- まえがき
- あらすじ
- 「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」のネタバレありの感想と解説(全体)
- まるで雑誌を読んでいるかのような
- 今まで見たことのないモノクロとカメラワーク
- 極私的ZINEが世界に羽ばたいた瞬間
- まとめ
まえがき
今回批評する映画はこちら
「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」
それでは「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・「グランド・ブダペスト・ホテル」「犬ヶ島」のウェス・アンダーソン監督が、フランスの架空の街にある米国新聞社の支局で働く個性豊かな編集者たちの活躍を描いた長編第10作。国際問題からアート、ファッション、グルメに至るまで深く切り込んだ記事で人気を集めるフレンチ・ディスパッチ誌。編集長アーサー・ハウイッツァー・Jr.のもとには、向こう見ずな自転車レポーターのサゼラック、批評家で編年史家のベレンセン、孤高のエッセイストのクレメンツら、ひと癖もふた癖もある才能豊かなジャーナリストたちがそろう。ところがある日、編集長が仕事中に急死し、遺言によって廃刊が決定してしまう。キャストにはオーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンドらウェス・アンダーソン作品の常連組に加え、ベニチオ・デル・トロ、ティモシー・シャラメ、ジェフリー・ライトらが初参加。
「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#フレンチディスパッチ 」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2022年1月29日
まるで絵本のような、というお決まりの作風紹介が似合わない大人向けの雑誌記者活動写真。
いつものシンメトリーに奥行き方向のカメラワークが加わり、スクリーンの向こう側にある何かを期待させる。
マットでファンシーな色彩を制限しモノクロを多用するのも意欲的。 pic.twitter.com/fFhlwQseOj
まるで雑誌を読んでいるかのような
今まで見たことのない、ウェス・アンダーソンの新たなる挑戦が伝わってくる意欲作。
フレンチ・ディスパッチという雑誌の編集長と記者たちの物語を中心に、短編を何本かにまとめて描かれているが、まるで雑誌を読んでいるような感覚に包まれる。
普通、映画は3幕構成であることが多いし、物語の構成は起承転結としての理解に慣れている我々にとっては、必ずしも消化しやすい作品ではなかった。
しかし、これは造り手が意図したことであって、雑誌全体=映画の全体像を把握することは困難な内容になっている。
なぜなら、今作は雑誌全体のうち何本かの記事に絞って短編として作っているから。
雑誌のすべてを把握するには何倍もの上映時間が必要になるだろう。
今回は①精神病棟内で活動する画家、②自転車に乗りながら街を取材、③学生運動の取材、④子供誘拐を取材、といった短編があり、それを挟むように編集長にまつわる話が描かれる。
すべての短編が明示的な関係性を持っているわけでもなく、どれもクセが凄すぎる記者の個々の物語を味わうことに主眼が置かれている。
だから、映画全体として良く出来ている・出来ていないの評価というよりも、個々の記事=短編で面白かったポイントを挙げていくのが今作の正しい見方ではないだろうか。
そういう意味では、十二分に楽しめる内容だった。
全部が全部好きじゃなくても良い、正直中盤は少し眠くなったりもした。
でも、それが雑誌の本質ではないだろうか。
例えば極端に幼稚だが、ジャンプコミックスに連載されているすべての作品に目を通し、全て良かったと評価する人が何割いるだろうか。ほとんどいないだろう。
だから、臆することなく「この短編が良かった!後は微妙。。」と言っていい。
個人的には、やはり最初の①精神病棟内で活動する画家、の短編が抜群に面白かった。
今まで見てきたウェス・アンダーソン味が一番色濃いのは、最初の短編だろう。
最初は単なる画家とモデルという関係に見えたベニチオ・デル・トロとレア・セドゥー。しかし、話が進むにつれて意外すぎる関係性の逆転が面白く、シュールコメディとしての完成度が非常に高い。
何よりレア・セドゥのあの肉体。。目玉が飛び出そうなほどの驚きだった。まさか、彼女があんな姿になるなんて・・・
あれは週刊誌で言うところの袋とじグラビアだったな(違う)。
今まで見たことのないモノクロとカメラワーク
また、今作の特筆ずべきところは、ウェス作品の中でも珍しいカメラワークと配色。
今まではスクリーンに対してうスクリーンに対して水平方向や鉛直方向に移動数のが常だったが、今回は奥行方向へとカメラが移動するのが特徴的。
いつもウェス作品は2Dのアクションゲームをプレイしてるようなカメラの動かし方で、妙に早いキャラの動かし方も相まって面白い動きをする絵が見れていた。
しかし、今回は3軸的にカメラを動かして、奥行きを足しただけで無限の可能性を得たような映画に見えるのが面白い。
特に面白いのは縦に長い美術を多用していること。細長いフレンチディスパッチ社のビルはもちろんのこと、驚いたのは縦に異様に長い机。
これを下辺から上辺に移動するようにカメラがズームインしていき、役者はもちほんだが美術が1番目立つようにも思えて、美術好きとしては嬉しいことこの上ない。
また、モノクロの絵が中心になることで、これまで異彩を放っていたマットでファンシーな色彩を見続けることは無くなった。この色彩のコントロールは凄い。
決して過去の映像=モノクロといった、時系列のフィルターを使って色彩の有無を切り分けている訳ではない。ただ純粋に、見せるべきところで色を見せるやり方で、観客としてはいつ色付きの映像に切り替わるのかとドキドキしながら鑑賞出来るのも魅力だ。
極私的ZINEが世界に羽ばたいた瞬間
今作は、ウェス監督が学生の時に出会った雑誌「ザ・ニューヨーカー」を元にしている。
#フレンチ・ディスパッチ
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2022年1月29日
の元ネタとなった米雑誌「ニューヨーカー」。
こちらもクセが強そうな表紙だぜ。。 pic.twitter.com/TK2QQgUFZ8
映画の構成も、登場人物も、全ては元の雑誌がメインになっている。
ウェスはテキサス生まれテキサス育ちの人だが、テキサスのイメージとは無縁である。
彼がニューヨーカーと出会ったのは高校生の時で、以降雑誌のコレクションをし始めたという。
ニューヨーカーの表紙を見てもわかるように、ウェスはニューヨーカーからデザイン的な影響を大きく受けている。
彼が使う美術や衣装は常に洗練されていて、全く光沢感のないマットで薄明るい色が多い。黄色やピンクや水色など普段は差し色として使われる色が、ウェス作品の中では主役になり輝きを放つ。
そんな大胆な色使いに惚れ込んできた私だが、それはニューヨーカーの表紙デザインからも窺える。
なので今回は、ウェス・アンダーソンが「ニューヨーカー」のZINEを作ったような印象を覚える。
サーチライトピクチャーズ、賞レースの常連だけど、よくこんな私的なものを作ろうと思ったな。。
まとめ
正直、かなり面を喰らってしまい、全てが全て楽しめる作品ではなかった。
しかし、これぞ今作の特徴であり、お気に入りの記事=短編があれば儲けものだろう。
何回か見直して、映画全体=雑誌全体を知りたくもある。
94点 / 100点