まえがき
今回批評する映画はこちら
「君たちはどう生きるか」
「レッドタートル」以来、超久しぶりのジブリ映画。
つまんなかったなぁ・・・
「レッドタートル」批評・解説 ジブリの最新作はエゴイズムでエコイズムな超難解アート映画! - Machinakaの日記
しかも宮崎駿作品の新作を映画館で見るのは、生まれて初めてです。
コロナ禍で「もののけ姫」を劇場で見たけれど、90年代の作品をリバイバルで上映したに過ぎません。
完全新作を映画館で見ることに、非常に期待度が増しております。
しかも前情報が一切なし。絶対にネタバレを踏まないように気をつけます。
映画館でもイヤホン全開で会話が聞こえないようにします。
それでは「君たちはどう生きるか」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・宮崎駿監督が「風立ちぬ」以来10年ぶりに手がける長編アニメーション作品。
「千と千尋の神隠し」で当時の国内最高興行収入記録を樹立し、ベルリン国際映画祭でアニメーション作品で初となる金熊賞、ならびに米アカデミー賞では長編アニメーション賞を受賞。同作のほかにも「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」「ハウルの動く城」などスタジオジブリで数々の名作を世に送り出し、名実ともに日本を代表する映画監督の宮崎駿。2013年公開の「風立ちぬ」を最後に長編作品から退くことを表明した同監督が、引退を撤回して挑んだ長編作品。
宮崎監督が原作・脚本も務めたオリジナルストーリーとなり、タイトルは、宮崎監督が少年時代に読み、感動したという吉野源三郎の著書「君たちはどう生きるか」から借りたものとなっている。
「君たちはどう生きるか」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#君たちはどう生きるか」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2023年7月14日
一貫して「飛ぶ」ことへの希求を描いた宮崎駿の自己投影、ここに極まれり。
戦争中、幼い頃に租界した経験をそのままに、当時抱いた恐怖と夢を羽いっぱい広げて映画に昇華させた。
立つ鳥跡を濁さず。前情報一切なく作品を上映して仕事を終える姿に拍手。
凄かった。 pic.twitter.com/7momnaktxX
立つ鳥跡を濁さず
クリント・イーストウッドがかつての自分を投影したかのような作品「クライマッチョ」を製作しましたが、人生の最期(かもしれない)を悟った映画人たちはかつての自分を振り返り何かしらの教訓を与えるような作品を作りたいようで。
今作「君たちはどう生きるか」も、宮崎駿がかつて自分が幼少期に疎開した宇都宮の家での体験をベースに、ジブリのファンタジー性を損うことなくアート映画へと昇華させました。
正直、賛否は分かれる作品でしょうし、スクリーンだけを追っていても何が何だかよく分からない映画だと思います。
・宮崎駿の幼少期の実体験が盛り込まれ、主人公の眞人に自分を投影している
・少年時代から今までずっと「飛ぶ」ことに憧れ、描いてきた監督の集大成でもある
こうしたサブテクストが拾えないと、盛り上がりに欠けるし何だかなぁと思ってしまうでしょう。
一言で要約すると、今作は「戦時中に東京から疎開した少年が異世界に迷い込み父の再婚相手を探す」物語なのですが、物語自体にあまり意味はないように感じます。
それよりも、木々や緑など自然の息吹の表現に見入ったり、背景の美しさに見惚れたり、ワンカットワンカットが美術作品として素晴らしい出来映えになっている点を評価すべき映画なのでしょう。
今回はキャラクターが極端に薄いです。
キャラクターに濃い味付けを加えることなく、キャラを差別化しようと髪の色を変えたり目を大きくしたりすることなく、むやみやたらに恋愛要素を加えることもなく、エンターテイメントに必要な味付けが皆無だったように思えます。
何より、キャラクターの表情が他のアニメ作品に比べて非常に落ち着いています。
頬を赤らめたり、大量の涙をこぼしたり、泣き喚いたり、叫んだり、そうした描写も少ないように感じました。
また、劇中にほとんど劇伴が付いていなかったのもジブリ映画には珍しいのではないでしょうか。
宮崎駿監督ではないですが、ジブリの前作は「レッドタートル」であらゆる説明要素を徹底的に削ぎ落とした内容になっていました。
立つ鳥跡を濁さずと言いますか、あまりにもそっけないラストにも驚きました。
「トトロ」や「ラピュタ」や「魔女の宅急便」のように子供に向けたエンターテイメント映画ではなく、「もののけ姫」のように環境問題を意識した訳でもなく、今作はあくまで自分のための映画な訳です。
今作は監督の自己表現です。
「風立ちぬ」と同じく、2作連続で監督の自己投影です。
これをどう捉えるかが、作品を評価する上で大事かと思います。
エンタメ作品として万人ウケする作品を作って欲しかったのか、それとも自己表現をもっと続けてほしいのか。
個人的には、もう少しエンタメに舵を切っても良かったのではないかと思ってしまいます。日本を代表する映像作家として、新作への期待は大きい。かくいう私も、上映直前にかつてのジブリソングを聴きまくりテンションをあげてから行ったので、本編を見て少し肩透かしを食らったような感覚でした。
もちろん映像表現としては卓越したものがありました。冒頭、眞人が空襲に気づき急いで家を出るまでの表現しかり、全てのモブキャラが活き活きとしているジブリならではの精緻な動画表現はキャラクターに生命の息吹がかかっていました。
しかし、それだけじゃ映画は成立しないんですよね。
私がアート映画全般が苦手というのもありますが、、、、
今回はエンターテイメント要素を徹底的に削ぎ落とし、正真正銘のアート作品だと言えるでしょう。
見終わった私のテンションからよく伝わると思います笑
「いや〜〜、あのシーン良かったよね!!」「そーそーww」とかワーワー語る映画でもないんですよねw
だから間違ってもジブリ映画デートみたいなノリで行くと面くらいますww
むしろお前らデート行って気まずい思いしてこい!!!!!!
