- ネタバレありで感想と解説を始めます
- あらすじ
- 新聞記者映画は多い
- 映画の感想
- 今の日本でよくやった
- デイアンドナイトは必須
- 映像表現が見事
- 獣医学部は、氷山の一角かもしれない
- 特区はとっくに日本を支配している 都市計画的観点で特区の問題点を斬る
ネタバレありで感想と解説を始めます
今回公開する映画はこちら!
「新聞記者」
それでは「新聞記者」、感想・解説、ネタバレありでいってみよー!!!!
あらすじ
・「怪しい彼女」などで知られる韓国の演技派女優シム・ウンギョンと松坂桃李がダブル主演を務める社会派サスペンス。東京新聞記者・望月衣塑子の同名ベストセラーを原案に、若き新聞記者とエリート官僚の対峙と葛藤をオリジナルストーリーで描き出す。東都新聞の記者・吉岡エリカのもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届く。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、強い思いを秘めて日本の新聞社で働く彼女は、真相を突き止めるべく調査に乗り出す。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原は、現政権に不都合なニュースをコントロールする任務に葛藤していた。そんなある日、杉原は尊敬するかつての上司・神崎と久々に再会するが、神崎はその数日後に投身自殺をしてしまう。真実に迫ろうともがく吉岡と、政権の暗部に気づき選択を迫られる杉原。そんな2人の人生が交差し、ある事実が明らかになる。監督は「デイアンドナイト」の藤井道人。
新聞記者映画は多い
トランプ大統領就任が決まった時、スピルバーグが即興で作り、即興の割にとんでもないクオリティだった「ペンタゴンペーパーズ」があるし
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あと、かなり古いですけどハワード・ホークスの「ヒズ・ガール・フライデー」があります。これはどちらかというと「ペンタゴンペーパーズ」が近いかな。女性が主人公で、重大な事件を追いかけるかどうか、どう記事にするか、葛藤が描かれているのが特徴。
同じ「記者」と言う観点ならば週刊誌の記者を主役にした映画がすごく多いんですけどね。。
日本では新聞記者を主題にした映画は少なかったと思ういます。
なぜなら、テレビ局が映画に出資しているから。テレビ局は新聞が大株主なので、新聞記者の裏側とか本音とか、書きにくいですよね。
あとは何より、、、永田町がねぇ。。
もう許さないですよね。
プロデューサーとスポンサーさん、よくやったよね。そして松坂桃李さんの事務所、よくやったよね。
そして何より監督はあの「デイアンドナイト」を撮った藤井さんなんで、マスコミに対する批判を考えている人でもある。
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この世は白でも黒でもない。グレーもあるんだというメッセージを映画に込めましたよね。
今やネットニュースが横行し、白か黒かでしか記事が書けない低脳クソ記事ばかりが出てますからねぇ、余計に新聞記者の質が重視される世の中だと思いますよ。
さて、今作は韓国から「怪しい彼女」で同じみのシム・ウンギョンも参加して、松坂桃李くんとダブル主演を果たしている。
新聞記者で、韓国の女優さんが入る。しかもその女優さんの代表作が「怪しい彼女」
うーん、なんとも深読みできるキャスティングなこと。。
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映画の感想
・劇場には、有楽町という土地柄もあっておじさんばかり。ただ、いつもと違う。普段の映画好きおじさんの雰囲気じゃない。なんだ、これ。。
今の日本でよくやった
日本の報道自由度は、民主主義にもかかわらず72位
テレビ局に自民党から報道自粛がFAXで送られてくる
そんな恐ろしい国、ニッポン
この状況の中で、よくこんな映画が出来たなぁと嬉しく思います。
最近だと「空母いぶき」が公開されて、どんどん政治的な内容が映画に絡んでいっているので、とても嬉しく思います。
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日本はもう、報道自由な国ではないのです
わかるでしょう、なぜ最近、自民党のスキャンダルがないのでしょう?
