「犬鳴村」のネタバレありの感想と解説(全体)
今回批評する映画はこちら!
「犬鳴村」
Jホラーの名手、清水崇監督の最新作と聞いて、胸が高まった。
最近、東映ビデオ版の「呪怨」を鑑賞したが、あまりの怖さに吐き気を催したほど。
そして今作の予告を見て、「これは信頼できる」と思わず膝を打った。
絶対に怖い、絶対に夜寝れなくなる。
強い期待を抱きながら、劇場に足を踏み入れたのだが・・・
なんということだろう。
予想をはるかに下回るクオリティに、怒りを通り越して呆れすら感じる。
随所にヒヤッとする場面はあるのだが、後半に進むにつれて、もはやホラーではなくなってしまう怪奇現象が起こってしまうのだ。
一体今まで、何を見てきたのだろう。
犬鳴村の村人に呪い殺されるのを期待していたが、ただただ村人の昔話を聞き、その土地のルーツを知るだけの結末に、唖然とした。
過去に犬鳴村に起きた悲劇など、知りたくない。
今そこで起きている悲劇を、たっぷり描いて欲しいのに。
呪われた村人を描くべきなのに、綺麗で清潔感たっぷりな村人を登場させた理由がわからない。
なぜここまでヒューマンドラマを入れたのか、分からない。
ドローン撮影で写した雄大な自然と、その中にポツンと佇む犬鳴村。
その様子はまるで、某民放で毎週放送されているあの番組に酷似している。
困難を極める捜索!
やっとの思いで行き着いた先には、様々な経験をくぐり抜け、想像もつかない人生があった!
といったキャッチコピーがこの映画にはお似合いだ。
どんな人が、どんな理由でここに住んでいるのか、を知る映画であったことは、疑いの余地がないだろう。
Tジョイプリンス品川にて「#犬鳴村 」鑑賞。
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2020年2月7日
ちょっと待ってよぉ、、
これ、ホラーじゃないじゃん。
肝試しに来た若者がちょっと血のついた村人の昔話聞くだけじゃん!
難易度高めの「ポツンと一軒家」じゃん!
3点。 pic.twitter.com/ahwvNifAds
あらすじ
・「呪怨」シリーズなどで知られるホラー映画の名手・清水崇監督が、福岡県に実在する心霊スポットを舞台に描くホラー。主演は「ダンスウィズミー」の三吉彩花。臨床心理士の森田奏の周辺で奇妙な出来事が次々と起こりだし、その全てに共通するキーワードとして、心霊スポットとして知られる「犬鳴トンネル」が浮上する。突然死したある女性は、最後に「トンネルを抜けた先に村があって、そこで○○を見た……」という言葉を残していたが、女性が村で目撃したものとは一体なんだったのか。連続する不可解な出来事の真相を突き止めるため、奏は犬鳴トンネルへと向かうが……。主人公の奏役を三吉が演じ、坂東龍汰、大谷凛香、古川毅、奥菜恵、寺田農、石橋蓮司、高嶋政伸、高島礼子らが脇を固める。
前半の不気味さは素晴らしい
散々罵倒してしまったが、悪いことばかりではない。
冒頭のYoutuber的なノリのシーンは、いいとして・・
三吉彩花が病院で遭遇する幽霊の気持ち悪さは、かつての呪怨を彷彿とさせたし、いつ襲ってくるのが、何が目的なのか分からない幽霊を出したのは大正解だと思う。
また、今作で異彩を放ったのは明菜の存在だ。
犬鳴村「何か」に取り憑かれた明菜が放尿しながら放浪するシーンは、たまらない不気味さがあった。そして訳もわからないまま、鉄塔から落下し死んでいく明菜を見て、心が震えている自分がいた。
これだ!これが俺が見たかったものだ!!! と興奮した。
特に、放尿が素晴らしい。ただ村をふらつくのでは不気味さが出ない。
かといって、セリフをまともにしゃべれる様子じゃない明菜を、放尿一発で異彩を放つことに成功したのだ。
あの姿に、ギョッとした人も多かったのではないか?
見事な映画的演出をかましてくるあたり、清水監督はただ者じゃないと感じる。
それにしても、犬鳴村でも明菜にトイレを強要させ、放尿させ、何かそっちの趣味でもあるのだろうか、監督は。。
ともかく、前半は犬鳴村の謎が明らかにならないまま、登場する幽霊の目的が分からないまま、次々と人が死んでいくのが恐怖を煽ってくれる。
後半がホラーでなくなる理由
しかし、後半はいよいよ訳が分からなくなってくる。ホラーとは到底思えないような描写の連続に、辟易する。
後半が全くもってホラーでなくなってしまう理由は、犬鳴村の謎が明らかになり、村人に感情移入できてしまうところにある。
何事も、カラクリが分かってしまうと怖くもなんともなくなってしまう。
なぜ女性ばかりが発狂してしまうのか、理由がわかると別に怖くもなんともない。
さらに、村人の悲劇をたっぷり描き、三吉彩花との関係性を描き、もはや村人に親和性を感じさせる物語進行が、最も恐怖を阻害した原因だと思う。
幽霊側にも、事情があるのは分かっている。理由なしに、人を襲うはずがない。
ただ、村人を主人公側に寄せるのは、いかがなものだろう。
三吉彩花が犬鳴村にルーツがあり、だから霊が見えたり幻聴が聞こえたりするまでは良い。
ただ、あくまでも主人公と村人は別々であるべきだ。
主人公と、犬鳴村出身のイケメンの守護霊と一緒に、犬鳴村を救おうなんて結末を誰が期待しただろうか。。
ホラー映画にはラスボスが必要
今作にはところどころ怖いシーンはあるのだが、決定的な何かが足りない。
物足りないと感じた方も多かったのではないか。
そう、今作にはラスボスとなる幽霊が存在していないのだ。
一応、最後のバトルでラスボス的な女幽霊はいるのだが、彼女の名前も、バックボーンも、何も分からない。
彼女の怨念の強さ、おぞましさを、彼女の初登場シーンで推し量るしかないのだ。
こんなの、ラスボスでもなんでもない。
どんなホラー映画にも、強烈な個性を放つラスボスはいる。
現代では貞子、伽倻子。昔ではお岩さんに恐怖を感じることができたのも、強烈な個性を磨いたからだ。
今作は犬鳴村の村人という集団を恐怖の対象にしただけであって、「個」の強化を磨くことはしなかった。
これでは、どんな幽霊をぶつけられても、お化け屋敷的な恐怖からは抜け出せない。
元ネタはアンビリバボーにあり
犬鳴村に関しては、アンビリバボーが過去に取り上げている。
もちろん、こちらの方が100倍怖い。
恐怖のアンビリバボー/犬鳴峠の恐怖『トンネル内の霊の正体』
また、村の所在がよく分からないという点では、杉沢村を多く参考にしたのではないか。
まとめ
他にも言いたいことはいっぱいある。
予算が少ないからなのか、恐怖の対象であるはずの幽霊村人の姿をCGでブレブレにして、全く怖くない人物に仕上げてしまった。
恐怖はおろか、焦点さえ合ってない幽霊を見ても、人はノイズとしか感じない。
ノイズといえば、仰々しい音響をなり響かせることで、どんなシーンも恐怖を半減させていたのも、許しがたい。
どれを取っても、惨憺たる結果。
唯一の美点は放尿だったとしか、言いようがない。。
年間ワースト級、間違いなし。
3点 / 100点