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映画「1917 命をかけた伝令」ネタバレあり感想解説と評価 ワンカットであっても、マンカットがないのが作品賞を逃した理由か?

 
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この記事では、「1917 命をかけた伝令」のネタバレあり感想解説記事を書いています。
 
 目次
 

「1917 命をかけた伝令」のネタバレありの感想と解説(全体)

 
 

 

今回批評する映画はこちら!

 

「1917 命をかけた伝令」

 
 

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(C)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.



 

「ワンカット」という触れ込みは、映画の宣伝文句として定着しつつあるのだろうか。

現代の技術力とベテランのスタッフによって、ワンカットを作成することは容易になったかもしれない。

 

しかし、今作「1917」は全編ワンカット(厳密にはワンカット風)であり、他のワンカット映画とは明らかに異質である。さらに、それがアカデミー賞作品賞にノミネートされるクラスのクオリティであれば、もはや見るしかない。

 

ワンカットが目的でなく、ワンカットが映画にもたらす「何か」を確認するために、映画館に走った。

 

ワンカットの凄さだけでなく、ワンカットのために計算され尽くした美術、メインキャストとエキストラの配置・行動に驚かされる。

この撮影のために約半年間練習を繰り返したとの情報があり、苦労に次ぐ苦労の末に完成された傑作だと分かる。

単にワンカットだから凄い、と言うわけではない。ワンカットを成功させるために必要な計画・準備の素晴らしさと労力を考えると、それだけで涙が出てきそうになる。

 

間違いなく、文句なしの大傑作であることは間違いない。

ワンカットがもたらす没入感とロングショットの多用は、映画館で映画を見るべき理由に直結する。素晴らしい。

上映中あまりに映画に没入しすぎて、隣で寝ているオジさんに「起きろ!戦争だ!」と喝を入れてしまったことは、今となってはいい思い出である。それくらい、他人事とは思えない状況にのめり込んでしまったのだから。

 

改めて、1917は大傑作であることは間違いない。技術の結晶である。

その技術力の高さは、視覚効果・撮影・録音など技術的な賞の総ナメに結実している。

 

しかし今作を見ると、改めて映画は技術でなく芸術の結晶が求められていることを認識する。

ワンカット、及びワンカットを実現するための技術は素晴らしい。

 

しかし、その技術力の高さゆえに犠牲になった映画技術もあることを、触れなければいけない。他の映画なら言及しないのだが、あまりの傑作ゆえの苦言である。

※苦言というとますますシネフィルっぽいので、助言と言いたいところだが、こちらも上から目線なので、もう苦言と統一することにする。

 

ワンカットに関する技術であれば、間違いなく金メダルである。しかし、映画全体のクオリティとしては、疑問に残る部分がある。

 

田村で金・谷でも金よろしく、サムでも金・ロジャーでも金を撮れるレベルであるし、実際に獲得している事実は疑いの余地がない。

しかし、作品全体には金メダルをあげられないのは何故だろうか?そして何故、アカデミー賞は今作でなくパラサイトに授与されたのだろうか?

 

 

www.machinaka-movie-review.com

 

 

今作に関しては、個人では金メダル、団体=作品賞では銅メダルだと感じる。

ワンカットであっても、ワンチームに見えないのが惜しまれる点と言ってもいい。

 

今作は間違いなく、映画を描いている。しかし、サム・メンデスが得意としてきた人間を描くことに関しては、ワンカットの技術が阻害しているように見えてならないのだ。

 

今後のワンカット映画のためにも、あるいは他のあらゆる映画のためにも、今作を手放しで褒めることは出来ないのだ。

 

 

 

 
 

