Machinakaの日記

新作映画の情報・批評を、裏ネタ満載で包み隠さずお届け




映画「半狂乱」ネタバレあり感想解説と評価 ミッションインポッシブルな青春舞台劇の傑作!

こんにちは! 

 
Machinakaです!! 
 
Twitterもやってます!
 
 
 
この記事では、「半狂乱」のネタバレあり感想解説記事を書いています。
 
 目次
 

まえがき

 

 

今回批評する映画はこちら

 

「半狂乱」

 
 

f:id:Machinaka:20211110173954p:plain

2021(C)POP CO., LTD.
 
絶対に見なければいけない作品。
そして、見たくなった作品。
 
私と知人が運営している映画番組「おれなら」にて、今作の監督である藤井秀剛監督がゲストとして出演頂いた。昨年の「超擬態人間」公開時にも出演いただいたが、フルタイムで参加頂いたのは初。
 
監督の歯に衣着せぬ発言が見ものなので、是非ともご覧頂きたい。現役の監督が他の映画についてアレコレ語っているのも珍しく、その内容は我々の予想の遥か斜め上をいく正直な感想だったので、感心しつつ大いに楽しませて頂いた。
 
念の為伝えておくが、下ネタの発言が多く含まれるため、苦手な方はご注意に願いたい。

 

 
 
断っておくが、監督と直で喋ったからだとか、ゲスト出演いただいたから恩返しするだとか、そんな理由で見に行く訳ではない。
 
劇場を占拠した事件(実体験が元になっているらしいが・・)を映画化した作品を、映画館という劇場で見る行為は、映画内の出来事を追体験することに等しい。
 
映画で起きていることと、自分との距離がゼロになったその時だけは、虚か実かの見極めがつかなくなり、唯一無二の映画体験ができる。
 
このような高いシンクロニシティを持つ映画は多くない。貴重だ。
 
映画館で見る意義がある作品。だから、行くしかない。

 

それでは「半狂乱」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。

 

 
 
 
 

あらすじ

  
「狂覗」「超擬態人間」の藤井秀剛監督が、生きにくい社会に対する怒りをテーマに描いた青春クライムサスペンス。ある劇団の舞台公演の初日。劇場の客席は、開演を待つ200人の観客で埋め尽くされていた。しかし、舞台袖で起こった事故により、団員の一人が瀕死の重体に陥ってしまう。座長は公演の中止を決めるが、反発した団員の樹志は劇場の扉に鍵をかけ、日本刀片手に観客を脅し、観客を監禁するという暴挙に出る。その行為の背景には、大劇場での舞台公演を控えた役者たちが抱き続けていたある苦悩があった。

半狂乱 : 作品情報 - 映画.com

 

 
 
 

「半狂乱」のネタバレありの感想と解説(全体)

 

 

 

人生の一発逆転を賭けるミッションインポッシブルな青春舞台劇の傑作!

役者を夢見る29歳の若者たちが、人生の一発逆転を賭けて舞台に挑む青春映画であり、クライムサスペンス。

 

彼らの蛮行は、紛れもない反社会的行為で社会一般的に決して許されるものではない。

しかし、29歳になっても「何者」にもなれず、「社会」に馴染めない彼らにとっては、そんなものは関係ない。

 

夢はあるが、夢で終わる。

大人の我々には到底想像できないような焦燥に駆られ、必死に夢を現実に変えようとする。

 

自分を中心に回るセカイ系の中で、もがき苦しみながら何かを表現しようとする若者の姿に、かつて「何者」でもなかった自分がシンクロし、終盤では涙した。

 

若者の青春と犯罪を絡めた作品は数多くあるが、ここまで痛々しく、生々しい作品もない。

 

ここまで若者の気持ちに寄り添えたのも、映画自体が面白かったからに他ならない。

 

最大の勝利要因は、ミステリー・サスペンス映画ならではの快楽を高頻度にに摂取することによって、1秒先の画面にすら気がかりになる作りに仕上げている点だ。

 

