Machinakaの日記

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映画「愛しのアイリーン」ネタバレあり感想解説 愛を描くために哀を描く監督の作家性とは

 
Machinakaです!! 
 
 

こちらのブログが初めての方、ご訪問いただきありがとうございます!

 

「映画のタイトル+解説(感想)」で検索してくださってこちらにいらっしゃった方には大変申し訳ないんですが、できれば第1回目の記事をご覧いただいて、私の自己紹介と本ブログの趣旨をご理解いただければと思います。

 

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今回批評する映画はこちら!!!
 
 
「愛しのアイリーン」
 
 
 

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 はい、きてしまいました。
 
吉田恵輔監督の最新作。
 
私が新作を待ちきれない監督のうちの一人です。日本映画の監督では、一番好きな監督かも。何故なら、新作が出るたび出るたびその面白さに驚き、おののき、映画を見た後に必ず悩ませられる(褒めてます)作品を作ってくれるからです。
 
これまでも、吉田監督の作品は常に私の映画ランキング上位に君臨し続けています。めっちゃ影響受けてる監督です。
 
 
 
と言っておきながら、プライベートな理由で初日鑑賞というわけにはいきませんでしたが、公開二日目に鑑賞してまいりました。
 
今回はどんな衝撃を私に与えてくれるのか?そしてどんな笑撃を食らわせてくれるのか?
 
 

それでは「愛しのアイリーン」批評いってみよー!!!!

 

 目次

 

 

 

 

 

[あらすじ]

 

 

・「ワールド・イズ・マイン」「宮本から君へ」など社会の不条理をえぐる作品で知られる新井英樹が、国際結婚した主人公を通して地方の農村が内包する問題を描いた同名漫画を実写映画化。新井の漫画が映画化されるのはこれが初めてで、安田顕が主演、「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督がメガホンを取った。42歳まで恋愛を知らず独身でいた岩男が、久しぶりに寒村にある実家に帰省する。しかし、実家では死んだことすら知らなかった父親の葬式の真っ最中だった。そんなタイミングで帰ってきた岩男がフィリピン人の嫁アイリーンを連れていったため、参列者がざわつき出し、その背後からライフルを構えた喪服姿の母親ツルが現れる。安田が主人公の岩男を演じ、アイリーン役にはフィリピン人女優のナッツ・シトイを起用。そのほか木野花、伊勢谷友介らが出演。

 

eiga.com


 


映画『愛しのアイリーン』本編映像 フィリピンウェディング

 

 

 

 

今回は監督の紹介や鑑賞前の期待などは割愛し、もう感想から入りたいと思います。

 

 

それでは映画の感想でっす!!!!!! 

 

 

[映画の感想]

 

監督と原作者の作家性全開!!! 

 

またしても衝撃と笑撃が俺を襲った!!! 

 

映画に打ちのめされるってこういうことか! 

 

地方出身の独身男性には必ず打ちのめされること間違い無し!!! 

 

セックス&バイオレンス満載で客を選ぶこと必至!!何より、「愛は金で買えるのか?」という恐ろしいテーマを描いている問題作でもあり、現実問題でもある問いかけに、もう痺れて痺れました。

 

映画館が少ない地方では見づらいけど、何より地方の人に見て欲しい映画でもある!!!!!! 

間違いなく今年ベスト級!! 

 

あなたも打ちのめされてください。

 

 

 

 

[映画の魔力を喰らってください]

 

はい、映画を見た直後のMachinakaです。

 

まだ、上手く言葉にできないですが、とりあえずとんでもないものを見てしまったという、ドキドキと困惑が入り混じった感情が頭の中を支配しています。

しばらく、この映画が頭から離れることはないだろうな。。。

 

人間の醜さや見せたくない部分にスポットライトを当てることで、人間の本性や本当の気持ちを露わにしていく、吉田恵輔監督じゃないと出来ない実に刺さる映画でございました。そして、これは本当に人を選ぶ映画ですww

 

これまでの吉田恵輔監督の作品は、どっちかというとコメディの印象が強かったです。もちろん、ヒメアノ〜ルでの構成でも見せてくれた通り、前半ラブコメで後半にホラー・サスペンスになっていく展開もあって、確かに最初は大爆笑してました。

 

前半で笑っていたアイリーンちゃんの変な日本語や、お母さんが銃を持って暴れるシーンとか本当に大爆笑させてもらいましたが、、、、

 

後半になると前半で同じシーンが出てきても、一切笑えなくなって、むしろ戦慄さえ覚えてしまうんです。

 

