まえがき
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「ベルファスト」
それでは「ベルファスト」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・俳優・監督・舞台演出家として世界的に活躍するケネス・ブラナーが、自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品。ブラナーの出身地である北アイルランドのベルファストを舞台に、激動の時代に翻弄されるベルファストの様子や、困難の中で大人になっていく少年の成長などを、力強いモノクロの映像でつづった。ベルファストで生まれ育った9歳の少年バディは、家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごしていた。笑顔と愛に包まれた日常はバディにとって完璧な世界だった。しかし、1969年8月15日、プロテスタントの武装集団がカトリック住民への攻撃を始め、穏やかだったバディの世界は突如として悪夢へと変わってしまう。住民すべてが顔なじみで、ひとつの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断され、暴力と隣り合わせの日々の中で、バディと家族たちも故郷を離れるか否かの決断を迫られる。アカデミー賞の前哨戦として名高い第46回トロント国際映画祭で最高賞の観客賞を受賞。第94回アカデミー賞でも作品賞、監督賞ほか計7部門にノミネートされた。
「ベルファスト」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#ベルファスト 」鑑賞 いんやぁ、良かったなぁ。久しぶりに良い映画見たなぁ。 ベルファストという小さな街で起きる100分弱のミニマムサイズな家族ドラマに最大限の映画の魅力が詰まってた。 ケネスブラナーが映画人を志した理由もよく分… https://t.co/nO2AJBfKvU
さすがはアカデミー賞作品賞ノミネート
久しぶりに良い映画を見た、というのが率直な感想です。
今や映画は120分はおろか超大作だと140-150分が当たり前。
180分でも特に驚かなくなりました。
映画の尺で映画の評価を決めるわけじゃないですけど、今の長尺映画はどことなく間伸びしているような印象があって、「もっとコンパクトにまとめてくれれば」と何度思ったことか。
一切の無駄が無い、内容が凝縮された映画が好きなんです。濃度が高い映画というか。
持論ですが、テレビは足し算、映画は引き算が上手い作品が名作だと思うのです。
そういう意味では今作のベルファストは完璧で、小さな街ベルファストで生活する市井の人々の暮らしを描いたミニマムな98分でありながら、映画の魅力が最大限に濃縮された素敵な映画でした。
暴徒が闊歩し内戦状態のベルファストから飛び出すか否か、をめぐる一つの家族の物語で、暴徒のシーンは迫力あれど、それ以外は基本的に家族の会話劇で進められていく。
すごく地味な話にも思えるんですが、モノクロによる引き算の画や構図の美しさに見惚れ、常にカメラが動き回ることで普段の日常がドラマティックに見えて、見る者を惹きつける。
そして、最後のメッセージには、今世界で起きているとある悲惨な出来事を意識させる内容になっていて、ベルファストに生きる一家族という非常にローカルなものがグローバルになる瞬間がカタルシスでした。
最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ
2年前にアカデミー賞作品賞を受賞したポンジュノが、マーティン・スコセッシの言葉を引用してこう言っていました。
「最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ」と。
幼少期にベルファストで生まれ育った監督・脚本・制作を務めたケネス・ブラナーによる自伝的作品であり、彼に獲っては非常に個人的な映画になります。
誇張や強調はあるかも知れないけど、映画で起きる様々な出来事は実際に体験したものでしょう。
特に家族の描写。もしこれが全て空想のものだったら、主人公のバディはもっと切迫した状況に追い込まれ、家族は決別寸前で、もっと絶望的な状況になっていたことでしょう。もっと分かりやすいドラマ性を入れたことでしょう。
でも、この家族はそうじゃない。
ケンカや仲違いは多くても、結局最後は一つになって家族として生きていく。
家族の一致団結をドラマチックに描くことなく、本当に実在するかのようなバランスが絶妙なのです。
彼の個人的な出来事が元になっているからこそ、作品に命を吹き込むことに成功したのだと思います。
一番お気に入りのシーンは、冒頭にプロテスタントの暴徒が家を襲ってくるところ。
カラーで現代のベルファストを描き、モノクロに変わってバディが移った直後に、暴徒が映し出される。
いかにも怪しい集団がドカドカと歩いてくる感じには見せなくて、あくまでバディの目線で「なんか変な人たちがこっちに向かってる」という印象を与える見せ方がお見事でした。
カメラがぐるりと回って暴徒と周辺の家々を見せていくのですが、その回転にバディの動揺がうまく表現されているんですよ。
「早く家の中に入れ!」と周りの声が聞こえてはいるけど、体が反応しない。
日常が壊され、ただ立ち尽くすことしかできない。
このリアルな動揺を的確に表現したカメラワーク。おそらくケネスの目にもそうやって見えていたのでしょう。
なぜ作品だけ色が付いているのか?
基本的にはモノクロなのですが、映像や演劇などの作品だけは鮮明なカラーに映るのが素晴らしいですよね。
確かに、バディの生きる日常はハッピーとは言い難い。家の近くで暴動が起きるし、両親は衝突しがち。
でも、テレビに映る西部劇やサンダーバードの番組、映画館や劇場での作品鑑賞をしている時間だけは、彼の目が輝きだす。
特に、演劇を見ているジュディ・デンチのメガネだけが黄色く色が付いている(レンズ越しに演劇を見ているから)が象徴的でしたよね!
バディにとっては、日常はモノクロのように灰色だったのかもしれない。でも、作品を見ている時だけは目が輝いて色んな色を放つ。
彼が映画人を目指すようになったのも、今作で描かれた原体験が大きかったのでは無いでしょうか?
特にアガサ・クリスティの小説がクリスマスプレゼントとして置かれていることが印象的で、だから「オリエンタル急行殺人事件」で監督・主演を務めたのかと納得したのです。
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まとめ
さすがはアカデミー賞ノミネート。
普通の劇映画であればもっと味付けの濃いドラマチックな話に持っていく話なのですが、自分の経験に基づいて、ローカルな視点からグローバルな映画を作ることに成功していました。
同じモノクロ映画で、監督自身の体験に基づく話、という点で、アルフォンソ・キュアロンの「ROMA」を思い出しましたね。
ROMAはアカデミー作品賞にノミネートされたこともあり、今作が制作するきっかけになったのではないでしょうか?
監督個人の経験を知ることで、ケネスブラナーがもっと好きになる作品でした。
あの家族が幸せになることを祈るばかり。。
94点 / 100点