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映画「スペンサー ダイアナの決意」ネタバレあり感想解説と評価 息を呑むほど美しい真珠が、息の詰まる首輪へと変貌する

 
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この記事では、「スペンサー ダイアナの決意」のネタバレあり感想解説記事を書いています。
 
 目次
 

まえがき

 

 

今回批評する映画はこちら

 

「スペンサー ダイアナの決意」

 

Photo credit:Pablo Larrain


はい、スペンサーといえば阪神のシェーン・スペンサー野手しか頭になかったMachinakaです!!!
 
はい、どれくらいこのネタが通じるか分からないまま書いていますww

 

前評判が非常に高い今作。

 

ダイアナ王妃の伝記映画のようにも見えましたが、実際のところはどうなんでしょうか?

 

それでは「スペンサー ダイアナの決意」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。

 

 
 

あらすじ

  
クリステン・スチュワートがダイアナ元皇太子妃を演じ、第94回アカデミー賞で主演女優賞に初ノミネートを果たした伝記ドラマ。ダイアナがその後の人生を変える決断をしたといわれる、1991年のクリスマス休暇を描いた。
1991年のクリスマス。ダイアナ妃とチャールズ皇太子の夫婦関係は冷え切り、世間では不倫や離婚の噂が飛び交っていた。しかしエリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウスに集まった王族たちは、ダイアナ以外の誰もが平穏を装い、何事もなかったかのように過ごしている。息子たちと過ごす時間を除いて、ダイアナが自分らしくいられる時間はどこにもなく、ディナー時も礼拝時も常に誰かに見られ、彼女の精神は限界に達していた。追い詰められたダイアナは故郷サンドリンガムで、その後の人生を変える重大な決断をする。
監督は「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」のパブロ・ラライン。

スペンサー ダイアナの決意 : 作品情報 - 映画.com

 
 
 
 
 
 

「スペンサー ダイアナの決意」のネタバレありの感想と解説(全体)

 

 
 

 

映画でしか起こり得ない奇跡がある

 

伝記映画と思って鑑賞に望んだのですが、ラストは全く異なるものでした。

 

まだ衝撃の余韻が冷めません。

  

ダイアナ王妃の史実は過去のニュースで知っています。

交通事故による不慮の死を遂げた彼女。

 

それを象徴するかのように、道路に横たわっている鳥が車に轢かれそうになっているシーンが冒頭に映ります。

 

途中でダイアナ自身が明言していますが、鳥は彼女の象徴です。

 

自由な翼を持つはずである鳥が道路に横たわっている=飛べない鳥=王家に束縛され自由を奪われたダイアナ自身であることを端的に表しています。

「籠の中の鳥」という言葉もありますし、鳥は自由の象徴でもあり、自由を奪われた者の象徴でもあるんですよね。

 

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長々と冒頭のシーンについて語ってしまいましたが、ちゃんと理由があるのです。

 

このワンシーンが映画の全てを物語っているんですよ。

個人的に、冒頭のワンシーンで全てを伝える映画は名作だと思っていて、もっと言えばキレ味が鋭いんですよね。

 

鳥が横たわるシーンは、最初は意味がわからなくても、後を追うごとに次第に分かっていきますよね。

特にラストは誰が見ても鳥と自身を重ねています。

 

歴史と伝統を重んじる王家に潰されそうになりながらも、必死にもがき羽ばたこうとするダイアナ王妃の「事実に基づく寓話」なんです。

 

悲しい歴史は、フィクションでしか変えられない、救えない。

 

今作はダイアナ王妃の絶望的な最期を、映画というフィクションによって救おうとした者ではないか、と考えています。

 

同じく史実では悲壮な死を遂げたシャロン・テートを映画で救ったタランティーノ監督作品「ワンス・アポン・ア・タイム イン・ハリウッド」と近いものを感じました。

 

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映画というフィクションでしか変えられない奇跡がある。

 

そこには世界を人を少しでも良くしたい作者の想いがある。

 

私は英国民ではないので王妃を想う気持ちはわからないのですが、王妃に近い存在として皇族のことを真っ先に思い浮かべました。

 

国の代表・象徴と慕われる人物が悲劇的な最期を迎えたとしたら、どれだけショックな出来事か。

ニュース速報が流れ、国民全体が喪に服します。

 

正直、国葬の比ではないとてつもない悲しみが国全体を覆うでしょう。

 

常に不安定で危うさを醸し出す王妃を見事に演じきったクリステン・スチュワートには脱帽でした。

ストレスによって食べ物が胃を通らず、華奢な体がいっそうの孤独感と不安定さを表現していましたね。

 

見た目はもちろんですが、印象的だったのは声ですね。

ダイアナ王妃に寄せつつも、今作で肝となる不安定さと危うさを見事に表現した「息の詰まった声」がいまだに耳から離れません。

 

 

 

息を呑むほど美しい真珠が、息の詰まる首輪へと変貌する

ダイアナ王妃が王家の圧力に苦しめられる様子を、今作はセリフなど直接的な描写ではなく、衣装や食べ物など身の回りのもので巧みに表現していましたね。

 

ツイートで今作を今年ベスト級だと言ったのも、卓越したメタ表現が大きく寄与しています。

 

