- はじめに
- あらすじ
- デミアンチャゼルは今作で何を狙ってるのか?
- 映画の感想
- こんな宇宙飛行士映画、見たことない
- アームストロング船長のキャラは映画向きじゃない
- 月面着陸のシーンで全てが報われた
- フィルムのにをい
- 音響が凄ズリング
- もっとも褒めるべきは、脚本
- ラストのララランドシーンで、チャゼル監督のテーマが見えた
はじめに
今回公開する映画はこちら!
「ファースト・マン」
それでは「ファースト・マン」、感想・解説、ネタバレありでいってみよー!!!!
あらすじ
・「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督&主演ライアン・ゴズリングのコンビが再びタッグを組み、人類で初めて月面に足跡を残した宇宙飛行士ニール・アームストロングの半生を描いたドラマ。ジェームズ・R・ハンセンが記したアームストロングの伝記「ファーストマン」を原作に、ゴズリングが扮するアームストロングの視点を通して、人類初の月面着陸という難業に取り組む乗組員やNASA職員たちの奮闘、そして人命を犠牲にしてまで行う月面着陸計画の意義に葛藤しながらも、不退転の決意でプロジェクトに挑むアームストロング自身の姿が描かれる。アームストロングの妻ジャネット役に、「蜘蛛の巣を払う女」やテレビシリーズ「ザ・クラウン」で活躍するクレア・フォイ。そのほかの共演にジェイソン・クラーク、カイル・チャンドラー。脚本は「スポットライト 世紀のスクープ」「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」のジョシュ・シンガー。
デミアンチャゼルは今作で何を狙ってるのか?
www.machinaka-movie-review.com
もう↑の記事で、本当にブログが潤った時期があって、デミアン監督には頭が下がらないんですよ。
そして、今もジワジワとアクセスが来ております。特にアメブロの方で。
いつもお世話になっております!!
にしても、これまで音楽、音楽、とジャンルが似通ってたのに対して、今度は全く違う宇宙モノになっているという衝撃。何を狙ってるんでしょう、監督は。
ヌーベルバーグが好きだっていう話は聞いてて、テクニカラーが流行った60年代フランス映画のリスペクトもあり、めちゃくちゃ映画好きということもあり色んな映画からパクってるオマージュを捧げてたり、若くながら引き出しが凄いんですよ。
ただ、一つ一貫してるのは「CGを使わない、リアル志向」ってことですね。
「ララランド」でも実際の高速道路を止めて撮影したり、ワンカットで臨場感出したり、CGを使ったり現代の編集技術を使えばどうにでもなるようなことを、あえて実際にやってるんですよね。
そして今回のファースト・マンでも宇宙船の環境を実際に作って、大掛かりなセットで撮っているらしいです。
なんでここまでリアル志向なんだろう、彼は一体何を狙ってるんだろう。
いろいろ思ったのですが、宇宙モノでCGを極力使わずリアルで撮るってことを知って、ある仮説を思いついてしまいました。
チャゼル監督は今作を通して、またしても「アカデミー賞」を本気で狙ってるんだと思います。しかも、狙ってるのは咲く品種ではなく「視覚効果賞」を。
彼の原動力は、やはりアカデミー賞を撮ることにあると思うんですよ。
宇多丸さんが言ってたんですけど、チャゼル監督は間違いなくアカデミー賞を狙ってるんですよ。それが映画にも出ている、と。
「ララランド」で車から流れるカーステレオがアカデミー賞にちなんだモノだったり、ミアのオーディションシーンをたくさん入れたり、アカデミー会員が喜びそうなものを取り入れてるんですよね。
ということで、彼は宇宙を題材とした映画でどうやって評価されるかを考え抜いてるんだと思います。
現代のアカデミー賞において、アカデミー賞を取る宇宙を題材した映画の共通点、それは「CGを使わずリアルに撮る」ことなんですよね。
「ゼロ・グラビティ」、「オデッセイ」、「スターウォーズフォースの覚醒」、「インターステラー」、などなど、実際に大掛かりなセットを使って撮ってる映画が評価されてるんですよ。
だから今作も、アカデミー賞に引っかかる可能性は十分にあるわけです。
実際にどんな映像が待ち受けているのか、まだ予告しか見てない私ですが、続きは映画館で楽しんでみたいと思います!!!