冒頭から大量の謎が散りばめられながらも、開演まで容赦なく進んでいく時間。いよいよ開演かとその時、過去に遡っていき舞台に至るまでが描かれていく。

 

少しずつ解きほぐされる謎。ミステリー独特の快楽を得るのも束の間、再び時間は舞台開演に戻り、新たな謎が提示されていく。

 

事前に監督の映画の好みを聞いていたので分かっていたが、ミステリー・サスペンスの偏愛的な情熱が、映画に十二分に浸透している。

 

もっと知りたい、もっと見たい。

 

1秒たりとも飽きずにスクリーンに目を落としていたら、気づけば上映が終わっていた。

 

最初はただの演劇のように見えていたのだが、劇場が閉鎖されて以降、カオスな空間と化す。

 

数多くの映画で拷問や脅迫、凌辱のシーンを見てきたが、他の作品とは圧倒的に異なる点がある。

200人近くのエキストラの前で、陰惨な犯行をやってのけたのだ。

 

特に、舞台に出演する女優が劇場閉鎖事件の首謀者(同じ舞台役者)の指示によって凌辱されるシーンは見ていて苦しくなる。

役者やスタッフならともかく、200人近くのエキストラの前で裸にされるのは、想像に堪えない。

美里朝希という女優が演じているので、ぜひ名前を覚えておいてほしい。

 

また、今作の特徴は、演劇の会場が舞台の中心になっている点。

 

劇中で演劇を見る観客は、映画を見ている我々と同じ状態となり、自然に自分と映画がシンクロする。

 

しかも今作の場合、とあるトリックが仕掛けられている。

 

劇中の舞台には200人の観客で満席。

同じく、現在唯一の上映館となるヒューマントラスト渋谷のシアター1も、最大200席の収容人数となっている。

 

映画館のご案内 | ヒューマントラストシネマ渋谷

 

劇場営業の方、よくぞ見つけて探してくださった。

 

本当にお疲れ様です!!

 

 

 

明確な意図を持った過去と現在の往来的編集

 

誰もが強烈な印象に残る編集。

 

「狂視」でも見られたように、現在(舞台開演)と過去(舞台に至るまで)が交互に往来する編集が特徴的だ。

 

こういった編集は、正直、あまり得意ではない。

 

現在の話を真っ先に見たいというのが本心で、過去のシーンばかりを挟むと現在の進行が滞り、テンポが悪く見えてしまうからだ。

要は、単なる回想のように思えるシーンが多く続くと、全体が間延びしているように感じてしまうのが嫌で仕方ない。

 

過去にも、こうした編集には苦言を呈している。

 

アンチ・ヒーローならぬウンチ・ヒーロー映画の誕生!! 元カミさんを見返した「男の威厳の奪還」型映画!! 「デッドプール / Dead pool」批評 - Machinakaの日記

 

映画「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」ネタバレあり感想解説と評価 DCコミックがようやく獲得したワイルド&ラフな女性像 - Machinakaの日記


が、今作の編集は上記と似ているようで全く異なる。

 

単に現在と過去を往来するのではなく、その編集自体に明確な意図が含まれているからだ。

 

その演出意図とは、舞台の「表と裏」を交互に見せることにより、真実を浮かび上がらせている点。

 

 
舞台公演のシーンが「表」だとしたら、過去のシーンはその「裏」にあたる。
舞台の首謀者である杉山が言っていたように、この舞台では「表も裏もない世界」を目指している。
 
だからこそ、ただの演技ではないリアルすぎる芝居が炸裂する。
 
今作ではそんな「表も裏もない世界」を表現するために、編集によって表と裏の境界を挟み撃ち的に除去していく。
例えば、最初の過去シーンは舞台公演から6ヶ月前となっているが、次は5ヶ月前、4ヶ月前と現在との時間隔が漸減する作りとなっている。
 
そして後半では、現在と過去の時差がなくなると同時に、杉山が目指した「表と裏がない世界」が編集的に構築されているのだ。
 
また、表と裏が無くなるのは、時間だけではない。空間も同様だ。
現在である表は舞台公演だが、過去である裏は舞台から遠い地点から始まる。そして、時間の漸減と同様に、次第に公演会場へと近づいていく。
 
つまり時空間的に表と裏のない世界が、編集によって作り上げられていく。
 
このような観点で映画を見れば、決してテンポが悪いとは思えないだろう。
むしろ、このような編集をやってのける作り手が世界にどれだけいるだろうか。
 
 
 

異様な劇場の熱気!唯一無二の映画体験!

