まえがき
今回批評する映画はこちら
「TAR ター」
ケイト・ブランシェット最高傑作と名高い作品。
衝撃的なラストと言われていますが、今作で何を見せてくれるのか。。
それでは「TAR ター」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・「イン・ザ・ベッドルーム」「リトル・チルドレン」のトッド・フィールド監督が16年ぶりに手がけた長編作品で、ケイト・ブランシェットを主演に、天才的な才能を持った女性指揮者の苦悩を描いたドラマ。
ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。
「アビエイター」「ブルージャスミン」でアカデミー賞を2度受賞しているケイト・ブランシェットが主人公リディア・ターを熱演。2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品され、ブランシェットが「アイム・ノット・ゼア」に続き自身2度目のポルピ杯(最優秀女優賞)を受賞。また、第80回ゴールデングローブ賞でも主演女優賞(ドラマ部門)を受賞し、ブランシェットにとってはゴールデングローブ賞通算4度目の受賞となった第95回アカデミー賞では作品、監督、脚本、主演女優ほか計6部門でノミネート。
「TAR ター」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#ター」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2023年5月13日
まるでJホラーを観ているような薄暗く不穏で陰鬱な展開。誰よりも人の上に立ち続け一方的に指示をし続ける指揮者の恐ろしさと孤独を擬似体験する。
「リトルチルドレン」でもあったように、
「呪われた過去」を持つ主人公の狂気と暴走がほとばしる一作。もう誰にも止められない。 pic.twitter.com/zwYCwHCWYb
まるでJホラーを見ているような気分
喰らいました。。
週末に向いてない映画だなぁ。。こりゃ。。。
アカデミー賞6部門ノミネートで、評判の高い作品だとは聞いておりました。
指揮者の葛藤と苦悩が描かれることは予想してました。
でも、まさかここまで怖い映画だったとは予想もつかなかった。。。
アメリカのホラーみたいに派手で分かりやすいものじゃないんですよ。
Jホラーなんですよ。。。
主人公のリディア・ターは天才指揮者で、誰にも指図されず(できず)我が音楽人生を邁進する王様のような立場。
指揮者としての仕事だけでなく、フィルの入門志願者への面接や解雇通知など、人事権を完全に掌握しているんですよね。
いわば「社長」的な役回りなんですよ。
でも、フィルは会社のような組織体制ではなくて、奏者一人一人がアーティストで個人として活動しているんですよ。会社員ではないんです。
しかし、指揮者という立場上、アーティストたちの上に立って取りまとめなければいけない。
職業柄、孤独に苛まれるのが決定しているようなもんなんですよね。。
徐々に明らかになっていくリディアの振る舞い。練習中はアーティストに尊厳を持って接しているように見えるんだけど、自分の意図とズレたことをすると豊富なボキャブラリーと徹底した作品主義でアーティストを「罵倒」したかのように見えてしまう。
助手のフランチェスカに対しても、立場上仕方ないことだけども上から目線で一方的に指示をするだけ。
コミュニケーションを取っているようで全く取れていない。みんな仕事上の付き合いで彼女と会話しているだけで、誰とも繋がっているようで繋がっていない。
孤高であると同時に、孤独なんですよ。
自分は天上天下唯我独尊だと思っているけど、実は周りから卑下され嘲笑されている主人公は「ブルージャスミン」でもありましたね。
でも、これをコメディ抜きでやったら本当に恐ろしい作品に仕上がっていくわけですよ。
冒頭、リディアに向けられたスマホのカメラ。どうやらビデオ付き通話のようで、リディアをコケにするような描写が映ります。
権力を持つ者の宿命ともいうべきでしょうか。それにしても酷すぎる。