映画の感想
数多くの宇宙飛行士モノを見てきたけども、こんなに静かな映画はねぇ、、、!!
こんな宇宙飛行士映画、見たことない
はい、実は公開前から、非常に静かな映画だと聞いておりました。
これまで宇宙飛行士映画と言ったら、エアロ・スミスの音楽が流れてきて全地球が宇宙飛行士の姿を見守って、ドラマチックに激しく描くのが当たり前だったと思います。
ちょっと昔の映画ですが、火星でディスコソング流して踊ってる映画もありましたしねw
www.machinaka-movie-review.com
とにかく、宇宙といえばその壮大な規模に見合った、壮大な音楽が流れて、まるでヒーロー映画のように盛り上げる作風が世の常だと思います。とにかく派手がモットーなんですよ。宇宙モノって。
が、今作はそんなよくある宇宙飛行士ものでなく、極力ドラマ性を排除した、まるでドキュメンタリーのような映画でございました。
セッションやララランドであれだけ派手なシーンを演出していたのに、この変化はなんなんだ、、、。
最初のシークエンスからおかしいんですよ。いきなり飛行機に乗ったゴズリングが映り、轟音とともに地面に着陸するシーンから入るんです。
ゴズリングが何者か、今はいつなのか、何も情報がないまま、いきなり非日常の空間に誘われるんですよね。
その後、ゴズリングと娘が仲良く遊ぶシーンが描かれ、あたたかすぎるアメリカの家庭像が映りこみます。
何、この落差。。
と思いきや、割と序盤に、ゴズリングに信じられない悲劇が訪れてしまうんですよ。これ、アームストロング船長の実体験に基づくものらしいんでネタバレじゃないですけど、あまりアームストロング船長のプライベートについて知ってる人は少ないと思うので、ここでは伏せたいと思います。
で、あんなに悲しいことあったのに。あったのに、、、
ゴズリング=アームストロングは、めげずに仕事を続けるのです。
アームストロング船長のキャラは映画向きじゃない
普通の映画だったら、アームストロングに起こった悲劇を表現するために泣き叫んだり、ドアを叩いたり、とにかく感情を精一杯表現するはずなんですね。
しかし、今作のアームストロングは眉毛ひとつ動かさず、悲劇が起こった後でも平然と宇宙飛行士の面接に向かっていく。
そして、試験に合格したという電話が掛かってきて、家族に報告するときも
「あ、受かったわ」
えええええええええええええ!!!!!
ええええええええええええええええええええええ!!!!
おいおいおい、お前の感情の起伏どうなってるんだよw
嬉しいだろオイ嬉ゴズリングだろおおおおい!!!!
このアームストロングのリアクションを、我々の生活シーンに例えるとですね、
年末ジャンボ宝くじで7等賞(300円)取った時くらいのリアクションなんですよ!!!!
「あ、当たった」
その程度の喜びしか表現しない男なんですよww
何でこんなに演出が控えめなんだよ。控えめすぎるぞww
と気になって調べてみたら、アームストロング船長は実際に感情を出さない性格だったらしく、この映画はアームストロング船長の性格を忠実に再現してるんですよね。
これはIMDBからの情報ですけどね、アームストロング船長の息子二人が今作を見て、「お父さんそっくり」と証言したらしいですよ。
家族相手にすらも、感情を表に出さなかった船長。あまり仕事のことを話さない、おとなしい、静かな、、そして秘密主義な男だったらしいです。
よく言えば冷静沈着な男なんですが、そんな人って映画の主人公にしづらいですよね。。。
何でここまで現実のアームストロングに寄せたんだろう。何でこんなにリアルにしちゃったんだろうなぁ、、って思ってしまいました。
こっちは映画を見にきてるんだよ、劇映画を。
ドキュメンタリー見に来たわけじゃないんですけど。。。
って最初は思ってたんですけどね。。
月面着陸のシーンで全てが報われた
そんな静かちゃんなゴズリングをひたすら見て、仕事の疲れか眠くなりながら鑑賞してきたんですけど、最後に全てが報われました。。
これ、ネタバレかなぁ、、、大丈夫だと思うので、言っちゃいますね。
何と!!!