まだ興奮が止まらない。

 

先週、藤井監督をゲストに迎えて、私が出演する映画番組「おれなら」で熱い映画トークをさせて頂いた。

 

なんと、その時に出来立てホヤホヤの予告編を私の番組で流して頂いた。完全な余談だが、その予告編を放送画面に取り込みレイアウトしたのは私の作業だった。

 

これまで幾度もなく舞台挨拶で監督を見てきたが、事前に直接会話したことのある、俗な言い方をすれば「知り合い」の監督の作品を劇場で鑑賞し、トークを聞くのも初めて。

 

あくまで私個人の相対的な印象に基づく話だが、この映画は自分との関係値が深すぎる作品だ。

 

しかし劇場に入ってみれば、まだゲストが来ていないにも関わらず、異様な熱気を放っていた。

ゲスト登場後に明らかになったのだが、今作に出演した俳優も座席にいたようで、もちろん劇中の舞台を鑑賞したエキストラもいた。

鑑賞が始まる前から熱い会話が飛び交い、まるで関係者限定の試写会にお呼ばれしたような感覚に包まれた。

 

一般の試写会やマスコミ試写会にも参加したことがあるが、やはり他人行儀な観客ばかり(当たり前)。ユーロスペースに来るような熱い映画ファンたちの集まりとも少し違う。

今作の舞台挨拶付き上映は、実際に映画に関わった人たちが集結していたのだから、親近感の沸き具合は他とは比較にならない。

 

私も、少しばかりではあるが、監督やプロデューサーとお話をさせていただき、僅かではあるが「半狂乱」の宣伝に貢献できた存在という意味では、同じく「関係者」である(大袈裟な言い方)。

 

私は、この日を忘れない。

 

ヒューマントラストシネマ渋谷という知るひとぞ知る著名なシアターで、関係者が集まり熱気ムンムンの映画体験を出来たのだから。

 

なお、舞台挨拶では文章化するのもはばかられる刺激的なトークで、映画同等にドキドキハラハラさせられた。

自由奔放な発言をする監督。それに喜んで応えるキャストたち。この信頼関係。。なんて素晴らしい人間関係なんだろう。

 

モノづくりをする最適な人間関係の一面を垣間見た。まぁあくまでも、外側から見た印象ではあるのだが。

 

 

 

まとめ

心から、劇場で見るべき作品だと思えた。

 

劇中と同じく200人収容の会場で演劇を見る。その時、観客と劇中のエキストラが完全にシンクロする。

 

映画の楽しみ方は無限にあれど、私が至上の喜びとするのは、映画と自分との接点を見つけた時だ。

 

この映画は、あまりにも自分との接点が近い。ただ劇場に座り、スクリーンを眺めているだけで、自然と映画の中に誘われる。

普段このような見方をしない人も、映画と自分とのシンクロ率について考えてみてはいかがだろうか。

 

また余談だが、随所にブライアン・デ・パルマ好きが十二分に伝わるシーンも魅力的で、青春舞台劇になぜか「ミッションインポッシブル」や「ファントムオブパラダイス」を彷彿とさせるシーンが含まれており、観客を飽きさせない。

 

上質な青春クライムサスペンス映画でした!!

 

藤井監督、スタッフ、キャストの方々、ありがとうございました!!

 

95点 / 100点 

 

f:id:Machinaka:20210716010226j:plain

 
 
 以上です! ご覧いただきありがとうございました!
 
 
 
© 2015,machinaka.hatenablog.com