- はじめに
- あらすじ
- 原恵一さんカムバック!
- 映画の感想
- 同じことは2度しない、原恵一監督の「攻めた一作」
- 主人公が成長しない
- 脚本・演出の「意図的な映画カタルシスの排除」を、観客はどう受け止めるか?
- アカネ=くんちゃん≠野原しんのすけ アニメーション表現は新時代へと突入
- 類似していると思った映画
- 「映像を愉しむ」ことが良い見方だと思う
- 原恵一監督、(デザイナー)イリヤ、樋口真嗣氏によるトークショー
はじめに
今回公開する映画はこちら!
「バースデー・ワンダーランド」
それでは「バースデー・ワンダーランド」、感想・解説、ネタバレありでいってみよー!!!!
あらすじ
・「百日紅 Miss HOKUSAI」「河童のクゥと夏休み」の原恵一監督が、柏葉幸子の名作児童文学「地下室からのふしぎな旅」をイマジネーション豊かに映像化したアニメーション映画。誕生日の前日、自分に自信がない小学生の少女アカネの前に、謎めいた大錬金術師ヒポクラテスとその弟子ピポが現れる。自分たちの世界を救ってほしいと必死で訴える2人に無理やり連れて行かれたのは、骨董屋の地下室の扉から繋がるワンダーランドだった。不思議な動物や人が住むそのカラフルな世界は、色が消えてしまう危機に陥っていた。ワンダーランドを守る救世主にされてしまったアカネは大冒険を繰り広げ、やがて人生を変える決断を迫られる。キャラクター/ビジュアルアーティストは、ロシア出身の新進気鋭イラストレーター、イリヤ・クブシノブ。主人公アカネの声は、原監督の実写作品「はじまりのみち」にも出演した松岡茉優が演じる。
映画『バースデー・ワンダーランド』90秒予告【HD】2019年4月26日(金)公開
原恵一さんカムバック!
映画の感想
モーレツオトナ帝国のような楽しくも心を揺さぶられる感動作に違いない!!!!!!!
同じことは2度しない、原恵一監督の「攻めた一作」
モーレツオトナ帝国を代表する、クレヨンしんちゃんシリーズを長く撮り、娯楽大作を極めた原恵一監督の最新作は、決して大衆になびかない、監督の作家性が非常jに強い作品でございました。
普通、娯楽作を極めた人は娯楽作を撮り続けるのかなぁと予想していたんですが、予想に反して非常に攻めた作品でございました。
この映画、見た目はがっつり「ファンタジー」の様相を呈しているんですけども、みんなが思っているファンタジーではないんです。
キャラクターが熱くなり、盛り上がる音楽をかけて、チャゲアスの「Yah Yah Yah」見たく「いーまからそいつお〜〜いまからそいつを〜〜〜殴りにいこうか〜〜〜!!」的なノリでもない。
とにかく、普通の娯楽大作からは逸脱した映画であるんです。ここが攻めてると思うんですけども。
原恵一監督は娯楽作品については十分心得ていると思うんです。どうすれば観客が理解してくれるか、納得してくれるか、感動してくれるか。正解はないとは思うけど、方法論は何個も持ってると思うんです。
でも、自分がこれまで培ってきた武器を全く使わずに、新境地であるファンタジー作品を新人のスタッフを使って、自分にとって全く新しい作品に挑戦したんです。
恐ろしいです。原監督。巨人がセリーグで優勝する以上に、すごいよ。。
例えるなら、カンヌ映画祭でグランプリ・パルムドールを取っている、グザビエ・ドランがアニメ撮ったみたいな感じでしょうかね?