それも人生経験だw
こうしたアート映画が全国で大々的に流れるのも珍しいです。
ぜひこれを機会に考えてみてくださいよ!!!
あらすじと共に今作の特徴を振り返る
いろいろ書いてきましたが、少しあらすじを書きながら所感を入れていきたいと思います。
冒頭、主人公の牧眞人が東京で空襲に遭うシーンから始まります。
父親と共に空襲の惨事を眺め、急いで着替えて母を助けに走る。
まずここのシーンで驚かされました。眞人の走る姿、服を着る姿、どれもこれも他のアニメ作品ではみられない表現ばかり。
単にコマ数が多いとかそういう話ではなくて、挙動の多様性ですよね。
細かいところかもしれませんが、アニメーションは細部に宿ることを最初から痛感させられました。
その後、母の元へ向かうシーンでキャラクターの顔が溶けたように見えています。これも空襲の熱波によって視界が歪んでいるのと、眞人の心象をよく表しているものだと思います。これも凄い、、他の作品では見られません。。
そして舞台は東京からある地方へと。父親の再婚相手の元へと向かいます。
再婚相手は、なんと母の妹であるナツコ。何ということでしょう。。
ナツコの実家へと向かうのですが、そこで人力車に乗るシーンがあります。
人力車がヨッサヨッサと揺れる表現も恐るべしで。。
実家へ着くと、かつて宮崎駿監督が疎開した宇都宮の家によく似た家屋が映ります。
しかし、実際の家よりも遥かに広く、しかも人力車を使っていたことからも分かる通り、非常にお金に余裕のある家庭でした。
また、真人の父親は工場で勤務とのことでしたが、下っ端ではなく相当上の立場(経営者?)のようで、転校先の小学校へも自家用車で向かう。
当時の生活水準を考えると超がつくほどお金持ちな家庭なんですよね。
そうした生活に眞人は辟易しているようで、ナツコの手厚い対応にもどこか敬遠しがち。加えてナツコ家のお手伝いをするオババ集団も大量にいて、気まずさマックスです。一番キャラが濃いのがオババ集団でしょうねw 例えるなら湯婆婆が5−6人いる感じですねw
そんな豪邸で、眞人は一羽の青鳥と出会う。これがポスターに写っていた鳥ですね。
この鳥に名前はありません。ただ「アオサギ」と呼ばれるだけです。
眞人が自室で休んでいると、アオサギが窓を叩いて急に日本語を話し始めます。
「母さん!母さん!」、、、焦りますよねw
ここから一気にリアリティラインが崩れ、異世界の扉が徐々に開いていくんですよ。
その後も眞人の周りをうろついては「お待ちしております!」と何処かに連れて行きたい様子。アオサギに誘われて別棟の塔に潜り込もうとしますが、オババ集団に止められてしまいます。
そして、ナツコが体調不良になり休んでいるとの一報が入りますが、件の塔へと歩いて行く姿を見かけた眞人。
アオサギのせいだと怒り心頭の眞人は、ナツコを取り戻すためにアオサギを追いかけていく。
ここで、「千と千尋」で出てきたようなトンネルのような構造物が映るんですよね。
明らかな罠だとは分かってはいるが、ナツコを取り戻すために勇敢にも歩みを進める。
そして、予想通り異世界へと迷い込む。。
以上が前半のあらすじです。
異世界で何が起きるのか、どんなキャラクターが出てくるのかはお楽しみに!!
本編を見てくださいね!
まとめ
アニメーション表現としては本当に素晴らしいものがありました。
自然や乗り物が活き活きと描かれている様子は、ユニバーサルやディズニー、ソニー・ピクチャーズの映画でさえも再現できません。
温もりと滑らかさを備えたアニメーション表現、これはAIであっても難しいでしょう。
ワラワラが代表例ですけど、今作は丸みを帯びた表現が際立っていたように思えます。
こういうのはCGよりも手書きの方が得意なんですよね。
とはいえ、やはりエンタメ要素が薄かったのは残念でなりません。
今やジブリが時代を牽引していくような流れではありませんが、やはりリビングレジェンドとして誰もが「これは勝てねぇ」と思わせるようなエンタメとアート性を兼ね備えた作品を期待していましたので。
燃料投下させる言い方で申し訳ないけど、新海誠はやってたぞ!!!!
とはいえ、2010年代に映画にハマった自分としては、ジブリの新作を映画館で見れたこと自体に意義があるし、久しぶりに両隣に人が座るほど混んでいる状態で鑑賞できたのも良い思い出でした。
前情報一切なしで存在自体を知らない人もいると思いますが、どうやら予告編は制作しているようで(クレジットから判明)、後々に情報解禁されていくのだと思います。
できるなら、あと1作と言わず2−3作は作ってほしいなぁ。。。
92点 / 100点