撮り方や見せ方一つで同じシーンでも笑えたり怖くなったりできる。映画じゃないと出来ない映像のマジックを堪能できる映画でした。

今一度、映画の魅力を再認識できました。監督、ありがとうございます。

 

 

 

 

[愛を描くために、哀を描く]

今作の物語を簡潔に説明せよ、と言われても何を話していいか分からないと思います。

 

主人公の岩男を中心にして、家族・職場・そしてアイリーンの人間関係を描く映画であることは間違いないです。一語で説明すると、「愛」について語ったことは間違いありません。この映画には似合わないかもしれないけど、ラブストーリーだと思ってます。

 

・岩男とアイリーンの、金で始まった恋愛だけど次第に絆を深めていく様子

・岩男とお母さん・お父さんの愛

・岩男と愛子さんとの禁断の愛

 

 

ただ、その愛というのが、あまりにも「むき出し」であるため、一見すると「不謹慎な暴力映画」にも取られかねない危険性をはらんでいます。だからもう一度言いますが、この映画は誰が何を言おうと「ラブストーリー」であることは間違いない!!! 

 

ただ、監督のラブストーリーのアプローチはあまりにも血みどろで、暴言多くて、これを全く映画を見ない人に勧められるかといえば、ちょっと狼狽えてしまう自分がいます笑 紹介したいけど非常に難しい映画でもあります。 でもそれが監督の作家性なんだよ!!!!

 

監督の前作「犬猿」のオープニングでも宣言されていた通り、「共感!共感!きょう〜かん!!!」できる作品ではないんですよ!!!!

 

愛を描くために、あえて暴力やセックスをあっぴろげにする作風なんです。後で説明しますけど、「金・暴力・SEXで愛を描く」がキーワードです。「生」を描くためには「死」を描く。

「愛」を描くためには「哀」を描くんです。だから、結末があんなに悲しくなる。でも、悲しいからこそ本当の愛が伝わって来る。

 

僕も恋愛経験豊富じゃないですが、失った時こそ愛の大切さが染み渡ってきませんかね?

 

・・・自分でも寒いこと言ってるのは分かります。

 

でも、哀愁漂う映画こそ真のラブストーリーなのだ!!!!

 

 

 

 

[地方都市ノワールものとしても]

 

[岩男に共感と恐怖を覚える]

 

吉田監督作品では初めて体験したことですが、日本の地方都市ディストピア、地方都市ノワールが存分に伝わってくる作品でした。

 

岩男の結婚に執着する母親と父親。もはや「親ハラ」と言いたくなるくらい、結婚や付き合ってる女性に対して否定を叫ぶ光景。

 

もう、日本のムラには結婚話とパチンコしか楽しみがないのか? と、見ている間に思考の閉塞感に襲われる映画でもありました。親ってなんでこんなに結婚に執着するんでしょうねぇ。。

 

でも、この映画を見ててとても他人事とは思えない自分がいるんですよね。俺の母親も、本当に「結婚しろ結婚しろ」ってうるさいんですよ。あえて「うるさい」って言ってしまうんですけどね。だから見ていて岩男に同情するし、「もし自分が40になっても結婚しなかったらあそこまでこじれるのか?」と少し恐怖を覚えたのであります。

 

 

[岩男がこじれてしまった理由]

 

そんな岩男に共感してしまう自分は、岩男の過去も想像しちゃうわけです。

多分あの調子だったら、もう20代の頃から岩男は「結婚しろ!!」と言われてるはずです。それを20年以上言われ続けてもみなさいよ。

そりゃあ息子もオニャンニーの鬼になりますよ。俺も岩男とまではいかないですけど、小鬼くらいにはなってますよ! ってなに言わせるんですかwww

 

もうね、本当に見てられなかったシーンは、母親に勝手に部屋を片付けられて、親にオニャンニーが付いたティッシュの匂いを嗅がれるシーン。

 

まぁ大爆笑してしまった自分も悪いんですけど、あんな地獄を映像化するなんて、監督は悪魔ですか?(褒めてます)

 

もうねぇ、あのシーンを見てると、だから田舎に帰りたくないんだよって思ってしまいます。思考的に殺されそうになるんだよ。田舎には結婚して子供がいないと基本的人権の尊重がないって思ってしまうわけです。あれ、言い過ぎかな?