アームストロングは月面着陸に成功するんですよ!!
そして何と、、
アームストロングは地球に無事戻ってきます!!!
いやぁぁぁ、、想定外でしたねwww 嘘ですよw
これで「ネタバレしてんじゃねぇよ!」って言われたら、学校行き直せって言いますけどねww
はい、そんな誰もが知ってる月面着陸のシーンですが、気づけば私、ボロボロと涙を流してたんですよね。
これまで控えめに控えめに、まるでドキュメンタリーのように作られた作風のままで、月面着陸の時にもそこまで壮大な音楽が流れることもなく、非常に淡々としてるんですが、リアルにリアルが重ねられると、それだけで映画って人を感動させる力があるんだなぁと改めて思いました。
この映画、絶対に最後は結末が分かってる話なんですよね。
だからこそ、仰々しく派手な演出したり、ドキドキハラハラさせるような作りにしてしまうと、逆にしらけてしまう。だって「どうせ生きてるんでしょ!」って思わざるを得ないですからねw
絶対に無事に月に到着するし、地球に帰ってくる物語だからこそ、派手なドラマ演出を捨ててリアルにリアルを重ね、ライアン・ゴズリング主演の映画ではなく、アームストロング主演の、一人の男の物語として観ることが、大事なんだと思いました。
上記の文脈を踏まえると、冒頭の飛行機シーンは映画の世界に引き込むための重要なツカミであったなぁと感じるわけです。あそこで引きずり込まれるかどうかで、楽しめるかどうかが決まるわけでありました。
フィルムのにをい
何がそこまで映画をリアルにさせたかというと、まるで当時の映像のかのような非常にノイズの多い映像の数々。。
町山さんが言ってたのですが、地球のシーンは16mmフィルムで撮っているようです。16mmなので非常に解像度は低く、スクリーンに引き伸ばしたらせっかくのゴズリングのイケメソ顔が崩れちゃうわけですよww
もう現代の映画っぽくないわけですよ。ゴズリングではなく他の無名俳優を使ってたら、もう現代の映画じゃないくらいですよ。
しかも当時のニュース映像を交えながら映画が進んでいくんですけど、当時のニュース映像も16mmフィルムで撮られているため、全く違和感がない。むしろ映画の映像なのか、ニュース映像なのか、見分けがつかないほど。
薄暗く、そしてぼやけて、ふわふわしているような映像、、なかなか今の映画じゃ見られませんよ。だって俳優が綺麗に映らないですからね。。
今作を見て、真っ先に「キャロル」を思い出しました。。
www.machinaka-movie-review.com
音響が凄ズリング
そして、素晴らしいの音響も然り。
宇宙といえば女性の高音のような「ウウウーーウウウーー」と言ったような声が流れること、多くないですか? 例えが悪いんで、以下の動画をご覧くださいなw
"It'll Be An Adventure (from First Man)" by Justin Hurwitz
これ、今の時代なんかの音楽データからサンプリングして取ってきたんじゃないかって思うかもしれないですが、これ当時の楽器を使ってちゃんと録音して使ってるんですよね!!
アホか!(褒めてます) 非常に細かいところにこだわってるんですよね、この映画w
細かいといえば、月面着陸した時にずっと「〜〜〜と、さぁ、、、 あーのー、、」みたいな話し声がずっと聞こえてませんでしたか?
