人のトラブルの対応に日々追われていた。しかし、ダイナーで起こった変死事件から事態は一変。墓場から死者が次々とよみがえり、ゾンビが町にあふれかえってしまう。3人は日本刀を片手に救世主のごとく現れた葬儀屋のゼルダとともにゾンビたちと対峙していくが……。ジャームッシュ作品常連のマーレイ、「パターソン」に続きジャームッシュ組参加となるドライバーのほか、ティルダ・スウィントン、クロエ・セビニー、スティーブ・ブシェーミ、トム・ウェイツ、セレーナ・ゴメス、ダニー・クローバー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、イギー・ポップらが顔をそろえる。2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。
「デッド・ドント・ダイ」のネタバレありの感想と解説(全体)
ジム・ジャームッシュ最新作「#デッドドントダイ 」鑑賞!
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2020年4月1日
カイロ・レンをいじられるアダムドライバーなど役者のメタ的なネタや第4の壁を破りすぎる演出、ゾンビ・オカルト映画への直接的すぎる言及で観客を未知の爆笑に誘う!
映画愛に満ち溢れた、皮肉たっぷりの愛ロニカル・ゾンビ・コメディ!! pic.twitter.com/mumT1PHwWD
ゾンビ映画の愛あふれる? 独特すぎるオマージュの捧げ方
数多くのゾンビ映画がこれまで公開されている。本作はその中でも、過去の名作が多く引用されるのが特徴ではあるが、あまりにも量が多すぎる。
多すぎてもはや、オマージュが目的化している映画だとも言っていい。
正直言って、見る人が見たらトンデモ映画だと感じること間違いない。
何の説明もなく突拍子もないオマージュやパロディネタが放り込まれ、笑うに笑えないブラックなユーモアに溢れている本作は、「分かっている」人向けに作られた映画でもある。
もちろん、
警察が主人公で、小さな街で起きたゾンビ案件で、最後はUFOまで登場する本作は、エドガー・ライト監督の「ショーンオブザデッド」「ホット・ファズ」、「ワールズエンド」による「スリーフレーバーコルネット三部作」を一本にまとめたような作品だと感じた。
また、スリーフレーバーコルネットではないが「宇宙人ポール」もどことなく本作の設定と似ている。
www.machinaka-movie-review.com
ただ、ジム・ジャームッシュ監督のアイロニカルな作風によって、過去の名作へのオマージュやパロディが上記に挙げた作品と全く異なって見えるのが面白い。
一番分かりやすいのがジョージ・A・ロメロの「ナイトオブザリビングデッド」のオマージュ。
普通の映画ならタイトルに「◯◯オブザデッド」と付けたり、ロメロの映画を真似たシーンを作ったり、ロメロへのオマージュの捧げ方は基本的に「さりげなく」行うのがよしとされてきた。
本作は「ジョージ・A・ロメロ」という言葉がセリフとなり、かなりモロなオマージュが見られる。確か、桐島でもロメロの直接的な引用があったが。。
が、本作はそれだけにとどまらない。
「ナイトオブザリビングデッド」の裏テーマでもある「消費社会や資本主義への警笛」を 、、ナレーションで観客に伝えてしまっているのだ。
ゾンビに襲われながら「こいつらは物質主義の遺物だ」など、あまりに直接的な説明が加わり、ロメロが映画的に伝えようとしたことを全てナレーションにしてしまっているのが本作のオマージュの最大の特徴であり、最大の問題点とも言える。
本作は果たしてオマージュを捧げているのか?と言いたくなる演出。映画好きであればあるほど神経を逆なでされる可能性だってある。
下手な人がやったら怒り狂う演出だが、ジャームッシュのオフビートでアイロニカルなギャグセンス、豪華キャストの名演によって、映画好きには抱腹絶倒の仕上がりになってるのがニクいところ。
おかしい、普通なら説明的なセリフやナレーションは大嫌いな自分が、もはや全肯定の勢いになっている。
どんなに直接的なオマージュであっても、笑えればオールオッケーになってしまうのは間違いない、と個人的に感じる。
例えば「チームアメリカ」でも、過激かつ直接的なパロディネタが炸裂してしまったが、大爆笑で鑑賞することができた。
第4の壁を破る演出や直接的すぎるパロディなどを踏まえると、本作は「チームアメリカ」とどことない共通点を感じる。
いろいろ書いてきたが、とにかくクセのありすぎる独特なオマージュの捧げ方が強烈な異彩を放った。面を食らう人もいるかもしれないが、これぞジャームッシュなんだと感じていただければ。
オマージュが分からなくても、アダム・ドライバーの無表情で目立つ行動を取ることによるギャップ笑いには、無抵抗で笑ってしまう。
個人的には、殺人現場のダイナーに車で駆けつける時、アダム・ドライバーが乗ってきた車が真っ赤な二人乗りエコカーだったのには本当に腹を抱えて笑ってしまった。
アダムドライバーの図体と田舎町の雰囲気に似合わない、近未来的なエコカーは最高のギャップを生んだ。
あとどうでもいいが、エコカーが無駄に速いところも笑いを誘う要因だったことは間違いない。
明らかに急いでない表情なのに、何故あんなにスピードを出したのか。
急アクセルと急ブレーキをかける必要が、どこにあっただろうか。
そもそも、ゾンビ映画でエコカーを出す必要は絶対にないし、異物でしかないのだが、時として異物はコメディ映画にとって大事なんだと痛感させられた一作であった。
ちなみに、エコカーの音響はスターウォーズの車両の音響から取ってきているらしい笑 なんともマニアックな引用の仕方なんだ。。
小ネタ徹底解説
小ネタを知らなくても本作は十分面白い。が、小ネタを知るともっと面白い!
