まえがき
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「線は、僕を描く」
それでは「線は、僕を描く」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・水墨画の世界を題材にした砥上裕將の青春小説「線は、僕を描く」を、横浜流星の主演、「ちはやふる」の小泉徳宏監督のメガホンで映画化。
大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で水墨画と運命的な出会いを果たす。白と黒のみで表現された水墨画は霜介の前に色鮮やかに広がり、家族を不慮の事故で失ったことで深い喪失感を抱えていた彼の世界は一変する。巨匠・篠田湖山に声を掛けられて水墨画を学ぶことになった霜介は、初めての世界に戸惑いながらも魅了されていく。
篠田湖山の孫で霜介にライバル心を抱く篠田千瑛を「護られなかった者たちへ」の清原果耶、霜介の親友・古前を「町田くんの世界」の細田佳央太、霜介に触発されて古前と共に水墨画サークルを立ち上げる川岸を「サマーフィルムにのって」の河合優実が演じ、三浦友和、江口洋介、富田靖子らが脇を固める。
「線は、僕を描く」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#線は僕を描く 」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2022年10月21日
和文化系青春モノの名手、小泉監督が真っ白なスクリーンに新たな彩りを加えた。
水墨画のように、白黒の服や時計や家屋に至るまで色を同期させる画作りはお見事。
が、水墨画と違ってキャラに命が吹き込まれていない。見事な水墨画を描く前に見事な映画を描いて欲しかった。 pic.twitter.com/rMzogHZJxp
もっと白黒付けた内容にして欲しかった
いやー、一言で説明するなら「思ってたのと違った」案件です。
「ちはやふる」と同じく日本の伝統芸能と若者の苦悩と葛藤を描いた今作。
ただし、前者とは対照的な描き方をしていました。
前者は前者は競技かるたを取り上げて、勝ち負けが非常に分かりやすいスポ根としての描き方。どちらが先にかるたを取れるか、どちらが先に自陣の札を無くせるか。
数と時間の論理であり、誰がみても分かりやすい勝ちと負けがありました。
後者である今作は競技ではなく完全にアートの領域。一応、「水墨画に命が込められているか」が評価の高い基準とはなりましたが、非常に定性的です。
もちろん、映画はどちらのケースでも上手く表現することができます。
ハッキリと分かりやすい描き方、抽象的な描き方、映画においてはどちらも得意・不得意ということはありません。
今作は非常にコンセプチュアルです。
知られざる水墨画の世界を舞台にして、白黒ハッキリ付けられない主人公の苦悩と葛藤を水墨画に込めてみせて、白と黒の中にある多様な色が織りなす世界をみせてくれました。
水墨画を描く様子は、まるで人生をなぞらえているようです。
最初は真っ白で何もない状態。そこからシワのように線が一本二本と増えていく。
これが積み重なり、一つの作品となる。
横浜流星や清原果耶が着ている服も白黒、時計も白黒、派手な色は細田佳央太さんの服ぐらい。
映画の全てが水墨画の色と同期するかのような、美しい映画でございました。
「ちはやふる」とはまた違った作風で、ずっと横浜流星の心の中を描く勝ち負けが難しい題材でした。
何より、横浜流星が最後に描く題材は彼が長年苦しんできたものの表れでした。
なぜ彼は冒頭の水墨画で泣いたのか? 清原果耶と一緒に旅に出かけ見つけたものはなんだったのか?
三浦友和や審査委員長に散々言われ続けた「線が生きている」とは何なのか?
そしてタイトルの「線は、僕を描く」は何を意味するのか?
その答えが最後のシーンに込められているのですから、凄く上手です。
綺麗な作品です。
いくらでも褒めようと思えば褒められます。
ただ、私には合わなかった。。
1番の要因は水墨画の良し悪しを判断するものが非常に曖昧だったこと。
これは仕方のないことかもしれませんが、横浜流星は最後に自分のわだかまりとなっていた花を描いて、これが集大成と言わんばかりに映画を終わらせます。
もちろん彼が成長していく過程は見ていますが、いくらなんでも水墨画の描く対象が変わっただけで優劣を付けて良いのか、非常に気になりました。
水墨画を点数化するのは難しいことですが、もう少し作品の優劣を可視化して欲しかったです。
最後の最後くらいは、横浜流星の水墨画をどうやって描くかダイナミックにみせて欲しかった。あんなにスラスラと軽くふわふわしたカッティングで短くみせてしまって良いのでしょうか。
水墨画のシーンで一番ドキドキしたのは、江口洋介が突然筆を持って描き始めた時ですからねww 思わず「あ!」って言った時はビビりましたもんw
あのドキドキを最後でもみせて欲しかったなー
まとめ
あと気になったのは脇のキャラクターの弱さですかね。
特に横浜流星の同級生の細田佳央太くんですかね?
単に記号的な陽キャで、横浜流星が人生に悩んでいるときにリクスーを着て話しこむシーンがありますけど、関係性が浅すぎて全く親友に見えないんですよねー。
つまりキャラが生きてないんですよ。
見事な水墨画を描く前に見事な映画を描いて欲しかったですね。。
81点 / 100点