 

居間と岩男の部屋が、ふすま一つで仕切られているという美術設定も、地方のプライバシーのなさを象徴してる気がして、映画的にとてもグッドでした。

 

 

[姥捨山という絶妙な設定]

 

今作は北陸地方の慣習となっていた姥捨山伝説を現代にアレンジしています。映画のラストを締めくくるにふさわしい、姥捨山を重ねた雪山のラストは、もう一生頭から離れないでしょうね。

 

田舎の寒空が漂う農村で起こる非日常的な暴力やセックス。鑑賞後に隣の観客が「日本のウインドリバーだ!!」と興奮気味に喋っていましたが、まさに他の映画に例えるならば「ウインドリバー」的な設定・作風であることには間違いありません。あの人、映画ブログやればいいのに。。。

 

 

[原作者と監督の作家性が完全一致]

 

今作の魅力を構成している最たるもの。それは原作者と監督のシンクロ率の高さです。二人の作家性が、ある一点において完全に一致しています。

 

それは、金・暴力・SEXで愛を描くということ。

 

下手な映画・小説であれば、愛の大切さを描くときに「愛してるよぉ〜」とか「お母さん、大好き!!」みたいに直接的な描写が良く描かれるでしょう。

 

でも、この映画はそんなことはしない。

あえて純愛から程遠い売春の描写が出てきたり、暴力的な描写や過激なセックス描写を描くことで、愛を描くんです。

 

映画文法的に言えば「対位法」(元は演劇の言葉らしい)を使って、愛を伝えています。

 

例えば、岩男とアイリーンの関係のそもそもの始まりは「金」です。もっと言えば、この作品自体が「金で愛は買えるか?」という恐ろしいテーマにも直結していると感じます。

でも、現実にはタイやフィリピンの女性を日本に連れ帰って、お金で結婚する中年男性が日本にたくさんいることも事実です。それで幸せになっている人もたくさんいるのです(そうじゃない人も、おそらく沢山いるはず)。

 

岩男は最初から最後まで、アイリーンにお金を払い続けました。結婚してセックスをするときでも、お金を払って払って、相手が断っても払いました。一見歪んでるように見えるけど、それが岩男にとっての愛の形なんでしょう。岩男はそれしかやり方を知らなかったのかもしれません。

 

そして、どう考えてもアウトなアイリーンに対する暴力。あれも岩男のパーソナリティを象徴するもので、とにかく不器用で不器用で仕方がないんですよね。岩男的には金を払ってるんだから何をしてもいい、と思ったのかもしれません。一度人を殺してしまったから、一線を超えてから粗暴になったのかもしれません。

でも、アイリーンに対する愛は最後まで捨てなかった。お金から始まった恋愛でも、他の女とセックスしても、暴力が恒常化して泣かせても、アイリーンは岩男を愛した。

もうメチャクチャな岩男ですけど、愛であることには違いない。むしろ愛とは程遠い行為を混ぜることによって、愛の大切さが分かることもあると思いました。

 

一方の原作者の新井英樹さんは「ワールドイズマイン」で非常に気性の荒いモンちゃんんと気弱だが爆弾を平気で作るようなサイコパスであるトシを主人公にして、この世の不条理や世界の愛を描きました。

この人のやり方も、非常にバイオレンスで過激なスプラッター描写がありながらも、実はメッセージとしては愛に満ち溢れるものであり痛烈に読者の心に刺さるものなのです。

 

この二人の対位法的な作家性の一致によって、今作のような奇跡のコラボレーションが実現したのだと思います。

 

2016年に「この世界の片隅に」という映画がありました。この映画はもはや説明不要ですが、原作者のこうの史代さんと片渕須直さんの「過去に起きたことを地道にコツコツ徹底的に調べ上げ、作品に忠実に反映させること」という作家性の一致により、唯一無二の作品が出来上がりました。

 

映画とコミックの素晴らしいコミュニケーションだと思います。邦画と漫画って、やりようによっては奇跡を生み出すものなんだと改めて実感することができました。

 

 

 

[岩男がパチンコ店で働いてる意味]

 

今作ではポスターにも描かれている通り、パチンコが象徴的に描かれていました。

もちろん原作でもパチンコ店は描かれてるのですが、なぜパチンコを描く必要があったのか、考察してみます。

 

岩男はパチンコ店の店員で、すごく悪い言い方をすれば、地域の人々からお金をもらう、、もっと言っちゃえば吸い取る立場の人間。

そんな岩男が仕事でコツコツ貯めてきたお金を、海外のアイリーンにつぎ込む結果となる。でもそんなお金も、実は偽装結婚の詐欺で騙されていたという話であった。そして、そもそも偽装結婚を斡旋していたのはフィリピンパブの店長であり、岩男にパチンコ店を紹介したのは太っちょの店長?だった。

 

結局はお金は天下の回りもの。お金は弱者から吸い寄せられ、強者へと集められていく。結局、アイリーンに支払ったお金は500万弱でしたが、そもそも結婚の仲介業者に支払った金額は300万〜400万円です。アイリーンに直接支払たお金は、実はすごく少ない。

