まえがき
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「窓辺にて」
それでは「窓辺にて」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・「愛がなんだ」の今泉力哉監督が稲垣吾郎を主演に迎え、オリジナル脚本で撮りあげたラブストーリー。
フリーライターの市川茂巳は、編集者である妻・紗衣が担当している人気若手作家と浮気していることに気づいていたが、それを妻に言い出すことができずにいた。その一方で、茂巳は浮気を知った時に自身の中に芽生えたある感情についても悩んでいた。そんなある日、文学賞の授賞式で高校生作家・久保留亜に出会った市川は、彼女の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれ、その小説にモデルがいるのなら会わせてほしいと話す。
市川の妻・紗衣を中村ゆり、高校生作家・久保を玉城ティナ、市川の友人・有坂正嗣を若葉竜也、有坂の妻・ゆきのを志田未来、紗衣の浮気相手・荒川円を佐々木詩音が演じる。第35回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、観客賞を受賞した。
「窓辺にて」のネタバレありの感想と解説(全体)
今泉力哉監督最新作「#海辺にて」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2022年11月4日
一貫して「愛のカタチ」を描く今泉監督、今作では #稲垣吾郎 さんを中心に「愛を探る」恋愛探索群像劇。
一見散文的な恋のキャッチアンドリリースは、実は裏で全て繋がってる。愛が転じて新たな愛を生む、愛のわらしべ長者的ストーリー。
僕はこの映画が好きだ。 pic.twitter.com/w0VICg22hf
愛のキャッチアンドリリース
色んな「愛のカタチ」を描いてきた今泉監督。
今回は稲垣吾郎さんを中心とした愛のキャッチアンドリリースに関するお話でした。
「恋」というよりも「愛」を描いた作品ではないでしょうか。しかも愛を育む映画ではなく、愛が終わってく場面が多かったように見えます。
「愛がなんだ」のように始まりの恋ではなく、既に夫婦となっているキャラクターたちを動かして、倦怠期や浮気などを通して愛を手放す描写も多い。
ここまで夫婦のことをたっぷりと描くのも、今泉監督の中では珍しい方ではないでしょうか。
掴んでは消えていく恋。それでも人は前を向き、新たな恋をする。浮気や不倫というとネガティブなイメージがありますが、今作は決してそんな見方をしない。不倫した人を罰することもないんですよね。そこが監督の優しさというか、多様な愛を語る上で不倫や浮気を全否定することはないのでしょうね。
簡単なあらすじです。
稲垣吾郎さん演じるフリーライターの茂巳。中村ゆりさん演じる紗衣と夫婦で、彼女は小説の編集者。二人とも出版に関する仕事を生業としている。
茂巳は女子高校生にして文学賞を取った久保留亜(玉城ティナ)の記者会見に臨み、ユニークな質問で久保に気に入られる。ここでも「何かを手に入れて離す」という話題が登場していて、今後描かれる愛のキャッチアンドリリースが暗喩されます。
そこから二人の交流が始まっていくのですが、夫婦でいる時よりも明らかに楽しそうにしている茂巳が印象的です。
今作に登場する夫婦やカップルは全て何か問題を抱えていて、少し倦怠期なムードを出しているんですよね。ネタバレになるので言いませんが、浮気や不倫が頻繁に出てきます笑
若葉竜也と志田未来による有坂夫妻も、久保と水木のカップルも、末長く幸せになるようには思えない。第三者と出会い会話を深めることによって、今自分と恋人はどの程度の距離にいるのか、本当に恋人を好きなのかなど、次第に本音が漏れていきます。
中には離婚を決意したり、思い切った行動に出る人もいます。
ここまで浮気や不倫が多いとドラマの交通渋滞が起きそうなのですが、そこは流石今泉監督。
フィックスされたカメラで会話劇を中心としながらも、愛に関する話題が一本の幹になっていて、色んな会話が枝のように広がっていく。散文的に見えて一貫性があるんですよね。
