「AI崩壊」のネタバレありで感想と解説(全体)
今回批評する映画はこちら!
「AI崩壊」
「AIやし、AIに歌わせればええんちゃうか!?」
「ダーハッハ!!それ名案ですわ部長!縁起も良いし、これで演技もバッチリやなw さっそくAIの事務所に電話入れますわ!!」
・・・と、調子の良すぎる企画会議があったか真偽は定かではないが、主題歌がAIの「AI崩壊」、今回批評する映画である。
「サイタマノラッパー」でインディーズ映画でありながら大人気を博し、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの入江悠監督。
今作も日テレ出資の映画で豪華な俳優陣を使った大作を撮る。しかも監督のオリジナル脚本で映画を作れるのだから、出資者から相応の信頼を勝ち得ているのは間違いない。
誰もが気になるAIの未来をディストピアとして描くのは、入江悠監督の作風そのもの。
テレビ局出資で様々な制約があったと思うが、作家性を保ちつつ商業映画として成立しえたのは監督の実力の証左であろう。
作家性を大事にし続け、インディーズで自分の撮りたい作品を作り続けるのも間違いではない。しかし、大作に挑み、大資本の荒波に揉まれながらも自らの実力を発揮しようと努力する人の作品を、誰が責められようか。
最初に言っておくが、今作に欠点がないわけではない。
特に、IT業界に務める企業人からしたらショッキングなシーンが連発するのは間違いない。
しかし、冷静に考えて欲しい。これは映画である。
リアルなAI描写を目的化していないのだ。映画に何を求めているか、人それぞれだとは思う。
しかし、AIという身近で将来性のあるツールにあえて警笛を鳴らし、その是非を考えてもらうには、うってつけの映画ではないか? あまりに分かりやすいテレビ的な発想ではあるが、テレビ局出資だからしょうがないじゃないか。
加えて、AIが崩壊し、混乱する世の中で何故かテレビニュースと新聞だけが何の問題もなく通常営業を続け、ネットがナリをひそめる珍現象も、逆に清々しくないか?
これもテレビ局出資だからしょうがないじゃないか。
AI崩壊に見せかけた、テレビと新聞のプロパガンダにも見えるのは分かる。
色々言いたいことがあるのも分かる。
自分の撮りたい作品に固執するのも良い。でも、映画はより多くの人に見てもらってこそ、映画だとも思う。
しかし、商業映画に揉まれながらも自分の作りたい映画を作る入江監督を、心から応援したい気持ちでいっぱいだ。
#AI崩壊 鑑賞ッ!
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2020年1月31日
主題歌もAIで何たるダジャレ映画かと思ったが、入江悠監督の18番であるディストピアSFが光る良作!
日テレ出資のため、ネットが崩壊した後も何故か問題なく放送しているテレビニュースが逆に微笑ましい!
何より、AIの役を見事に演じ切った #岩田剛典 の機械的な演技も素晴らしい!
あらすじ
・「22年目の告白 私が殺人犯です」の入江悠監督が自身のオリジナル脚本で、AIを題材に描いた近未来サスペンス。2030年、天才科学者の桐生浩介が亡き妻のために開発した医療AI「のぞみ」は、年齢、年収、家族構成、病歴、犯罪歴といった全国民の個人情報と健康を管理していた。いまや社会インフラとして欠かせない存在となった「のぞみ」だったが、ある時突然、暴走を開始。AIが生きる価値のない人間を選別して殺戮するという、恐るべき事態が巻き起こる。警察庁の天才捜査官・桜庭は、AIを暴走させたのは開発者である桐生と断定。身に覚えのない桐生は逃亡を開始する。桐生は「のぞみ」を管理するHOPE社の代表で、義弟でもある西村悟とひそかに連絡を取りながら、なんとか事態の収拾を目指すが……。大沢たかおが主人公・桐生を演じるほか、賀来賢人、広瀬アリス、岩田剛典、松嶋菜々子、三浦友和らが共演する。
テレビ局出資という、自由と制約のはざま
AI崩壊というキャッチーで分かりやすいタイトルに込められているように、今作はオリジナル脚本でありながらも、色んな配慮と忖度の末に製作された映画だと感じる。
監督がこんな分かりやすいタイトルを付けるのか、そんなことはないはずだ。
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何度も言うが、AIが崩壊し多くのデバイスが壊れる中、何故かテレビと新聞だけが通常営業しているのも、冷静に考えるとおかしい。
しかし、そんなことには目を瞑ろう。
岩田武典が犯人だってことは彼が登場した時点で分かっていることだ。
しかし、そんなことには目を瞑ろう。
テレビ局出資だからこそ、実際の道路を使って車を衝突させたことが、素晴らしい。
ハリウッド映画と比べては劣るものの、大作映画ならではの派手な見せ場を用意してくれたことに感謝。
AIで近未来を描きながらも、決して現実からは飛躍しないIoTデバイスのフォルムやロジック、今の技術でも決して不可能ではない手口に、意外性のなさを感じた。しかし、この意外性のなさこそが、現代に潜む恐怖なのだと思う。
傑作の演技をそのまま活かす潔さ
一番嬉しかったのは、名のある役者の良い演技を見事に引き出してくれたこと。
かなりシンゴジラに影響を受けたと考えられるキャスティングで、しかも役どころもシンゴジラとほぼ同じであった余貴美子、黒田大輔の使いどころも、もはや潔い。
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さらに、「葛城事件」でデリカシーのかけらもないオヤジを演じた三浦友和の演技を今作でまた見せてくれたのも、映画ファンとしては面白い。
岩田剛典の見事なAI演技に脱帽!
さらに、役者としては岩田剛典さんの演技が際立った。
今回はAIに精通した警察官ということで、黒幕という難しい役どころながら、見事に演じたと感じる。
さすがは、日テレが放送する日本アカデミー賞で受賞しているだけのことはある。
彼はあえて抑えた演技プランで撮影に挑み、犯人だと明かされても感情を高ぶらせることなく、淡々と冷静に、顔や体を微動だにしない風格ある演技で観客を引きつける。
これは私の仮説ではあるが、彼はAIに憑依されていた、あるいはAIに思考を乗っ取られていたのではないか?
そもそも、清純で笑顔の眩しすぎる岩田さんが、あんなサノス的な発想をするわけがない。
AIに何もかも奪われたがゆえの犯行だったのではないか?
つまるところ、彼が演じていたのは刑事ではなく、AIそのものだったのではないか?
ここで点と点が、初めて線になる。
まるで機械のような表情と声の演技、人間の雰囲気を感じさせない逆オーラは、AIに乗っ取られた人間の恐怖を描いたものではないか?
そうでないと、納得がいかない。
岩田さんは、AIに乗っ取られていたのだ。。
裏設定があったのか分からないが、ただの刑事を演じたのでは、説明がつかない。
それくらい人間離れした演技であった。
まとめ
色々言いたいことがあるのは分かる。
三度目だが、AI崩壊の中、テレビと新聞が元気に営業しているのは不思議でしょうがない。
いろんな粗がある中で、それでも自分の脚本が通り、大作を撮れることは今の邦画では奇跡的だ。
他にオリジナル脚本で邦画大作に挑める人は、数少ない。
これからの入江悠監督に期待したい一作でした!!
60点 / 100点