最も象徴的なのは、ダイアナ王妃が「着けさせられている」真珠のネックレス。

 

女王を囲んでの食卓で、あまりの不快感から真珠を引きちぎろうと妄想するシーンが映りますが、美しい真珠もその時は首輪にしか見えない。

 

女王陛下の愛犬コーギーですら首輪をしていないのに。

 

真珠って重みがあって、鎖のように繋がれていて、彼女を束縛しているように見せることができるんですよね。

 

加えて真珠には王国の歴史と伝統が込められています。夫からプレゼントされたモノですが、別の王族関係者にも同じ真珠を送っており、かつての王妃アン・ブーリンも同じ真珠を付けています。

物理的な重さだけではなく、社会的な重みも加わっているわけです。

 

ダイアナは全てを解き放とうと、真珠を引きちぎりスープとともに飲み干そうとしますが、結局は吐き出してしまう。

禍々しいバイオリンの演奏と共に、この一連のシーンが流れた時は痺れました。

こんなに恐ろしい真珠の使い方ができるのか、と。

 

生きづらさのあまり、異物を飲むこむ女性を描いた「スワロー」という映画がありましたが、今作のダイアナも同様でした。

 

異物は自分自身が「受け入れられないもの」の象徴であり、それを飲み込むことで受け入れようと、克服しようとするメタ表現になると思っています。

 

前述した通り真珠には英国の重苦しい歴史と伝統が込めらており、彼女なりに克服しようと奮闘したのではないでしょうか。

 

しかし、結果は失敗に終わる。

 

最期には真珠を引きちぎるシーンが描かれますが、これは彼女自身が解放されることを意味しています。

 

拘束具が取れ、彼女はキジの仲間となります。

仲間の元へ向かうと、そこには王妃の息子がキジを撃とうとしていました。

 

仲間を傷つける訳にはいかない。嫌がる息子に銃を持たせてはいけない。

息子とキジ、双方ともに守らなければいけなかったのです。

 

自由になったダイアナは息子と車を走らせます。カーステレオからは「All I Need Is A Miracle」が流れます。そうです、映画でしか起こり得ない奇跡が流れてきたのです。

 

Mike & The Mechanics - All I Need Is A Miracle - YouTube

 

もう涙腺崩壊でした。。。

 

 

 

「過去と現在は私にとっては同じ」

他にもメタ的表現で優れていたものがあります。

 

ダイアナ王妃が序盤で発したセリフ「過去と現在は私にとっては同じ」には、多くの意味が込められていました。

 

過去と現在

 

・体重計の意味

王妃が自宅の敷居をまたいだ途端、体重計に乗れと指示されます。

 

少し家を出ただけで体重が変化するわけがありません。

何より体重を測る意味が全く分かりません。

 

しかし慣習だからと無理やり体重計に乗らされます。

 

出かける前と後で体重は変わらない。つまり過去と現在は同じであることを端的に示したシーンでしたね。

 

 

・クリスマスイブに誕生日プレゼントを開けさせる

普通ならクリスマス当日にプレゼントを開けますが、なぜか王妃は息子たちのプレゼントをイブに開けさせます。

 

イブが過去、クリスマスが現在だとしたら、「過去と現在は変わらない」ということを表したシーンでした。

 

 

・アン・ブーリンとの関係

かつての英国王妃で、夫によって殺されたアン・ブーリン。

ダイアナ王妃は彼女の書いた本を読んでいます。

タイトルには「受難」という言葉が含まれていました。

 

アン・ブーリンと自分を重ねているのは明らかです。

夫に散々な仕打ちを受けて、殺されるかもしれないと恐怖している自分とブーリンを重ねているのですね。

 

加えて、「受難」という言葉の由来は、新約聖書でイエス・キリストが「肉体的および精神的な苦痛」を受けた時に使われる言葉です。

 

つまり、キリストが生まれた時代を「過去」として捉えているわけです。

2000年にもおよぶ過去と現在の自分を比較して「変わっていない」と断言するわけです。

 

この発言がいかに自身の絶望的な状況を物語っているか。。

2000年経っても変えられない状況を、彼女はラストで変えてみせたわけです。

真珠を引きちぎったシーンには、それだけの意味とカタルシスが込められていたのです。

 

 

 

 

まとめ

ラストを除き、全体のトーンとしては苦手なジャンルなんですけど、メタ的表現の巧さに痺れてしまいました。

 

今作を何度も見たいかと言われると首を傾げます。

 

でも、決して忘れたくない。周りが評価しないなら自分が評価したい。推したい。

 

そんな気持ちにさせてくれる映画でした。

 

美しい真珠やドレスがあそこまで恐ろしい見せ方になるのも新発見でしたね。

対照的に、「クルエラ」では新聞や雑誌の切り抜きやボロ生地を使ってドレスを作っていましたね。でも、クルエラは自分自身が望む衣服に身を包んで幸せだったわけです。

 

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このように、衣服を逆説的に使ってダイアナ王妃の生きづらさを伝えているわけです。

 

なかなか伝えるのが難しいのですが、私にとっては途轍もないカタルシスがあったんですよ!!!!!!

 

今年ベスト級です!!!

 

 

99点 / 100点 

 

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 以上です! ご覧いただきありがとうございました!
 
 
 
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