「たかが世界の終わり」よろしく、「たかが世界のワンダーランド」みたいな。
この映画には、普通の映画では絶対にあるエッセンスが本当にないんです。
主人公が成長しない
そして何よりの特徴は、「主人公が成長しない」ことにあるんです。
普通はですね、どんな映画も時間が進むにつれて、主人公が成長していくんです。
これが映画の王道なんです。
ただ、今作のアカネはどれだけ色んな街へ行こうが、敵に遭遇しようが、どんな人と会おうが、決して成長することはない。
現実的には自然ですが、映画的には非常に不自然なキャラクターとなっているんです。
まずこの主人公の成長しないっぷりが、観客にとって非常に違和感を与えるのではないか、と思います。
何のことない雑貨屋の地下室にあった、異世界との扉。
扉を開けたら、まるで「オズの魔法使い」のようなテクニカラーで彩られた幻想世界が。
そんなワンダーランドで、主人公アカネと仲良しの女性ミドリ、そして異世界へ誘った張本人であるヒポクラテス、可愛い妖精のピポ。
この4人でロードムービーのように車を走らせながら、どんどん目的地に進んでいく。
進んでいく時間と距離に反して、キャラクターが一向に成長しないんです。
上記の私の感想を裏付けるように、映画の最後はアカネのこんな一言で締めくくられます。
「ちょっと大人になった気がする、多分」
非常に曖昧で、断定的じゃないセリフ。
この言葉をあえて最後の最後に持ってきている。これは監督のメッセージであり今作を説明した唯一の言葉だと思っています。
今作はそのビジュアルや主人公が異世界に飛び立つきっかけなど、「不思議の国のアリス」や「オズの魔法使い」と非常に似ています。
でも、そんな王道ファンタジーは俺は作らない、主人公が成長するなんて決まってるわけじゃないだろ? という皮肉を込めているようにも思います。
クレヨンしんちゃんでは、いきなりしんちゃんが成長し、「父ちゃんはオラが守る!!」など力強いセリフを言って映画を盛り上げたりするのですが、今作はそれが一切なし。
以上まとめると、最後のセリフは、現代娯楽映画のカウンターパンチにも、自身の過去作のイメージからの脱却にも感じました。
このセリフをどう受け止めるか、そもそもこのセリフをちゃんと拾えているかが、今作を理解するために最も大事なキーワードとなるでしょう。
脚本・演出の「意図的な映画カタルシスの排除」を、観客はどう受け止めるか?
そんな主人公が成長しない物語なんですけども、この映画にはちゃんと目的があります。
公開した直後なのでネタバレは避けますが、映画の目的は「とある人と出会い、あることを達成させること」にあるんです。
しかし、主人公のアカネは、この目的を非常にあっさりと解決してしまう。
普通は試練があったり妨害があったり、葛藤があったり、主人公が物理的にも精神的にも「戦う」というのがセオリー。しかし、今作は主人公が成長しないため、いやさせないために一切の戦いがない。
目的を達成せしめたエフォートとエビデンスが、今作にはないんです。
これが欠如しているからこそ、主人公がどれだけK点を超えた活躍をしても、正直言って主人公に感情移入したり、心が動かされることはありませんでした。
以上のことから、今作は 観客が感動を受けやすい「分かりやすい映画的カタルシス」を、今作は意図的に排除しているとした思えません。
後述しますが、アニメーション表現は非常に素晴らしいものがあります。俳優の演技も見事です。
でも、一言で言えば分かりやすくはなっていない。
観客は、どうやってこれを受け止めればいいのか?
・・・その答えは、「未来のミライ」にあると思ってます。
アカネ=くんちゃん≠野原しんのすけ アニメーション表現は新時代へと突入
主人公が成長しない、すごくワガママで物語を積極的に進めようとしない、といえば、「未来のミライ」における「くんちゃん」だと思います。
私は今作を見たとき、生理的に無理だと思ってしまいました。くんちゃんの糞さ加減はもちろんのこと、ストーリーが散漫で、カタルシスがないってことも言及しました。
くんちゃんは5歳児で野原しんのすけと同じなんですけども、映画のしんちゃんと比べて全く成長しない。ただ泣き叫んで、自分のやりたいことだけを達成したい。人のために行動とかそんなの一切考えてない。
そんなワガママキャラ。。
だと昔は思っていたのですが、これよくよく考えてみれば・・・
5歳児が数日間、不思議な体験したからって、急に大人みたいに成長するわけないよね?
成長しないのが自然だよね?
そして、5歳児が駄々をこねたり自分勝手なのは、子供ゆえの「世界系の狭さ」にあると思うんです。
友達もろくにいない、よく喋るのは親だけ。自分で力もない、お金も稼げない、ただ主張することしかできない。生活範囲が異様に狭い。総じて、「世界系が狭い」ということではないでしょうか?