しかも、その時は全くの無音の状態だから(月は空気がなくて無音だから、音がないことを演出してると思われる)、話し声がすごく目立つんですよ。
私は思わず、「上映中に喋るんじゃないよ!!!」って周りの観客にすごくイライラしたんですが、後で調べてみると、これ当時の通信記録から採取してきた「生の音声」を流してるらしいんですよねww
具体的にはヒューストン宇宙局から月に向けて、会話してる音声をそのまま使ってるらしいんですよ。
この音のこだわり、、そこまでやるかね?ちょっっと。。。
正直、何言ってるか訳わかんなくて、これ意味あんのかよ。。って思ったんですけど、あとあと考えてみるとこれもリアルな宇宙飛行を演出するためには必須だったのかもしれません。
もっとも褒めるべきは、脚本
はい、ここまで奥歯にもの挟まった話方してしまいましたが、今作で重要なことを言ってませんでした、はい。
重要なネタバレを含むので、ここからは閲覧気をつけてください。
はい、では行きますよ?
アームストロングさんよ、あんた娘が死んでなんであそこまで冷静でいられたんだい!? なぜ面接受けたんだい!?
周りの宇宙飛行士仲間が死んで死にまくっても、なんでまた宇宙船に乗ろうとしたんだい!?
娘が死に、仲間が死に、、死の匂いしかしないのに、なぜあんたは宇宙に行きたがるのかい!?
はい、これまでは映像とか音響とか技術面を褒めてきましたけど、今作でもっとも褒めなければいけないのは脚本ですよ。
これまでの宇宙飛行士ものには絶対になかった、宇宙飛行士の悲しすぎる現実を描いてるんですよ。それを惜しみげなく出して、映画のバランスや面白みをなくすくらい、非常に冒険的な脚本だったと思うのです。
キャラクターの人生がここまで悲壮的で、伝記的には褒められるべき人なのに、決してこの映画ではそう描かれてない。
社会の教科書には絶対に載ってない、悲しすぎるアームストロングの人生に、私は完全にやられてしまいました。
しかし、最後の最後に全てを回収するような、あの月面着陸シーン。
「地球は青かった」という名言もあるように、月から地球をみると海が目立つんですよね。まさに「母なる大地」という表現がぴったりくる。
地球を見つめるアームストロングは、そこで真っ先に思い出すのは、序盤に亡くなってしまった娘カレンなんですよ。
しかし、月面着陸という重要なミッション中ということもあり、どれだけ目を凝らしても涙を流してない。加えて、ポーカーフェイスに見せるためなのか、ヘルメットにサングラス加工のような球面をつけることで、どんな表情をしてるのか、分からない作りをしてるんですよ。
まぁねぇ、あそこまで悲しいことが起こったり、月面着陸シーンという感動が押し寄せるシーンであっても、アームストロングは微動だにしないのです。
そんなことされたら、逆に観客は感情を揺さぶられて、泣いてしまいました。
テレビは受動的、映画は能動的と言いますが、観客が主人公の感情を補完するかのような作りに、思わず涙がポロポロ流れた訳です。
ラストのララランドシーンで、チャゼル監督のテーマが見えた
www.machinaka-movie-review.com
いつもチャゼル監督って、最後のシーンは非現実的なシーン=ララランドシーンを挿入するお決まりになってるんですよ。
「セッション」では現実にはありえない、武道派ドラムを叩きだしたり
「ララランド」では、ミアがオーディションに受かり、二人が幸せに生活、、という夢見心地なシーンを見せたり
そして今作では、死んでしまったカレンと遊ぶシーンが流れる。。
なぜここまでララランド・シーン=夢のような回想やシーンを流すのでしょう?
また、それとは対照的に、チャゼル監督の主人公には共通点があるんです。
それは、「主人公は大きな夢という対価をつかむために、相応の犠牲を払っている」こと。