テレビでは絶対に出来ない映画が見れて、実によかったです。
政府への批判でもなく、リベラル的な立場でもなく、ただただ真実を知りたいという吉岡エリカ演じるシム・ウンギョン
松坂桃李くんも政府の人間ながら頑張ってくれましたが、結局最後はああなってしまった。真実を追求する人は、最後の最後は外国人のシム・ウンギョンのみとなってしまいます。
決してハッピーエンドにしない作りに、作品のリアルを感じます。朝日・読売・毎日が大学院大学の設置を追いかけて調査してると言いながらも、内調が作った反論記事に反論する記事が公開されるシーンは、入れていない。
あの映画の終わり方だと、このまま大学院大学が作られてしまいそうな気がしますよね。
ああやって終わらせることで、まだ政府の愚行は終わっていない。現実だと止めなければいけない、と思わせてくれるので良い終わり方だと思います。
協力した新聞社は、原案である「新聞記者」の著者が働いていた東京新聞社、そして朝日新聞社の二社のみ。
他の新聞社は、、ええっと、、、どうした?
まぁ、日経新聞社は中立公平と言われてますけど、単に話がこなかっただけなのかな。
特に産経は絶対協力できないですよね。ワイドナショーに総理が出てきた時は、露骨だったもんなぁ。。
東京新聞が東都新聞となっている以外はすべて実名の新聞社が出てくるため、どうしても気になるというねw
はい、そんな政治的な感想はここら辺にして、今作は映画として非常に立派でした
松坂桃李くんの、死んだ顔しながらパソコンに向かうシーンはもう、本当に疲れ切った公務員の姿を見事に描いている。それとは対照的に、本田翼とのやり取りでは安堵の表情を見せる。でも完全に安心してるかというとそうでもなくて、仕事のことが引っかかっているとしか思えない表情も出来ているのも素晴らしい。
あと、これはどうでもいいですけど、本田翼さん、これがキャリア史上最高の演技なんじゃないか、と思うくらい自然に奥さんを演じてましたよね。
松坂くん、本田翼という人気俳優を使ってくれることで商業性を保ち、内容は非常に政治的という、商業性と作家性を見事に描いてくれたと思います。
デイアンドナイトは必須
今作のテーマはもちろん政治的な内容ではあるんですけど、忘れてはいけないのが藤井監督の作家性です。
「白と黒の間に揺れ動く主人公の苦悩と葛藤を描く」ことで、「世の中には白か黒かハッキリしないグレーゾーンで溢れている」ことを描く
監督だと思っています。
前作「デイアンドナイト」でもそうでしたけども。
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この視点で見ると、映画の理解が深まりますので、まだご覧になってない方は是非。
主人公のシム・ウンギョンさんはジャーナリズム精神溢れる根っからの記者。国家の陰謀に対して、白黒ハッキリつけたくて仕方がない。こんな記者がいてくれたらなぁ。。
一方の松坂桃李さんは政府にいながらも、シム・ウンギョンに協力する立場。白黒ハッキリつけようとすると、上司からの圧力を受ける。職場で干される。白黒つけようとすればするほど、苦しむ立場になっている。
そして松坂桃李さんの上司であった神崎を演じる高橋和也さんは、白黒ハッキリつけようとする前に、自殺。政府に圧力に消されたようにも見える。
「巨大な権力に立ち向かい反抗していた人が亡くなり、その意思を引き継いだ若者が奔走する」というプロットは、デイアンドナイトと全く同じで、これも監督の作家性なのかなぁと思いました。
映像表現が見事
白か黒かどちらか分からない様子を描くのは、決して物語じゃありませんでした。
私、映画を見るときは必ず色に注目してみるんです。直接的なセリフでは決して語れない、大事なメッセージがあるので。
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藤井監督の色彩的特徴は、グレー
今回だと、内調の部屋が異様なまでにグレーっぽく描かれているのが非常に特徴的でした。何かもやがかかったような、現実では見れないようなグレーの描き方ですよね。