あらすじ

  
・「007 スペクター」「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」などで知られる名匠サム・メンデスが、第1次世界大戦を舞台に描く戦争ドラマ。若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクの2人が、兄を含めた最前線にいる仲間1600人の命を救うべく、重要な命令を一刻も早く伝達するため、さまざまな危険が待ち受ける敵陣に身を投じて駆け抜けていく姿を、全編ワンカット撮影で描いた。1917年4月、フランスの西部戦線では防衛線を挟んでドイツ軍と連合国軍のにらみ合いが続き、消耗戦を繰り返していた。そんな中、若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクは、撤退したドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐の部隊に重要なメッセージを届ける任務を与えられる。戦場を駆け抜ける2人の英国兵をジョージ・マッケイ、ディーン・チャールズ=チャップマンという若手俳優が演じ、その周囲をベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロングらイギリスを代表する実力派が固めた。撮影は、「007 スペクター」でもメンデス監督とタッグを組んだ名手ロジャー・ディーキンス。第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む10部門でノミネートされ撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞した。

eiga.com

 

 
 
 

 

映画館で見る理由がここに!文句なしの大傑作!

 

苦言を呈してしまった手前だが、改めて言いたい。

 

今作は大傑作である!!

 

サム・メンデスの祖父の経験という超個人的なきっかけから、アカデミー賞にノミネート、英国アカデミー賞では作品賞を受賞するまでのクオリティの映画に仕上げることは、容易ではない。改めておめでとう!よくやった!!とベタ褒めしたい作品であることは間違いない。

 

今作はワンカットによる撮影と編集、併せて視覚効果が評価されているが、今作はそれだけではない。

ワンカットに至るまでの美術・衣装、エキストラも含めた俳優の配置と演技の全てが結集し、まさしく1本のフィルムを形成した偉業を讃えたい気持ちでいっぱいなんだよぉぉぉぉぉ!!サムちゃんやったね!!!! 

 

これを奇跡と呼びたくない、努力と技術が重なった必然であることは、疑いの余地がない。

 

舞台が1917年ということで、現代にはない衣装、死体のメイクアップ、何より塹壕を自作したことは本当に素晴らしい。

IMDBによると、今作は映画の撮影のために、5200フィート(約1.6km)の塹壕を掘ったという。実際の第1次世界大戦ではもっと長距離を掘ってはいるが、それでも映画のために1km以上の塹壕を掘ったことは凄まじいコストと時間が掛かったであろう。

 

また、道や川に放置されていた遺体はCGでなく実際に遺体役として人間が配置されており、近隣住民に本物の死体だと分からないよう注意の看板を立てたらしい。

さらに、今作は英国ソールベリー平原で塹壕が掘られ、未発見の遺体を掘り起こしてしまうため、考古学的な実証を行ってから、セットの製作に至ったらしい。

なんたる苦労の賜物。。ここまでして、1本の映画を作ったのか。。

 

この努力がワンカットを生み、リアルな戦争の没入感を与えたのだ。

個人的な感想だが、あまりの没入感ゆえ、勇敢に前に進むウィルとトムに恐れさえ感じた。

塹壕を登って平原を走る時には、いつ銃撃が来てもおかしくない。IMAXで見たこともあり、いつ銃撃の爆音に襲われるか、ヒヤヒヤできたのも今作の特徴だと思う。

 

俺はただ映画を見に来ただけなのに!!なぜ戦争に参加してんの!?

 

うーわっ!!!こーわっ!!

もうやめてっ!てかネズミまじキモくそぉぉぉ!!

もうやめてくれ!!ここから出して!!

 

と恐怖と動揺のあまり劇場から抜け出したい気持ちでいっぱいだった。

この反応こそが、ワンカットがもたらす没入感の証左なのだろう。

 

また、ワンカット・野外の撮影ゆえ、ロングショット(人物中心でなく、周辺の風景も含めて広角に撮影している画)が多くなったことも素晴らしい。

家では絶対に見れない大きい画面でロングショットを味わえることは、映画館の醍醐味だ。

1917は、現代の我々に映画館で映画を見ることの意義を改めて教えてくれる。

 

何度も言うけど、本当に素晴らしい作品!!!

