まえがき
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「フェイブルマンズ」
それでは「フェイブルマンズ」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・「ジョーズ」「E.T.」「ジュラシック・パーク」など、世界中で愛される映画の数々を世に送り出してきた巨匠スティーブン・スピルバーグが、映画監督になるという夢をかなえた自身の原体験を映画にした自伝的作品。
初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になった少年サミー・フェイブルマンは、母親から8ミリカメラをプレゼントされる。家族や仲間たちと過ごす日々のなか、人生の一瞬一瞬を探求し、夢を追い求めていくサミー。母親はそんな彼の夢を支えてくれるが、父親はその夢を単なる趣味としか見なさない。サミーはそんな両親の間で葛藤しながら、さまざまな人々との出会いを通じて成長していく。
サミー役は新鋭ガブリエル・ラベルが務め、母親は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」「マリリン 7日間の恋」などでアカデミー賞に4度ノミネートされているミシェル・ウィリアムズ、父親は「THE BATMAN ザ・バットマン」「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」のポール・ダノが演じるなど実力派俳優が共演。脚本はスピルバーグ自身と、「ミュンヘン」「リンカーン」「ウエスト・サイド・ストーリー」などスピルバーグ作品で知られるトニー・クシュナー。そのほか撮影のヤヌス・カミンスキー、音楽のジョン・ウィリアムズら、スピルバーグ作品の常連スタッフが集結した。第95回アカデミー賞で作品、監督、脚本、主演女優(ミシェル・ウィリアムズ)、助演男優(ジャド・ハーシュ)ほか計7部門にノミネートされた。
「フェイブルマンズ」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#フェイブルマンズ 」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2023年3月4日
人生を映画にしてきた男スピルバーグの脳内を2時間半ほど覗かせてもらった。
デビュー作はなぜ「激突」だったのか。なぜ崩壊寸前の家族ばかり描くのか。その理由を知るだけでも映画ファンとしては垂涎モノ。
彼の映画のエッセンスがここにある。 pic.twitter.com/LZKqXdy8ER
監督の人生と映画を結びつける貴重なマスターピース
「6歳のボクが大人になるまで」のように、幼少期から高校卒業までを中心に描かれるスピルバーグの自叙伝的物語。
スピルバーグの映画を一度も見たことないって人はいないと思います。
でも、全部見てきたって人も少ないと思います。
映画に興味がない人は監督の作家性や人生にも興味がない。
当たり前のことです。僕らがカップラーメンを食べてる時に作り手の苦労とか人生とか知らないようなものだから。
でも、映画ファンならば伝えたいんですよ。監督のことを知るともっと映画が面白くなるって。監督の人生と映画は直結してるんだって。
今、この映画を色んな人に勧めたい気持ちでいっぱいです。
まずはこの気持ちを吐き出しておきたかった。。。
これほどまでに作り手の映画に対する気持ちが込められた映画ってないですよ!
序盤、初めて映画館で観た映画が「地上最大のショウ」。そこで車と電車が「激突」するシーンが忘れられずに家に帰っても悶々としているサム少年。
もう映画ファンならご存知ですね?
そうです、スピルバーグの長編デビュー作「激突!」ですよ!!
最初から涙腺崩壊ですよ!
