- ネタバレありで感想と解説を始めます
- あらすじ
- 映画の感想:今年を代表する、多幸感溢れる傑作アニメ
- セリフなし、極めてサイレント映画に近い作り
- スピルバーグへのオマージュが的確
- 2001年宇宙の旅の斬新な引用
ネタバレありで感想と解説を始めます
今回批評する映画はこちら!
「ひつじのショーン UFOフィーバー!」
Tジョイプリンス品川で「ひつじのショーン UFOフィーバー!」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2019年12月23日
センス抜群の選曲と外さないギャグに舌鼓を打つ。セリフがなく、サイレント映画に近い作りで感情を伝える演出もお見事。また、「2001年宇宙の旅」の斬新な引用も見事と言わざるをえない。
ここにきて、年間ベストが揺らぐとは…
あらすじ
イギリスのアードマン・アニメーションズによる人気クレイアニメ「ウォレスとグルミット」から誕生した「ひつじのショーン」の長編劇場版第2作。ショーンたちの前にUFOが現れたことから巻き起こる騒動を描く。イギリスの片田舎の牧場で仲間たちとのんびり暮らすショーンの前に、ある日突然、UFOがやってきた。田舎町はたちまちUFOフィーバーに沸きあがり、牧場主も宇宙をテーマにしたアミューズメントパーク「FARMAGEDDON(ファーマゲドン)」を作って一儲けしようと企む。そのUFOには、物を浮遊させる超能力を持った、ルーラという名の女の子が乗っており、ひょんなことから牧場に迷い込んだルーラは、ショーンたちと仲良しになるが……。
映画の感想:今年を代表する、多幸感溢れる傑作アニメ
そんな私のハードルを余裕で超え、年間ベストを揺らぐ大傑作が誕生してしまった。
ひつじ達をはじめとしたキャラクターの可愛さ、もはやアホを超えて芸術の領域まで達した抜けの良いギャグ、最後には涙がホロリ。欠点という欠点が見つからない。
周りの奥様方は、どのような印象を持っただろうか? ひつじが愛おしくて仕方ないのではないか?
鑑賞した奥様方にはこう申したい。
「奥さん、今日はラム肉やめときな」
今作の評価の高さは、海外大手評論サイト「Rotten Tomatoes」にも現れている。批評家の評価は現在97%と傑作の領域に入っている。
クレイアニメで、一見すると幼児向けに見える作品であるが、他の映画にはできない斬新な演出で溢れている。
以下、特徴的なシーンを説明する。
セリフなし、極めてサイレント映画に近い作り
ひつじのショーンはイギリス・フランスで制作されているが、キャラクターは英語やフランス語を話さない。それどころか、何かしらの共通言語すらない。
同じアニメ映画なら、ユニーバサル作品「ミニオンズ」もセリフがなく、意味不明なミニオン語をただ発話するのみである。しかし今作は、人間も一切の意味ある言葉を発しない。
「ああ〜〜」とか「うわ〜」など、感情を表す言葉しか発しないのだ。これがひつじのショーンの大きな特徴であり、これがサイレント映画と近い点である。
キャラクターが何をして、どうなったかは映像と音響でしか伝えることができない。感情を発話するアクションは、セリフではない。何故なら、全ての発話は物事が終わった後にしか怒らないからである。物語を説明するものではない。
物語が単純だからセリフが必要ないのでは、と言う意見もあるかもしれないが、今作は「未知との遭遇」や「ET」のような宇宙人遭遇ものであり、決して単純な話ではない。
長く続くひつじのショーンの制作陣だからこそ、セリフなきコミュニケーションに長けているのだ。
これを他の映画でも真似できるかというと、極めて困難であろう。
加えて今作はクレイアニメである(ところどころCGは使用しているが。。)。
表現が限られるクレイアニメで、意図的にセリフを制限しているのである。ここまで厳しい条件でアニメを制作しているのは、世界広しといえどもひつじのショーンくらいしかないだろう。
セリフが使えないからこそ、感情を表すために表情の作り込みを詳細にする必要があるだろう。しかし、ひつじのショーンは、感情表現についても非常に選択肢がない。
これもクレイアニメの影響なのか、ショーンの表情は口を閉じるか、出すかしかないのである。しかも口の出し方が異様で、何故か横に口が出っ張るように出してしまう。これじゃあ何を伝えたいか、よく分からない。。 制限された表現の中で、ひつじのショーンはあらゆる感情を伝えられるのは、ストーリーテリングの強さとキャラクター全体の動きを精細に伝えているからである。
©ひつじのショーン
©ひつじのショーン
スピルバーグへのオマージュが的確
今作は「未知との遭遇」や「ET」のなど、スピルバーグ映画の影響が見られ、分かりやすい形でオマージュを捧げている。
正直、ショーンでオマージュを捧げる必要があるのか、よく分からない。他の映画とは異なり、限りなく上映時間の制約があるためだ(子供向けのため、90分未満に抑える必要がある)
しかし今作はそれに怖気付くこともなく、他のスピルバーグオマージュ映画である「宇宙人ポール」や「スーパーエイト」と同じように、オマージュを捧げている点を評価したい。
ただ、他のスピルバーグオマージュよりも今作が優れている点は、スピルバーグ映画の脚本にオマージュを捧げた点にある。
スピルバーグの映画といえば、両親と別れた(あるいは、仲の悪い)子供が主人公となる映画が多い。また、子供時代にいじめられた大人が主人公となっていることも多い。
今作はひつじのショーンが主人公に見えて、実はそうではない。真の主役は、映画のラストに明らかになるのだ。その時、今作がスピルバーグ映画にオマージュを捧げていることがよくわかる。単なる宇宙人設定やガジェットだけを似せている訳ではないのだ。
2001年宇宙の旅の斬新な引用
さらに今作の素晴らしいところは、SF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」を斬新に引用し、オマージュを捧げている点にある。
ひつじのショーンで「2001年宇宙の旅」?
なんとも似つかわしくない組み合わせであるが、事実である。
他の映画でも、「2001年宇宙の旅」にオマージュを捧げる例はある。例えばクリストファー・ノーランの「インターステラー」。
しかし今作では、有名なオープニングシークエンスを見事に引用して見せたのである。
無論、ノーランも使うのをはばかった(あるいは、使わなかった)
2001 A Space Odyssey Opening in 1080 HD
これは斬新な引用と言わざるをえない。何故なら、この引用はあまりにモロだからである。
日清のカップヌードル以来の、モロな引用に驚きを隠せない。
さらに、ただの引用のみならず、今作ではひつじのショーンという陽気なノリの中で引用されている。具体的には、オープニングで見える宇宙と太陽が、とあるモノに置き換えられている。
2001年宇宙の旅ならではの壮大さや威厳は、そこには存在しない。あるのはただ、笑いのみであった。
幼稚な子供向けのアニメだと思ったら大間違い。今年を代表する傑作アニメと言わざるをえない。
是非とも劇場で!!