まぁ、私がこのような考えに思い至ったのは、「未来のミライ」を見てからもう2年ほど経ってるんですけどねw
これを今作のアカネに置き換えると、アカネも冒頭ではくんちゃんのようにワガママを言うんですよ、お母さんに。
「や〜だ〜!!」
を連発するんです。こいつ、それでも小6か!? と思ったのですが、私も自分を思い返せば駄々こねてたかもですw
そして異世界に入ってからも、自分で好奇心を持つわけでもなく、ただヒポクラテスの言われるがままに操作される。
ヒポクラテスに鎖のようなものを埋めつけられてるのが非常に気になったんですけども、あれは「自分の意思で行動できないキャラクターである」ことを強調したものではないのでしょうか?
このことからわかる通り、決してアカネという主人公が映画を進めるに当たって都合の良い人物ではないんです。
しかし、そんな主人公をなぜ思い立ったのか?
昔は野原しんのすけみたいな超人化された幼稚園児が主人公だったのに、なぜ近年ではくんちゃんやアカネのような「リアルな子供」が主人公になっているのか?
私としては、アニメーションは新たな次元へ突入したのではないかと思っています。
アニメーションという言葉自体、「アニマ」というラテン語に由来しています。「アニマ」とは「生命が宿る」という意味です。
生きてないものに命を吹き込むというのが、アニメの大きな役割であり、宿命なのです。
この「全く命のないものに命を吹き込む」行為にこそ、アニメーションにしかできない表現なのです。
実写であれば、役者は生きてるし、現実の世界も人間が生きているし。でも、アニメーションは白紙のキャンバスから始まる。そこには最初から生き物はいないんです。
かつて庵野秀明は、「エヴァンゲリオン」シリーズにおいて、意図的に残虐な描写ー特に肉体の断面を見せることによって、アニメーションが現実味を帯びるような表現を追求していました。
単にグロ好き!ではないのです。
これによって作品に命を吹き込む方法を取った、と私は解釈しています。
しかし今作においては、主人公の性格を現実の子供と同じようにして、キャラクター自身に現実味を帯びさせるようにしました。
血を出さなくても、殴らなくても、あくまで性格的な面でアニメーションにおける「リアル」=「命を吹き込む」ことに成功した作品とも言えるでしょう。
ただし、これが観客にウケるかどうかは別。これは原恵一監督と観客との真剣勝負なのです。
類似していると思った映画
すごく箇条書きですが、似ている映画を記します。
・「オズの魔法使い」をすごく意識してる
→水辺に浮かぶ花にしても、色の鮮やかさにしても似ている
・「メリーポポンズ」のようでもある
・王子が生まれ変わるシーンは「美女と野獣」のよう
・手形にピタッとハマったのは、ガラスの靴がぴったりだった「シンデレラ」のオマージュか?
・羊が大量に走ってくるのは、構図的にジョン・ウェイン、ハワード・ホークスの「赤い河」かも?
→ワンダーランドが、やたらと西部劇を意識してるんですよね、今回って。イギリスからアメリカ大陸に移ってきたばかりの人は、まだ産業革命についていけなかった可能性もある。
・砂嵐は「マッドマックス」?
→酷似してましたw
・ボロボロの吊り橋を車で走るのは「恐怖の報酬」?
・チョウチョが飛び交ってるシーンは「この世界の片隅に」のオマージュか?
「映像を愉しむ」ことが良い見方だと思う
ただ、映像表現としては本当に素晴らしいです。
常に絵が動き続けるんです。止まってる絵がない。
まるで黒澤明の映画を見ているようでした。
原恵一監督、(デザイナー)イリヤ、樋口真嗣氏によるトークショー
MCは藤津亮太さんでした。アトロク火曜日のアニメ紹介でもお馴染みですよね!
www.machinaka-movie-review.com
そして待望のゲストは、なんと原恵一監督!!
脇にはキャラクターデザイン、メカデザインなど、ありとあらゆるデザインを手がけたロシアの新星、イリヤさん!!