確かにリディアの振る舞いは誰しも引っかかる点があると思いますが、結局リディアもただの人なんですよ。間違いもあるし、その人にとってのベストな選択ができるとも限らない。
しかし、下にいるアーティストたちはリディアを悪者扱いにして、集団になって攻撃し続ける。本当に見ていて苦しい映画でした。。
呪われた過去からは一生逃げられない
また、リディアを苦しめるのは現在のフィルの人間関係だけでなく、呪われていると言ってもいいほど悍ましい「過去」も大きく影響していることが明らかになっていきます。
冒頭からメールなどで名前が映る「クリスタ」という女性。
かつてリディアを崇拝しており、何らかの原因で自殺を図った。
クリスタの死に関係していないか疑いの目を向けられるリディアですが、人前では否定するものの、実際は明らかに意識しているんですよね。
一人で作業している時、幻聴が聴こえたり幻覚が見えたり、クリスタと思わしき幽霊が映画に写っているとの指摘もあります(もちろん演出なんでしょうけど、、、)。
しかし今作はクリスタとの関係を明らかにすることはなく、常にリディアに付きまとう存在として設定したのが本当に気味悪いんですよ。。これこそJホラー的だと思った所以ですよ。
クリスタとどういった関係にあったか分かりませんが、新しくフィルに加入した「オルガ」という女性との関わりを見ていると、クリスタとの関係も透けて見えてきます。
明らかに他のアーティストとは異なる扱い方で、自室に招き個人レッスンを行なっている。
オルガは自分が贔屓されていると自覚していて、自分の演奏会に来ないかとリディアを誘ったり、上下関係を全く意識させない振る舞いが続きます。
映画では明示されていませんが、リディアとオルガには私的で親密な関係があったのではないでしょうか。もっと言えば、肉体的な関係があったのかもしれません。
リディアはレズビアンで、クリスタの件で噂になっていたとは思いますが、それを承知でオルガはリディアの家に。。
個人的な体験ですけど、肉体関係を結ぶと人間って対等な関係になるんですよね。だからこそ個人の演奏会に誘ったりもするし、上下関係を感じさせない。
オルガとの関わりを通じて、過去のクリスタとどのような関係にあったか紐付けられていくんですよね。。
そして、極めつけはオルガを追いかけて行った先に廃墟に迷い込んでしまったシーン。
背後から野犬のような声が聞こえ、振り返っても誰もいない。我々には明瞭に見えない黒い何かをリディアは感じ取り、逃げようとするも顔面を強打して怪我をする。
死してもリディアを追いかけ続けているのがクリスタで、それをオルガと重ねることで、リディアは「過去の過ちを犯し続ける人」であることを示しているんですよね。
トッド・フィールド監督は過去作「リトル・チルドレン」でも過去に囚われたキャラクターを描いてきました。
誤って子供を射殺してしまった警察官、子供を性愛する中年男性。どちらも過去の過ちのせいで世間から疎まれ、嫌われています。
なぜ監督はそこまで「過去から逃れられない」キャラクターを描くのでしょうか。
監督も、壮絶な過去を抱えて暮らしているのでしょうか。。
今作を通じて感じたのは「過去の過ちからは一生逃げられない」ということ。
本当に恐ろしい話ですし、身につまされる話です。。
まとめ
ネガティブな印象を持ったかもしれませんが、今作のラストは非常に前向きなものでした。
ベルリン、ニューヨークのフィルを退団させられ、最終的に行き着いたのは東南アジア(?)のフィル。以前とは明らかに異なる雰囲気。どう考えても左遷。
そして、リディアが最後に指揮を振るう場所は、何とモンスターハンターのイベント。
スーツやドレスに身を包んだ観客ではなく、着ぐるみや武器を身にまとうイベント参加者たち。。
ベルリンやニューヨークのフィルを見た後だと、どうしても「落ちぶれた」印象がありますが、そんな言葉は絶対に使いたくない。
どんな立場になってもリディアは音楽が好きだし、ひたむきに音楽に向かう姿勢に感銘を受けました。
どんな過去を抱えていようが、どんな過ちを犯そうが、それでも前向きに仕事に向かうしかない!!
現実は待ってくれない!!
リディアに闘魂注入されましたwww
僕も来週からひたむきに仕事に向き合いたいと思いますww
95点 / 100点