「エクストリーム・ジョブ」のネタバレありで感想と解説(短評)
今回批評する映画はこちら!
「エクストリーム・ジョブ」
シネマート新宿で「#エクストリームジョブ」鑑賞!
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2020年1月4日
韓国の歴代動員数を塗り替えた作品は、刑事モノの枠を超えたエクストリームなバランスのコメディ映画!
韓国お得意の愚痴トークとフィジカルたっぷりのツッコミが冴え渡り、2時間笑いっぱなし!!
あれ?でも俺刑事モノ観に来たんだよね?
79/100点
あらすじ
・ひょんなことから大人気フライドチキン店を経営することとなった麻薬捜査班の姿を、「王になった男」のリュ・スンリョン主演で描いたコメディ。忙しく走り回りながらも、思うような実績を積めずに解散の危機を迎えている麻薬班。国際犯罪組織の国内麻薬密搬入情報を入手したコ班長は、チャン刑事、マ刑事、ヨンホ、ジェフンの4人のチーム員たちとともに潜伏捜査を開始する。24時間監視のため、犯罪組織のアジト前にあるチキン屋を買い取り、麻薬班メンバーによるチキン屋稼業をスタートさせるが、絶対味覚を持つマ刑事の隠れた才能により評判が広まり、チキン屋は捜査にも手が回らないほどの大人気店となってしまう。そんなある日、麻薬班に捜査の絶好の機会が訪れるが……。監督は「二十歳」のイ・ビョンホン。
映画リテラシーが試される一作
実力はあるがダメな刑事たちが、再起をかけてホシを追いかける作品は、これまで数多く鑑賞してきた。
今作も上記のフォーマットを踏襲してはいるが、明らかにギャグのパートが長い、長すぎる。。
コメディ映画だから、コメディが目的化するのは良い。時には物語の進行を防いだって構わない。
が、今作はタイトル通り「エクストリーム」なギャグ配分によって、物語の進行=捜査が1時間以上停滞してしまう驚きの演出がなされている。
「大麻」「落ちこぼれ警官」「潜入、なりすまし」
と聞くと、「21ジャンプストリート」を彷彿とさせる。
今作はチキン屋になりすまして捜査活動を行うが、21ジャンプストリートとは圧倒的に違う点がある。
チキン屋になりすます必然性や合理性が全くないのだ。
チキン屋になりすます理由はホシの事務所と真向かいで、ホシから出前が来るから、という単純な理由である。
おまけに、チキン屋の店主が閉店するからと、まさかのチキン屋ごと購入する決定を下してしまう。
あまりの意味不明な決断に、一瞬めまいがした。
その後はチキン屋になりすまして捜査を続けるが、そこから主人公たちは飲食業に傾倒していってしまう。
捜査は?本業は?
観客の誰もがツッコみたくなる展開だが、韓国映画お得意のスラップスティックなギャグとツッコミで劇場は笑いに包まれ、捜査継続を訴える声も小さくなってしまうのだ。
笑いのゴリ押しが炸裂し、我々の映画リテラシーも崩壊させるほどの怪作とでも形容した方が良いのかもしれない。
チキン屋の成功がもたらしたもの
今作を見て何かを得るわけでもなく、主人公が成長する訳でもない。
一つ成長した点があるならば、唐揚げが上手に揚げられるようになったことくらいだろうか。
これがタメになるかどうかは分からないが、最近笑いが足りていない方にはオススメの一本だ。
笑いどころはネタバレできないが、警察なのにチキン屋に傾倒するというアンビバレントな環境のみで、110分の映画を飽きずに見られることが奇跡であろう。
チキン屋に没頭→あれ!?捜査は!?→チキン屋に没頭
という至極単純なループを、60分ほど繰り返していくのだから、正気の沙汰ではない。
これまで韓国映画の刑事モノには、三幕構成のような映画文法が存在した。
ダメな主人公の描写、新たな目標の提示→目標に向かってまっしぐら!、しかし挫折→みんなでファイティン!目標達成!!
、、書き出して見たが、これは紛れもない三幕構成であった。
、、ともかく、今作の新しい点は、刑事としての威厳を刑事の仕事で取り戻すという従来的な単一の目標設定ではなく、「チキン屋でもやっていけるよ!」という新たな目標設定を追加してしまったのである。
正直意味のわからない目標ではあるが、チキン屋が成功していく様子を見た我々観客は、何故か喜びや達成感を感じてしまったのである。
チキン屋の成功によって、刑事の尊厳を取り戻すという以前に、社会人としての尊厳を取り戻したことにカタルシスを得ていたのだ。
主人公が刑事という設定であることから、刑事の仕事で汚名返上をするものと決めつけていたが、そもそも映画はキャラクターの成長というだけでカタルシスを得てしまうのだ。
刑事というキャラクター設定であっても、チキン屋という第二の選択肢を提示したことは大きな決断だと思う。
チキン屋の描写が少なく、あくまで伏線の一つとして位置付けられていたなら、今作も数ある韓国刑事モノとして埋没化していっただろう。
刑事モノというフォーマットを破壊した代償として、物語の進行が完全に妨害されてしまった。
しかし、我々観客には爆笑を提供してくれた。
つくづく、製作陣には刑事モノとして成立させる気がほとんどないのだろう。そして、チキン屋の成功が目的でもない。
そもそもタイトルに「刑事」や「チキン」が入っていない。あくまでも今作は、「仕事」の話なのだ。
韓国では、映画の企画を通す時に「刑事モノ」というジャンルは強く、それを巧みに利用したとも考えられる。
極端な言い方ではあるが、今作が韓国映画にとってのニューシネマとなることを、祈念しておきたい。
刑事モノからいかに逸脱し、自分の実力を発揮できるかが、今後の韓国映画にとっての鍵となるかもしれない。
まとめ
先ほど考察に漏れてしまったが、今作では「人が死なない刑事モノ」という点も魅力の一つである。
韓国の刑事ものといえば人が死ぬ、しかも酷い殺され方をするのがお決まりだが、今作ではそれがない。
刑事モノを追求すればするほど、エログロ描写が強化されていくのは自明の理。しかし今作は誰でも見れるエンターテイメント映画になっている点で非常に魅力的だ。
チキン屋に真っ向から立ち向かった姿勢は、チキンじゃない。
79 / 100点