最初は淡々とした描写が多いのですが、有坂正嗣を演じた若葉竜也が不倫している場面が映ると一気に物語に嵐が吹き荒れる。
互いにいけないこととは思いつつも、人間の性なのか結局は重なり合う二人。
この二人がなんとも人間くさくて大好きですねぇ。
穂志もえか演じる藤沢が、これ以上関係が続かないように食事に行くだけにしようと提案するのですが、「マックス焼肉♡」という言い方をするんですよね。
藤沢の心の機微がよく表れていますよね。そうですよ、未練タラタラなんですよww
セリフにハートマークは付いてないけど、言い方的に絶対ハートを込めてたからねwww
もちろん鑑賞後は焼肉ですよww
マックス焼肉 pic.twitter.com/coLCCZA8hX
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2022年11月4日
そんな二人の可愛らしいやり取りとは対照的に、茂巳の妻である紗衣の不倫は冷たく重い内容に。完全に遊び感覚の若葉竜也とは対照的なんですよねぇ。
最初はツカミで若葉竜也を入れておいて、後に紗衣のケースを見せてシリアスでダーティな愛を見せる。
この変化の付け方が凄く上手でしたねぇ。
一番特徴的なのは茂巳で、彼は不倫をされる立場にあるのですが、全く怒りを露わにしないんですよね。露わにしないというよりは、怒りがないんです。
実は今作の肝は茂巳のリアクションにあって、なぜ彼が怒らないのか理由を探っていく物語になっていくんですよね。
紗衣が不倫していると分かるのは中盤になってからなのですが、実は茂巳はかなり前から不倫を知っていて。
観客にとって、不倫が明らかになるシーンは神の視点というか、観客の特権なわけですよね。不倫を知らない茂巳を眺めていたように見えて、勝手に「可哀想な人だ」と思っていたわけですよ。なんか茂巳って無頓着な感じするじゃないですかw
でも、あの一言で観客とキャラクターの見る・見られる関係が逆転したんですよね。
ミステリアスなイメージのある稲垣吾郎さんを巧みに使った素晴らしい裏切りだと思いましたねー!!
そこからずっと他人の話を聞くだけだった茂巳が、積極的に行動に出ていくわけですね。しかし何を言っても常に飄々とした態度で、自分の気持ちを淡々と述べる。。
結末までは言えませんが、茂巳の成長っぷりが堪能できる作品でもありますw
大きな決断に至るまでに沢山の人と出会い会話して、全ての会話劇が重なる瞬間、今作の完成度が推し量れるのではないでしょうか。
僕は大好きです!!
監督の近作との関連性も深し
今作は「猫は逃げた」「愛なのに(脚本)」「街の上で」といった今泉監督の近作との関連が深いと思いました。もしかしたら同時期に脚本を書いていたのかもしれません。
まず冒頭、茂巳が喫茶店で本を読んでいるシーンは「街の上で」の冒頭と同じですよね。若葉竜也が本を読んでいるシーンと重なります。彼も今作に出ているから、どこか関連があるように感じるんですよねぇ。
また、女子高生と中年男性が親しい関係になるのは「愛なのに」の瀬戸康史と河合優実の関係にも思えるし、編集者と作家が不倫関係になるのは「猫は逃げた」ですよね。
今作だけでなく、監督の近作を見ておくと面白さ倍増です!
まとめ
会話劇中心の映画は基本的に苦手なんですけど、今泉監督は例外ですね。
会話劇中心といえば濱口竜介監督も同じですよね。大好きな監督ですけど。
会話劇自体が面白いというよりは、「会話劇を通してどんなテーマが語られるか」に興味があるんですよね。
特に今泉監督は「愛」について語ることが多く、キャラクターを通して分かりやすく噛み砕いた上で説明してくれる。決して濱口監督のようにスリリングではないんだけど、会話劇に波を与えるのが上手いんですよね。
凄く気になったのは「え?」を多用していた点。ジジババ同士の会話ならともかく、若い人達の会話ならそこまで出ないと思うんですけど、相手が言ったことをそのまま受け入れずにもう一度聞き返すことで少し波風が立つんですよね。
かなり繊細なんですけど、少しの工夫で会話劇って面白くなるし、これからも今泉監督の作品を応援していきたいですね。
97点 / 100点