オマージュはロメロだけじゃない。分かりやすいものから、そんなの知るかよ!とマニアックなネタまで、解説していきたい。
・「吸血鬼ノスフェラトゥ」のTシャツ
雑貨屋の店主が着るTシャツに描かれていた「吸血鬼ノスフェラトゥ」。これは1922年のドイツ映画のタイトルであり、ホラー映画の元祖とも言われている。
また、「吸血鬼」を映像で見せた先駆的な映画であり、ドアを開けてもらわないと家に入れなかったり、美女が襲われたり、首元を噛んだり、、などなど吸血鬼のルールは本作で作られたと言ってもいい。
ジョージ・A・ロメロへのオマージュが目立つが、ホラー映画の元祖的作品にも言及していたのである。
・「ひどい結末になりそうだ」
アダム・ドライバーが何度も言うセリフ。これは明らかにスターウォーズからの引用で、「嫌な予感がするぜ」というセリフから転じて用いられている。
ちなみにスターウォーズシリーズではどの作品にも「嫌な予感がするぜ」というセリフが一回以上使われている。
・「鍵に付属していたスターウォーズのおもちゃ」
これもスターウォーズへのオマージュ、、というか皮肉笑
三角形のデザインはおそらく、スターデストロイヤーだと思われる。
アダム・ドライバーがカイロ・レンとしてスターウォーズに出演しているため、そのパロディだと思われる。
・「墓の名前がサミュエルフラー」
サミュエルフラーは映画監督で、ジム・ジャームッシュが尊敬している映画人の1人。
これだけはイジることもなく、さりげなく墓石が置かれている。
・「物質主義の遺物」
ラストに流れる謎のナレーションは、ジョージ・A・ロメロがゾンビ映画に込めた裏テーマ。死んでもダイナーや店舗に群がり、モノを求めるゾンビたちは現代人の象徴だとロメロは定義した。
・「ピッツアバーグ出身」
若者3人組について、「ピッツァバーグ出身に違いない」とアダムドライバーたちが話し合うシーンがあるが、ピッツアバーグはロメロの出身地であり、ゾンビ映画の発祥とも言われている。
・「テーマソングのスタージルシンプソン」
ギターを引きずって歩くゾンビは、スタージルシンプソン本人である。
・「Keep America White Again」
嫌われ者のフランクが着けている赤い帽子。
誰が見ても分かる通り、「Make America Great Again」をキャッチコピーにしたトランプ大統領の皮肉である。これもロメロの引用と同じように、あまりにモロな出し方で思わず笑ってしまう。
・「おーい、ラムズフェルド」
フランクは犬に「ラムズフェルド」という名前を着けているが、おそらくアメリカのラムズフェルド元国防長官をいじったモノだと思われる。
ちなみに、ラムズフェルド国防長官のファーストネームは「ドナルド」である。
まとめ
独特のアイロニカルなギャグと、ゾンビではあるが死を軽視するような作りは、人を選ぶ映画ではある。
しかし、必ずしも予備知識が必要な映画ではなく、アダム・ドライバーのオフビートな演技やダイナーでの天井ギャグ。
さらに、ティルダ・スウィントンの柔道着と日本刀を組み合わせたビジュアルも、何も知らずとも笑える。
スターウォーズのオマージュなど、分かりやすいものもあり、自分がどれだけ映画を知ってるのかを試す映画としても使える。
まぁ、そんなことは関係なくただ爆笑してもらえればそれで良い。こんな時期だからこそ、ブラックユーモア溢れるコメディ映画で笑って、ガス抜きをしてみてはいかがだろうか。
80点 / 100点
