まえがき
今回批評する映画はこちら
「ハッチング 孵化」
謎の巨大卵を抱える少女が印象的なこちらの映画。
巨大なうずら卵のようにしか見えないんですけどね。
オムレツ何個分作れるかなと妄想してしまうのは私だけでしょうか。
北欧の映画はこのあいだデンマークの「アナザーラウンド」が上映されましたけど、今度はフィンランドです。
おそらく、初めてのフィンランド映画かもしれません。
フィンランドと言えばサウナ。・・・私、サウナ大好きなんです。
見事にととのうことが出来る映画なら良いんですけどね、予告を見た感じ凄く不気味で嫌な映画に見えます。
はぁ、、、ホント見たくない。
今週見るもの無いんですよ。でも、新作を見ないわけにはいかないんですよ。
チネチッタでハッチング予約
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2022年4月15日
正直そこまで見たい映画じゃないけど、新作を見てその日のうちにブログを書くというライフスタイルを崩すのが嫌だから
楽に週末を迎えるよりも少し高い壁を登った方が、週末の景色は美しい
より楽しい週末を迎えるためにはブログ必須なんですよ!!!
だから俺は、ブログを止めない!!
それでは「ハッチング 孵化」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・長女が見つけた謎の卵の孵化をきっかけに起こる恐ろしい事件により、家族の真の姿が浮き彫りになっていく様を描いたフィンランド製ホラー。北欧フィンランドで家族と暮らす12歳の少女ティンヤ。完璧で幸せな家族の動画を世界へ発信することに夢中な母親を喜ばすため、すべてを我慢し自分を抑えるようになった彼女は、体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。ティンヤが家族には内緒で、自分のベッドで温め続けた卵は、やがて大きくなり、遂には孵化する。卵から生まれた「それ」は、幸福に見える家族の仮面を剥ぎ取っていく。監督は世界の映画祭で短編作品が高い評価を受け、今回が長編デビューとなる新鋭女性監督ハンナ・ベルイホルム。
物語としては、主人公のティンヤちゃんとその家族が中心となるファミリーホラー。
ママはSNSの動画配信に夢中で、理想の家族をカメラに収めるべく、時には強引に良き家族を作ろうとしている。
パパはママに意見せず、ただひたすらに笑っている究極の事なかれ主義者。
弟はそんなパパに似た影響か、子供らしくわんぱくな性格もありながら、基本的にはおとなしい。
そして主人公のティンヤは、ママの厳しい教育方針によって体操競技の練習に取り組む日々。家族の中では、最もママに虐げられているように見える。
ティンヤにとってママは絶対君主。日々練習を続ける体操も、もともとママが体操をやっていた関係でやらされている感が満載。
自分の意志を持って行動している様子が皆無。
幸せそうな家族に見えて、明らかに何かが破綻している。
そんな歪な家族の家に、一羽の鳥が舞い込んでくる。
動画撮影を邪魔されたママは、なんと鳥を一捻りで殺してしまう。
表情ひとつ変えず、動画撮影を続行するママ。何も言わないパパと弟。
ティンヤは恐怖を抱えながらも、ママの指示に従い続ける。
鳥の一件から数日後、ティンヤがとある場所から鳥の卵を拾ってくる。
自分の部屋で温め続け、非現実的な大きさにまでに成長する。
卵の中には一体何が眠っているのか。孵化の後に何が出てくるのか。
「ハッチング 孵化」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#ハッチング」鑑賞 マジで吐きそう。予想の斜め上を行くある描写によって俺の心はズタボログログロ。 しかし、あまりにも直接的で不快なその描写こそが、今作において非常に重要な意味を持つ。 家族という殻に閉じ込められた少女が羽ばたく… https://t.co/CiMfbxRhUA
胸糞にも程がある恐るべき北欧ホラー
マジで勘弁してくださいな・・・
僕の中の北欧イメージは、オシャレな家具と美しいオーロラ。
そして大好きなサウナ。。
華やかさと美しさ、そして癒しが詰まった憧れの神秘国。
・・・そんな私の幻想は見事に破壊されました!!!