 

映画のラストには、なんとも言えぬ達成感と感動が、劇場を包んだ。。

 

 

 

 

 

ワンカット技術が犠牲にした映画技術

・・・さて、ここからは苦言のコーナーになるので、今作を絶賛している方は見ないほうが良い、かもしれない。

 

今作のワンカット、及びワンカットを実現するための技術は素晴らしいものがあり、これに関しては文句がない。

しかし、その技術力の高さゆえに、他の映画技術をいろいろ犠牲にしているのではないか、と強く感じているのが正直なところだ。

 

・クローズアップの欠落がもたらすもの

 

まずはクローズアップの意味から説明してきおきたい。

 

極端な例ではあるが、「続・夕陽のガンマン」のラストのように、画面のほとんどが俳優の顔で占められてる構図のことを、クローズアップと呼んでいる。ちなみに、人間以外が被写体でヨリの絵を撮る場合は、クローズドショットとも呼ぶ。

 

クローズアップにより人間が大きく見え、役者の表情一つで映画を動かし、映画で人間をフューチャーするためには最適な構図である。

 

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©続・夕陽のガンマン

 

今作はワンカットによる撮影がゆえ、カメラが常に動き、被写体を追跡する撮影がメインとなっており、ミドルショット・ロングショットが中心の構図となっている。

 

また、ワンカットがゆえに、急激なパン(カメラの回転)やカメラのズームも違和感を与えてしまうため、極力使われないようになっている。

 

このワンカットのための撮影制限によって、今作ではクローズアップがほとんど見られない。

(クローズアップまでカメラを被写体に近づけるとカメラと役者がぶつかってしまう、あるいはフォーカスが合わない、などもクローズアップを使えなかった理由だと思う。)

 

これにより、ミドルショット・ロングショットが中心となり、メインキャラクターの人間描写が少し希薄に感じてしまったのは、気のせいではない。

せっかくの演技も、クローズアップなしでは伝わりづらい。

 

今作ではワンカットで没入感のある映像にはなっているが、クローズアップの少なさによりキャラクターに没入できないというパラドックスを孕んでいる。

 

今作のポスタービジュアル、及び本編からのカットを見ても、どれも人間は小さく、ミドルショット、ロングショットが中心となってしまうのだ。

 

ワンカットで映像の素晴らしさは描くことはできても、マンカット=Man Cut=人が中心のシーン、を描くのが困難なように見えた。

 

クローズアップの少なさがアカデミー作品賞、ひいてはアカデミー主演・助演賞を逃した理由だと思えてならない。

主演のジョージ・マッケイはもちろん、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッジが出演しているのに、なぜ俳優に関する賞は取れていないか、理由が分かったような気がする。

 

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©Google検索結果「1917」から抜粋

 

 

ワンカットであっても、人を描けていない(ように見えてしまう)のは辛い。

 

同じくサム・メンデス作品の「アメリカンビューティー」では、こんなに素晴らしいクローズアップがあるのに。

以下の写真は、まさしくバラ色の人生!を伝えるに素晴らしいショットだった。。

 

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©「アメリカンビューティー」(サムメンデス監督作)より抜粋

 

 

・時間操作が出来ないことのもどかしさ

また、ワンカットの撮影がゆえに、映画の醍醐味である時間操作が皆無だったことが悔やまれる。

 

これもまた極端な例であるが、タランティーノ作品のように時系列が全く異なるシーンを交互に入れ込み、物語を進行させることが、映画における時間操作だ。

 

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 今作は将軍に指令を受ける→大佐に会うために紆余曲折しながらもなんとかたどり着く。この一本の時系列のみが存在する。

 

今作は決してテンポが悪いわけでなく、むしろ体感時間は短いのだが、時間が一本調子なことで次の展開が読めてしまうという欠点が露出しているように感じた。

 

