映画「プライベート・ウォー」 〜アカデミー賞女優が魅せる、選択と結果の物語
TOHOシネマズ川崎にて「プライベートウォー」鑑賞。
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2019年9月15日
生と死の境で働き続けるロザムンドパイクが「自分なり」の正義を戦地にぶつけ、「私的戦争」を続ける。
決して英雄譚の物語ではない。ジャーナリズムを問う話でもない。極私的な、個人の選択と結果の物語だ。#プライベート・ウォー
英雄譚でなく、個人の選択と結果の物語
しかし、今作のメリー・コルビンは兵士でなく、軍に所属する広報担当でもなく、あくまでも民間人の記者である。彼女の場合、PTSDをどうやって治せば良いのか?彼女に救いの手はあるのか?絶望的な状態が劇中ずっと続いていく。
ちなみに、「アメリカン・スナイパー」の主人公クリス・カイルが戦地に赴いたのは2003年から2009年の6年間。一方今作のメリー・コルビンは1986年から2012年までの26年間もの違いがある。メリー・コルビンは直接人を殺めたわけではないが、目の前で無残に殺されていく兵士・一般人を数十年に渡り見てきた彼女は、PTSDを患うには十分すぎるほどの心的外傷を受けたに違いない。
彼女が戦地に赴くのは、繰り返される戦争の中で傷つき、一般的な女性としての生き方の方法論を見失ってしまった結果でもある。
メリー・コルビンがいかに他の女性とかけ離れた生活を送っていたのか、その比較は劇中でも数多く行われている。
印象的だったのは、メリー・コルビンが所属する新聞社で働く女性同僚との対比。
「これから雑誌の撮影ですか?」と疑われても仕方がないほどオシャレな服装・メイクで佇む女性同僚と、戦地で必死に生きる迷彩服姿のロザムンド・パイクとがスカイプをするシーンは、筆舌に尽くしがたい。
ロザムンド・パイクは2014年の「ゴーン・ガール」にて夫に不満を感じ行方不明となり、ゴーン=見失ってしまった女性を演じた。今作も同様に、平穏無事な生活を離れ戦地へと向かってしまう、もう1人のゴーン・ガールを演じているように見えた。
監督のマシュー・ハイネマンの前作「カルテル・ランド」は、メキシコのマフィアに対抗する自警団を描いたドキュメンタリーである。
当初はマフィアから市民を守る正義の集団として、非常にホワイトな印象を受ける自警団のように見えるのだが、映画が進むにつれマフィアと同じく尋問・脅迫・そして殺人に手を染めていき、行き過ぎた正義が招く暴走について描かれていく。
今作も同様に、当初は正義感溢れるメリー・コルビンに見えるが、ジャーナリズムを追求するあまり米軍からの指示を無視し、検問を詐称で突破しようとする姿が描かれ、決してメリー・コルビンが聖人君主ではないことを主張している。
監督は映画を通して、こうした「行き過ぎた正義感」を描きたかったのではないか?
周りの度重なる忠告を受けながらも聞く耳を持たず、あくまで個人の自由意志で戦地へと赴く姿は、まさしく「プライベート・ウォー」と形容するのがふさわしい。
ただし、いくら自由意志といえども彼女は間違いなく戦争の被害者であり、あえて言い換えるならば戦争が彼女を戦地に行かせてしまったのである。
PTSDに掛かり苦しむのは兵士だけではない。ジャーナリストに対しても、戦争の被害を考えなければいけない。
ジャーナリズムを自己責任論で片付けられるのか?
シリア内戦といえば、日本人ジャーナリストの安田純平氏がシリア過激派組織に拘束されたニュースが記憶に新しい。
過激派組織が身代金を要求したという情報もあり、菅官房長官はじめ政府も動いたこともあり、大きく報道された事件である。
しかし、世論では「自己責任論」による安田純平氏の誹謗中傷が相次いだ。彼はザ・ノンフィクションにて拘束中の状態や解放後のバッシングについて語っている。
「プライベート・ウォー」基礎情報
・レバノン内戦や湾岸戦争など世界中の戦地を取材した実在の女性記者メリー・コルビンの半生を、「ゴーン・ガール」のロザムンド・パイク主演、「カルテル・ランド」「ラッカは静かに虐殺されている」など骨太なドキュメンタリーを手がけてきたマシュー・ハイネマンの初劇映画監督作品として映画化。イギリスのサンデー・タイムズ紙の戦争特派員として活躍するアメリカ人ジャーナリスト、メリー・コルビンは、2001年のスリランカ内戦取材中に銃撃戦に巻き込まれて、左目を失明してしまう。黒い眼帯を着用し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみながらも、人びとの関心を世界の紛争地域に向けたいという彼女の思いは強まっていく。2012年、シリアの過酷な状況下にいる市民の現状を全世界に伝えるため、砲弾の音が鳴り響く中での過酷なライブ中継がスタートする。コルビン役をパイクが演じるほか、ジェイミー・ドーナン、トム・ホランダー、スタンリー・トゥッチらが脇を固める。