どんなに美しいオーロラも、今作では真っ赤に血染めされてしまいます。
人体破壊はもちろん、無惨にもペットが殺される描写や嘔吐シーンもてんこ盛り。
普通のホラーでも隠すようなところを包み隠さない、悪い意味で胸が込み上げてくる。
そんな大胆不敵なグロデスク性を持ちながらも、それが映画のメッセージを伝えるためには必要不可欠な構成になっており、恐怖・残虐表現を通して少女の苦悩と解放を描く映像文学でございました!
途中までどうなるかと心配していましたが、ドラマとしても大変優秀な作品だったと思います!!
色々粗を探せば見つかるんですが、個人的には大満足でございます!!
似ている映画として挙げられるのは、同じく北欧が舞台の映画で「ミッドサマー」というホラーがありましたね。
あの映画と同じく、かなり苛烈なシーンが映ります。。
映画「ミッドサマー」ネタバレあり感想解説と考察 なぜ花が、なぜ「9」が多用されるのか?「◯と△」で読み解く神話的暗喩とは? - Machinakaの日記
何度も目を背けたくなったし少し後悔もしました。
基本的にどんなスプラッター表現もへっちゃらなんですけど、今回は嘔吐の描写が多くて本当に気が滅入りました。
要は、グロ映画は得意だけどゲロ映画は苦手なんです。
ただの嘔吐ならまだしも、今作は嘔吐したブツをむしゃむしゃと美味しそうに食べる描写が何度も何度も出てくるんですよね。。。
はい、もう書いてるだけで胸が込み上げてまいりました笑
後で説明しますが、嘔吐シーンにもちゃんと意味があるんです。
でも、あまりに生々しくゲロをパクパクするものだから、見てて実に苦しいものがありました。
他にもワザと仰々しく驚かせるジャンプスケアも多用したり、不気味な空気を漂わせるみたいな奥ゆかしいホラー表現は少ないです。
と言いつつも、序盤には後ろに少女が佇んでいるJホラー的な描写もあって、ありとあらゆる方法をつかって観客を怖がらせようとする努力が非常に伝わりました。
孵化するアイツはもちろんですが、私が一番怖かったのはママでした笑
あまりネタバレは出来ませんが、ママが本当に怖いんです・・・
見た目は美しくて清潔感もあって、確かに娘には厳しいけど恐怖の対象になるはずはない。そう思っていたんですけども、映画を見た後の私はダントツでママが怖い。
「ミッド・サマー」と同じくアリ・アスター監督の作品で「へレディタリー継承」がありました。あのトニ・コレット母ちゃんを思い出しましたね。もう二度と思い出したくなかったんですけども。。
映画「ヘレディタリー継承」感想ネタバレあり解説 映画館で死ぬかと思った - Machinakaの日記
ただこの映画では、ママのような一見美しく見える人が一番胸糞が悪くて、逆に醜いアヒルの子的なキャラが一番純粋なんですよね。
表面上は美しく見えるものも、実はハリボテだったりします。
美しく見せるために、汚い行為を平気で繰り返す人もいます。
何事も表と裏の両方に目を通し、モノの見方を立体的に。
そんな人生の教訓を得られるような映画でございました。
嘔吐シーンの真意を考察!
孵化したアッリは、何故かティンヤが嘔吐したものが大好物。
美味しそうにむしゃむしゃとティンヤのゲロを食べる。。
見ていて最も苦しかった嘔吐シーンですが、最後のショットでこの映画が何を伝えたかったのか頭に降りかかってきて、何とか耐えてよかったと胸を撫で下ろしました。
ただ気持ち悪い、と思う人もいるかも知れませんが、今回はなぜ嘔吐シーンが何度も描かれたのか考察したいと思います。
個人的に最も醜い描写が、今作にとっては最も素晴らしい表現となっていたからです。
嘔吐シーンの意味は二つあると思っています。
一つ目はティンヤが抱える苦悩や絶望を吐露させるため
二つ目はアッリとティンヤを表と裏の一心同体の関係として描くため
まずは一つ目の説明から。
ティンヤはいつもママの言い分を「飲み込んで」ばかりいる状態。
パパや弟にも言いたいいことが言えない。
体操の仲間からもハブかれている。
彼女は孤立しているのです。
ティンヤはもう、普通の方法では言いたいことが言えないのです。
だからこそ、一旦飲み込んだものを吐き出すことでしか苦悩を吐露できなかった。
彼女が一番大きく口を開けるのは、嘔吐シーンだったと思います。
食べたものを吐き出す。そして吐き出すということに心理描写を重ねている点では「スワロー」という映画がよく似ています。
「スワロー」は飲み込むことでストレスを吐き出していましたが、今作では吐き出すことで主人公を解放させていました。そういう意味では、今作と「スワロー」は対の関係であるように思えました。
二つ目の説明に入ります。
ティンヤが一度は飲み込んだ食べ物を吐き出し、アッリがその嘔吐物を食べるという構図が、今作最大の発明ですね。
美しいティンヤと醜いアッリの食べるものがあまりに対照的であり、二人が表と裏のような関係であることを誰が見ても分かりやすく描いています。
全ての感情を押し殺すティンヤに対して、本能のままに行動するアッリの行動の対称性が、表と裏であることを証明しています。
また、(食べ物を)飲み込むと吐き出すという関係も、表と裏を暗喩しているのでしょう。
映画の後半になるにつれて、アッリはティンヤの容姿に近づいていき、最終的には見分けがつかないまでに類似していきます。
なぜ、このような事態になったのでしょうか?