例えばウィルが牛乳を飲んでいる時に、ドイツ軍の飛行機が次第に迫ってくるシーン。

ワンカットで長く飛行機を写している時点で、「絶対にこれ、ウィルに近づいてくるだろ」と予測できてしまう。なぜならカメラは、常にウィルとトムに追従しているからだ。

 

遠くに見える飛行機がどんどん近づいていくシーンをワンカットで見せてしまうがゆえに、次の展開が確実に読めてしまうのが痛い。

飛行機は徐々にではなく、時間をカットして唐突に迫ってくる方が臨場感があると感じる。

 

ただ、今作で時間の操作を一切やってないかというと、そうではない。トムやウィルの過去を表すために、写真や認識票などといったガジェットで見せてはいる。

しかし、それだけでしか時間の巻き戻しを見せられなかったことが悔やまれる。

  

 

・そのドア、閉めなくていいんすか!?

 

すごく細かい点なのだが、ウィルがフランス人の女性の隠れ家に逃げ込むシーンにて、ワンカットならではの問題点が発生していた。

 

ウィルは女性に暴力を振るうこともなく優しく紳士的に接し、赤ちゃんのために牛乳を差し出すなど、完璧すぎるほどのナイスガイを演じていた。

 

しかし、ウィルもいつまでも女性の隠れ家にいることはできない。少しの休憩のあと、女性の隠れ家を後にする。

 

出口のドアを開け、ドイツ軍が潜む道をひたすら走る。。。

走る。。。

 

 

え? 

そのドア、閉めなくていいんすか!?

 

ドアを閉めないとドイツ兵に見つかっちゃうんじゃないの? 

開けたら閉める、これぞ紳士的な対応じゃないの?

 

女性がすぐ閉めなかったら、ドイツ軍が入ってきちゃうんじゃないの?殺されちゃうんじゃないの?せっかく牛乳もあげたのに・・!!

 

ウィルがドアを閉めなかった理由は単純明快。

なぜならウィルの後にカメラマンもドアを通過するからだ。

 

考えすぎかもしれないが、こんな些細なことを思ってしまうほど違和感のあるシーンだった。

ウィルは女性でなく、カメラマンに配慮してしまったように見えてしまうのだ。。

 

ワンカットがゆえに、起きてしまった問題なのだろうか。。

 

 

 

 

他のワンカット映画と比較して

実は他にもワンカット映画は存在する。

 

全編ワンカット作品は、アルフレッド・ヒッチコックの「ロープ」がなんと1948年に実現している。ただ、これはあくまで密室劇のため、1917の方が確実に撮影が困難だったことは言うまでもない。

しかし、ワンカットという括りでは既にヒッチコックが達成していたのだ。。

ロープ (字幕版)

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また、GoProなど一人称のカメラを装着して撮影した「ハードコア」も、ワンカット映画である。こちらも野外の撮影があり、もっと評価されても良い作品。

 

ハードコア(字幕版)

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  • 発売日: 2017/10/04
  • メディア: Prime Video
 

 

 「カメラを止めるな!」もワンカットが話題になった作品。ただ、こちらは全編ワンカットでなく40分弱がワンカットになっている。

カメラを止めるな!

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  • 発売日: 2018/10/27
  • メディア: Prime Video
 

 

 

 

 

まとめ

傑作がゆえに色々苦言を呈してしまったが、稀有なクオリティであったことは間違いない。

今作のワンカット映像によって、今後期待されるVR映画、及びVRコンテンツにとって、大きな参考資料となったことだろう。

 

また、ワンカットがもたらす没入感は、今後のドキュメンタリー映画の撮影手法にも多大な影響を与えると確信する。

 

しかし、今作をベタ褒めするだけでは次の作品に活かされない。ワンカットがもたらす利点だけでなく、弊害も語らなければいけないと感じて、本記事を書くに至った。

 

もう一度強く言っておくが、、、

 

 

本当に面白かったよ!!!

やったねサムちゃん!!!

 

89点 / 100点 

 
関連画像
 
 
 以上です! ご覧いただきありがとうございました!
 
 
 
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