 

どんだけお金を稼いでも、パチンコ玉=金は最終的に全て店に還元されていく、この世の不条理が、ここに詰まっているような気がしました。

 

 

 

 

[関連する映画、参考にしたであろう映画]

 

・バンコクナイツ

 

www.machinaka-movie-review.com

 

フィリピンではないですが、タイに長期滞在する男性が現地の女性と恋に落ちてしまう映画です。愛しのアイリーンでは偽装結婚業者がテキパキとお見合いを段取りしますが、この映画では恋愛結婚です。

 

愛しのアイリーンを見たときに、真っ先にこの映画のことを思い出しました。

富田克也監督は日本の地方都市のリアルとダークな部分を描いた「サウターヂ」を以前に撮っており、そんな監督が行き着いた先は地方で働いていた男性がタイに長期滞在し、地方都市の閉塞から脱する点では、愛しのアイリーンと似ていると思います。

 

こちらは、日本人男性がタイで暮らす時の大変さを描き、愛しのアイリーンでは立場が逆転していて、日本人がマイノリティーになっています。興味ある方は、ぜひとも鑑賞を。

 

 

 

・脱獄広島殺人囚

 

 


『脱獄広島殺人囚』 梅宮辰夫 松方弘樹

 

殺人を犯してから、岩男はいきなり粗暴になり、セックスを強要するようになります。自分の懲罰が迫り、刑務所に行くかもしれない恐怖と焦りを粗暴なセックスで表現している主人公像として、この脱獄広島殺人囚における松方弘樹がぴったりきました。それにしても、なんというタイトルだ。。。

 

松方弘樹が刑務所から脱獄し、妻のところへ走って帰り、ズボンを脱ぎながら「早よせい!」とまくし立てるのは昭和を代表する名言であろうと思いますwww

 

・ウインドリバー

 

ameblo.jp

 

地方都市の閉塞感、恐ろしさ。寒空の中で起こる非日常的な暴力。これぞ日本のウィンドリバーだ!!!(他の観客からの受け売りだけど) 

 

 

・ヒメアノ〜ル

 

www.machinaka-movie-review.com

 

生と死を交互に見せる展開、最初はコメディで後半はホラーな構成。これを見れば愛しのアイリーンの作風が少しでも理解できるはず!!!

 

・プラトーン

「プラトーン」の画像検索結果

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映画を見た人なら分かるでしょう。これはネタですwwww

あのシーンです。「お◯◯こ!」と叫びながらこのポーズで叫ぶのは、本当に爆笑しましたww 監督、オリバー・ストーンに謝った方がいいんじゃないかなwwww

 

考察してみると、プラトーンはベトナム戦争ですが、実際にロケをしたのはフィリピンということで、アイリーンの出身と一致します。ただ、共通点はそれだけですwww

 

 

是非是非ご鑑賞ください! オススメです!!!

 

 

 

[最後に:映画はこれだから面白い]

 

 

映画には「見る」というより、「喰らう」という表現が適してるタイプのものがあります。今作は間違いなく「喰らう」映画です。映画の観客はただ映画を見ることしかできない。誰も映画の結末を変えることはできない。ただ見ていることしかできない。だからこそ、悲しい結末になった時には非常に感情を揺さぶられるメディアなのです。

 

ネタバレありというタイトルを付けさせて頂いたので言っちゃいますけど、今作の最後は実に悲しい物語になっています。どれだけ悲しくても、我々は結末を変えることはできません。

 

田舎の農村で、アイリーンを残し周りのメインキャラが続々と死に絶え、失踪していく姿は、なぜここまで辛い結末にするのか、と困惑さえしました。

 

ただ、悲しい物語であるほど、後に残ります。ずっと考えてしまいます。アイリーンと岩男がもっと幸せになる方法はなかったのか? もっと母親と柔和する方法はなかったのか? あれこれマルチエンディングを考えてしまいます。

 

映画を観る人のほとんどが、バッドエンドではなくハッピーエンドを望みます。でもハッピーエンドじゃ後に残らないんです。映画について考えられなくなるんです。

僕は、映画を見てただ感動や笑いを消費するのではなく、あれこれ考えることが大事だと思います。この映画をちゃんと見ていれば、「あー面白かった」では済まされないはずです。何か自分と映画の関係について考えるはずです。

 

それが映画の魅力なんです。自分に起きている仕事やプライベートなど、自分の人生について考えることも、大事です。

でも、映画のキャラクターのような赤の他人の人生について考えることも、すごく大事です。

間違いなく、自分の人生を豊かにしてくれるものだと思います。

映画を喰らいに行ってください。

 

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