それは、一度はティンヤの体内に入った食べ物が、アッリの中に取り込まれていったからです。
ティンヤは意図せずに、自分の体の一部分をアッリに与え続けた。生物学的なロジックはさておいて、今作の映画文法的には鳥から人間になり得るんですよね。
アッリはティンヤの嘔吐物なしには生きていけない。完全に依存している関係です。
ティンヤもティンヤで、ママが殺めた鳥のことを気にかけており、卵を無下にすることなど出来なかった。気づけば離れられない関係になってしまった。
表と裏のような対照的な関係に見えて、次第に一体化していく。
これを嘔吐物の受け渡しで描くのは本当に素晴らしいです。
ホラーというジャンルを最大限に活かした表現だったと思えます。
よく考えれば、ティンヤとアッリの関係性に関しては、「体液」が重要なファクターになってますよね。
そもそもアッリが孵化するきっかけになるのも、ティンヤの涙が卵を濡らしてしまったこと。
そして終盤、ママが誤ってティンヤを殺してしまい、その際にティンヤの血がアッリの口の中に入ってから、アッリは言葉を発しますよね。
まるで遺伝子の伝播のように、体液で関係性が深まっていく。。なんとも悍ましく、映画的には素敵な関係だと思います笑
あ、そうそう!
表裏一体の関係で、一方が殺人を繰り返す映画といえば「マリグナント」がありましたね!
まだティンヤが殺人犯の正体に気づけない時までは、これマリグナントで見た見た!と妙に嬉しくなっていました笑
映画「マリグナント 狂暴な悪夢」ネタバレあり感想解説と評価 予想を裏切るワイルドでスピーディな超展開 - Machinakaの日記
まとめ
まさか、こんなに気持ち悪いとは。。。
ジャンプスケアは平気だったのですが、やっぱり嘔吐物をむしゃむしゃと食べるのが本当にキツくて・・・
今思い返すだけでも胸がいっぱいです!!
嘔吐シーンや残虐なシーンとは対照的に、ティンヤの家は北欧らしい明るい水色とピンクが基調になってるんですよね。パパと弟は家に同化するかのように、水色とピンクの服ばかり。
まぁ、家族の割にモブキャラ的な扱いでしたけどね笑
今回は女性が完全に主役。女性監督ということもあり、女性の描き方が特に印象的でした。
一体どんな経験をしたら、こんな映画思いつくんだろ・・・
あれこれ褒めてきた私ですが、文句がないといえば嘘になります。
やはり無能すぎる男性陣の描き方はバランスが悪いし、そもそもアッリを育てる環境が全て家の中っていうのは荒唐無稽すぎる。あれだけ広い敷地があるのだから、森や小屋に居るように教育できなかったものなのか・・・
ティンヤが突き放してもついてくるから仕方ないかもしれませんが、少し残念でしたね。
とはいえ、やはり嘔吐物を通じて二人を表裏一体の関係に描いていくのは見事としか言いようがないし、ホラー映画でしかなし得ない映像文法でした。
苦手な方もいらっしゃるかもしれませんが、是非ともご覧いただければと思います。
96点 / 100点