ツイッターで保守系のアカウントを作り、政府に歯向かう言論を見つけては叩くような内調の仕事は、外から見ると政府がやるような仕事じゃねぇって思うかもしれませんが、内から見ると現政権を安定させるために必要な仕事。
「内調のやってる仕事は白か黒か、どちらが正しいのか分からない。」という松坂桃李さんのグレーな心情を、この内調の色で表現してましたね。
また、内閣府という巨大な権力の中で働く職員たちは、自分の「色」を出せずに「無味乾燥」と化している様子も、このグレーな色合いで表現していたと思います。
なんか内調の中、コンクリートのような無機質な色合いなんですよね。
あとは松坂桃李さんが、内調の操作により真実が捻じ曲げられたツイッターを見ていると、顔にツイッターの画面が投影され、体全体を覆うようなシーン。
これは松坂桃李さんが世論の波に飲まれていることを表しているんだと思います。
体全体をツイッターの画面で覆われ、もう身動きが取れないような状況になっているのが、素晴らしいです。
ちなみに、体全体がプロジェクターに投影されるのって、「バクマン」でも同じことがありましたよね。
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獣医学部は、氷山の一角かもしれない
今作でスキャンダルになったのは、医学系の大学院大学の設立に隠れて生物兵器を作ろうとした政府の陰謀ですよね。
「大学新設」「医学系」と聞いて、この加計学園の獣医学部新設を思い出した人が多いと思います。
直接は描けないから、あくまで大学院大学とぼかしていましたけど、この現実とリンクさせるようなスキャンダルの作り方が見事だなぁと思いました。
いや、怖いよ。めっちゃ怖いよ。加計学園は大丈夫だよね?
まさか新設する獣医学部で、狂暴犬軍団を作ったりしてないよね?
いろんな妄想をしてしまうよね、怖いよ。。
特区はとっくに日本を支配している 都市計画的観点で特区の問題点を斬る
今回、内閣府による国際戦略特区に大学院大学を設置するという話になっていましたが、実際に内閣府は全国の各地点に特区を指定します。
今回話題になった国家戦略特区はもちろん、総合特区も、構造改革特区もあります。
この特区に何が行われているのか? なぜ特区という名前をつけなければいけないのか? あまり映画では説明されていませんでした。
実は私、昔都市計画を専攻していたことがありまして、そんな私からすると、特区って便利な一方で実に危ない制度であると思っていて。
簡単に言うと、特区とは「現状の法制度で開発できないものを、開発できてしまう裏技的な手法」なんですよ。
普通、なんかしらの建物を作るときには、都市計画法や建築基準法などの建物に関する法律、航空法などの領空制限に関する法律、消防法などの防災に関する法律、などなど規制でがんじがらめになっており、なかなか新しいものを作るのが難しい状況にあることがほとんどなんですよね。そのおかげで、周辺の街に影響がないようにするのが良いまちづくりなんですけど。
しかし、この特区制度により、特区内は上記に挙げたような建築制限の一切が撤廃され、基本的にどのようなものでも建てられてしまうんです。
つまり、特区は超法規的な開発ができてしまうんですよね。
今作で描かれた特区は単なる冠ではなく、既存の法律を無視して作れるように配慮したものなんです。
例えばですね、都内ですと汐留にある電通の巨大ビルや日テレのビルは、国際戦略総合特区という特区によって建てれらたものです。あとは品川ー田町間の新駅も、都市再生特別地区という特区によって建てられてます。
もう日本は特区にとっくに支配されてるんです。。というダジャレです。
ただ、現実はそんなダジャレみたいに平和じゃなくて。現行の規制を取っ払って無理に開発したせいで、影響がもろに出ているところもあります。
汐留の高層ビル群を無理やり作ったせいで、東京湾からくる風が入らなくなり、ヒートアイランドの元凶になっているというのは、有名な話ですし。。
とにかく、特区は映画に留まらない。恐ろしい問題を抱えているということを、ご理解いただきたいのです。
はい、長くなりましたが以上!!!