あと、なぜか樋口真嗣監督!!!! すいません「なぜか」って付けちゃってww
原監督とは仲が良いらしく、よく飲みに行ってるそうです。
実際に今作を制作したわけではありませんので、どうやって作ったかの話はしませんでした。ってかできないよねw
その代わり、映画コメンテーターとしてバースデーワンダーランドの魅力をたっぷりと紹介するとともに、映画監督らしいプロの目線で今作を語っていただきました。
樋口さん、初めてお会いしたんですけど、すごく語り口が上手なんですよ!トークが上手いの!!! 今後は映画監督だけでなく、映画評論家として活躍していただきたいですww
トークショーにて各種質問がありましたので、映画の謎を解くきっかけになれば幸いです!!
(特に注釈がない限り、Q:は司会の藤津亮太さん、A:は原恵一監督による発言です。)
Q:ザン・グは原作に登場しないが、なぜ登場させたのか?どんな思いで作ったのか?
A:原作にはいないが、映画には悪役が必要だと思ってます。だから作る必要があった。ちなみに、ザン・グは藤原啓治さんが演じているが、「2001年宇宙の旅」のHAL9000をイメージして欲しいと伝えた。ザン・グのデザインについては、中に誰かが入っている形にはしないで欲しいと伝えた。
Q:藤原啓治さん、矢島晶子さんは「クレヨンしんちゃん」からの長い付き合いになっているが、起用した理由は?
A:この二人は絶対的に信頼している二人。声優としてだけでなく、人間的に信頼している。
Q:この映画は物語からでなく、絵から発想して作られているような気がするが、どうやって映画を作っていったのか?(樋口真嗣さんより)
A:実はファンタジーはこれまで撮ったことがなく、正直興味もない。だから、どんどん挑戦しようと思った。攻めているかもしれない。
Q:デザイナーのイリヤさんとはどうやって知り合ったのか? イリヤさんが制作に携わることになった経緯は?
A:書店でイリヤさんの画集を見たときに、「この人しかいない!」と思いスグにコンタクトを取った。あまりにも絵が素晴らしく、早く約束をしないと他に取られると思った。
その頃イリヤは日本語学校に通っていた学生で、まだ本格的な映像製作はやっていなかったが、すでにイリヤに目をつけていた製作会社、スタジオも多かったらしい。
イリヤと出会った頃はまだ日本語が話せずに、打ち合わせの時は中学生レベルの英語で頑張った。
イリヤは他からの誘いも断り、原恵一監督だからオファーを受けたという(イリヤによるヨイショw)。
樋口真嗣「イリヤと原恵一さんの関係は、スターウォーズにおけるジェダイとパダワンの関係だよ!」
原恵一「ダースベイダーにならないように気をつけてね」
ー会場爆笑
Q:原さんの映画に初めてスマホが出てきているが、原さんはスマホを使ってなかったような?
A:使ってません。情報源は新聞とテレビ。それでも生きてけるんです。
樋口真嗣「原恵一、古田新太、いのうえひでのり、の3人は業界でも有名なスマホ持ってない人!!」
Q:樋口監督に聞きたいんですが、この映画の魅力とは?
A:
樋口真嗣「非常に地味なんですが、食事のシーンが本当に素晴らしいと思いました。」
原恵一「実はアニメで一番難しいのは食事シーンなんですよ。私の映画には食事シーンが多いが、それは食事の仕草でキャラクターを描けるから。
Q:劇中にネコミミが出てきたが、あれは誰が発案したのですか?
A:イリヤが一方的に提案してきました。断ったら、勝手に絵を描いてきました。作っちゃんだからしょうがない、と思い許可しました。
Q:樋口監督に聞きたいんですが、この映画の魅力とは?
A:樋口真嗣「とにかく攻めてる。普通、原さんくらいの年齢(還暦)になったら、もう昔とった杵柄的に、守りに入る人が多い。でも今作はとにかく攻めている。
Q:最後に原監督、一言お願いします。
A:私が映画を作る時は毎回、観客の皆さんとの真剣勝負だと思ってます。是非みてください。
トークショーの内容は以上です!
試写会にお誘いいただいたカメさん、ありがとうございました!!