自分の考えを整理するためにも、研究する意義を再確認するためにも、こういう文章は必要なのです。社会問題の提起から、自分の研究の視点に至るまでの流れを書いてみました。
1. 定住人口増加から交流人口増加の目標転換へ
◯地方都市の中心市街地衰退の問題は、郊外大型商業施設の登場や自動車需要の拡大等が起源となっていると考えられ、長らく我が国の都市計画における重要課題と位置づける。特に中小都市(人口規模が中核市以下)ではより衰退が顕著であり、効果的な活性化策を講じる必要がある。
◯多くの地方中小都市では、現在でも定住人口の増加政策が多く講じられている。特に中心市街地ではマンション建設や高層階の老人ホーム建設(青森市)など直接的に定住人口増加に寄与するが多く見られる。しかし、計画されたマンション建設の多くは、経済不況(建設資材価格の高騰など)により途中で計画が頓挫している。そもそも人口減少が進行している時代に逆行して定住人口の拡大を図ることは困難である。今後の中心市街地活性化策は定住人口よりも交流人口(観光客)の増加目標に転換し、地域経済の活性化(小売・飲食・宿泊・運輸など)に寄与する施策が今の時代では適切かつ効果的だと考える。
2. 中心市街地活性化策と観光・交流施策の関連
◯中心市街地活性化策は旧中活法(1998年)、新中活法(2006年)に基づく計画や、まちづくり交付金(現都市再生整備計画事業)、その他特区制度において中心市街地区域を設定し、施策を講じている。
◯旧中活法では全国の600-700自治体に政府から多くの補助金が投入されたが、活性化に歯止めを掛けることは困難であった。さらに、計画認定時の審査の甘さや計画中、計画終了後の施策評価の不十分さ・不透明さが問題となった。それ以降は計画認定時に数値目標を複数定め、計画の効果を定量的に評価する動きが活発になっている。現在では新中活法に基づく計画、都市再生整備計画事業では多くの数値目標の設定がみられる。
◯中心市街地の活性化策における数値目標は、定住人口や歩行者交通量、小売販売額を増加させる目標が多く設定されるなか、観光入込客数などの観光・交流に関する目標も活性化策の中に位置づけられるようになった。
3. 既往研究の傾向と本研究の目的
◯中心市街地活性化に関する研究は、特に新中活法に基づく基本計画が施行されてから増大している。目標指標の達成状況の把握や計画評価のシステムを評価する研究や、新中活法認定に伴う土地利用規制(準工業地域における大型施設立地制限)の効果を明らかにした研究がみられる。これとほぼ同様の内容で、まちづくり交付金の効果分析も行われている。しかし、計画の評価は指標の全体的な傾向分析に留まっており、観光に関連した目標を着眼点として目標の達成状況や観光施策の推進による地域経済への効果分析には至っていない。
◯観光による中心市街地活性化を推進するために、本研究では以下を明らかにする。
・上記の計画で位置づけられた観光関連の数値目標を精査し、その達成状況を明らかにすること。
・観光関連の数値目標(観光入込客数)の増加により、歩行者通行量や販売額、駅乗降客数など、他の目標指標への相乗効果を明らかにする。
・観光関連の数値目標を達成するために行われる事業(補助金対象事業)を精査し、どのような事業が目標達成に寄与しているかを明らかにする、またはどのような事業が多いのか傾向を明らかにする。
これらを明らかにすることにより、観光が中心市街地活性化に与える影響を分析する。
これにより、都市政策の中に位置づけられた観光施策の傾向を明らかにするとともに、数値目標を用いた客観的な政策評価の実現を確立する。
また、長期的な中心市街地活性化策の参考資料に寄与するため、政策研究とは別に過去の観光入込客数の長期時系列データを作成し、小売販売額や就業者数の変化との関係を明らかにする。