デビュー作は監督の長年溜めてきた想いが込められてると言いますが、まさかあんな小さい頃から温めてきたなんて・・・
スピルバーグは「恐怖」と「破壊」に魅せられてきた人なんですよね。
だからこそキャリア初期に「ジョーズ」を撮ったし、その後もドキドキハラハラするような映画を作ってきた。
彼の映画の原点を追体験したかのような感覚。これは映画ファンとしては本当にありがたい。。
その後もボーイスカウト仲間と映画を作ったり、高校の卒業映画担当になったり、子供の頃からずっと映画を撮ってきた。カメラを離さなかった人なんですよね。
スピルバーグは最初から才能があったわけではないように見えました。
好きを貫き、常に映画と向き合ってきたからこそチャンスが舞い込み、ジョン・フォードと会えるチャンスを貰えたんですよ。
スピルバーグが成功したのは努力と継続の賜物があったからこそ。
真っ直ぐでまっとうで、誰が見ても文句のつけようのない作品だったと思います。
どんな作品でも人が作る以上はその人の人生が反映されている。そうした見方をしない人もいらっしゃるかもしれませんが、是非とも今作をきっかけに監督と映画を結びつけてみてはいかがでしょうか。
間違いなく作品が何倍も面白くなります。
人生で大切なことは全て映画で伝えてきた
分かりやすい成功物語ではありませんでした。
スピルバーグという実在の人物だからこそ、映画にすると少し違和感のあるシーンも多く見られます。
一番引っかかるのは、両親の不仲と母の不倫のシーンがかなりの尺を割いて描かれていること。普通の映画ならここまで描かれることってないんですよ。
あくまで主役はサムだし、なんでここまで長い時間を使うのでしょうか。
その理由は簡単で、それほど心にわだかまりが残ってたんでしょうね。
実は私も高校の時に両親が離婚して、頭の中はずっと両親のことばかり。
自分は子供だから、どうすることもできない。でも、ただただ頭の片隅にこびりついて離れない。
スピルバーグの撮る映画の主人公って、不仲な両親の息子であることが多いんですよ。
映画としてドラマを作りやすいからではなくて、スピルバーグ自身の体験から来てるんですよね。
これまでも、そしてこれからも主人公の設定はブレずに描かれ続けると思います。
そして、一番印象的だったのは母が不倫していることを自分の撮ったカメラの映像で知ってしまうこと。
これまで映画に救われてきた男が、夢と希望を持ってカメラを回し続けてきた男が、映画を撮ることによって地獄を知ってしまったわけです。
その後、映画を撮ることを休んでしまう。そんな事情を全く知らないセス・ローゲン。いやゲス・ローゲンが本当にいやーな仕事しますよねw
主人公の挫折を映画の中の映画で伝えるこの演出。。映画を好きな人間なら見ていて本当に辛いシーンでした。
でも、このままじゃ終わらないんですよね。サムはこの不倫の事実を口で言わずに、まずは態度で示す。そして不倫の証拠が記録されたテープを母に一人で見せる。
・・・えげつねぇですよ。これ。
お母さんが不安定になったのはサムの影響もありますよww
でも、彼が一番自身のある伝え方って映画なんですよね。
いじめっ子を卒業映画の主人公のように見せたのも、言葉では言えない複雑な感情があったから。
人生で大切なことは全て映画で伝えてきた。彼の映画人生はここから始まってるんですよね。
そして、今作の白眉はラストシーン。
憧れのジョン・フォードと対面し、「この絵の地平線はどこだ?」と聞かれるシーンです。もうね、この哲学的な問いを何度も本や動画で見てきて、今まで正直言って意味が分からなかったんですよ。でも、今作を見てやっと理解しましたよ。
地平線が上にあっても下にあっても良い。でも真ん中はつまらない。
この地平線っていうのは、文字通り大地の果てと空の境界線のことですけど、どうやらそれだけじゃなさそうなんですよね。
カメラを上に向けると地平線の位置は下がる。下に向けると上がる。
これは人生が上向きか下向きかを端的に表してると思うんですよね。
ただただ平坦な普通の人生なんてつまらねぇ。上がるか下がるかどちらかだ。
これまでのスピルバーグの人生を肯定すると同時に、激励しているように思えました。
さすがはジョン・フォード。これ以上の言葉はいりません。
そしてラスト。巨大なスタジオがある通りを歩くサムのカットで終わりますが、最後にカメラが動きますよね?
ここでカメラはどっちに動いたのか、そして地平線はどう変わったのか?
・・・うーむ、素晴らしいカットです。
まとめ
役者陣もホント最高なんですよ。。特にミシェル・ウィリアムスね。あの人本当にうまいなぁ。浮気心を抱えながら献身的な妻を演じて、彼女の精神の塩梅によってサムの人生も大きく左右されますからね。見事な助演だったと思います。
最初にもお伝えしましたが、監督の人生と映画を結びつけるには最適な一本です。
映画ファンの方はもちろん、そうでない方も是非ご覧になってください!!
94点 / 100点