まえがき
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「空白」
映画「BLUE ブルー」ネタバレあり感想解説と評価 夢見てた、いつかの自分が、そこにいた。 - Machinakaの日記
「さんかく」以来の吉田作品出演となる田畑智子も楽しみ。
今度は一体どんなトラウマを植え付けてくれるのか、期待しかしない。
それでは「空白」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督によるオリジナル脚本作品で、古田新太主演、松坂桃李共演で描くヒューマンサスペンス。女子中学生の添田花音はスーパーで万引しようとしたところを店長の青柳直人に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれて死んでしまう。娘に無関心だった花音の父・充は、せめて彼女の無実を証明しようと、事故に関わった人々を厳しく追及するうちに恐ろしいモンスターと化し、事態は思わぬ方向へと展開していく。悪夢のような父親・添田を古田、彼に人生を握りつぶされていく店長・青柳を松坂が演じ、「さんかく」の田畑智子、「佐々木、イン、マイマイン」の藤原季節、「湯を沸かすほどの熱い愛」の伊東蒼が共演。
「空白」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#空白」鑑賞!
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年9月23日
交通事故の被害者と加害者を通して、まるで呪縛のような人間関係の地獄を炙り出していく。
冒頭から間を開けず心を鷲掴み。辛すぎて何度も劇場を出たくなるほどの惨劇。そして、最後には感激。
本編には存在しない空白の時間がこんなにも映画を面白くするとは。衝撃。
今年ベスト級。 pic.twitter.com/HyPIIT78w0
吉田恵輔が描く新たな人間関係の呪縛
食らった。やられた。
心を抉られて、鑑賞が終わってもしばらく立ち上がれなかった。
これまで兄弟や親子など、家族関係を中心に描いてきた吉田監督作品。
また、「めりちん」や「ヒメアノ〜ル」など、かつて同級生だった者たちを対象にすることもあった。
つまり、自らの意思と選択によってではなく、社会や組織の決まりごとによって作られた人間関係を描いてきた。
自分からは離れることはできない、切っても切れない、まるで呪縛のような人間関係が作る、おぞましい人間ドラマ。これが吉田監督の真骨頂だ。
今作は交通事故の被害者と加害者という、これまでの作品群と同様に、呪縛のような人間関係が中心となって描かれる。
万引きした中学生を追いかけたら、交通事故に合わせてしまった、間接的ではあるが加害者となったスーパーの店長の青柳を松坂桃李が演じる。
一方、娘である中学生を交通事故で無くし、青柳に憎しみを持つ被害者を古田新太が演じる。
交通事故の被害者と加害者。謝っても謝っても返ってこない命。
一体どんなコミュニケーションをとっていけば、この2人の溝は埋められるのだろうか。
それを今回は「空白」という簡潔なタイトルで、見事に表現している。
おそらく、直接的な被害者と加害者の関係であれば、今作はこんなにも面白くなかっただろう。
青柳と添田との間には、文字通りいくつもの「空白」がある。
法的には加害者ではない青柳だが、確実に罪の意識はある。添田の追い込みもあって、直接的な加害者と同じような気持ちになってくる。
が、青柳は最初からそのような気持ちになったわけではない。万引きされた立場として、中学生を追いかけることは正当だったとしながらも、事故を起こしたきっかけとなったことは謝罪する。
そんな、歯に物が挟まったような、中途半端な心情が、序盤から見えてくる。
その態度を、まるで今すぐにでも人を殺せそうな恐ろしい眼差しで見つめる添田。
直接的な被害者・加害者ではない、関係性に間隔が空くことで生まれる悍ましい人間ドラマ。いや、むしろホラー。
こんな出来事、絶対に会いたくない。見たくもない。
だが、生きてるうちに、それほど低くない確率で出会う交通事故からの人間関係を通して、コミュニケーションの恐ろしさを描く。
こうした嫌な人間関係は、吉田作品でないと見れない。映画館に行って嫌な思いをしたくない、と思うかもしれないが、これも映画鑑賞の一興だ。
今年、豊作と言われている邦画の中、また新たな豊作が誕生した。
役者の好演が光る
複雑な立場を演じた松坂桃李、冒頭から怒り浸透で血圧200を超えてそうな古田新太も、実に素晴らしかった。
加えて、添田の前妻で新たな命を授かろうとする田畑智子、青柳に下心を持ちながらも必死に彼を支えようとする寺島しのぶも、まさに助演として最高の仕事をした。
そして何より、添田の部下である藤原季節の好演も目を見張る。彼は交通事故とは一切の関係のない人物。添田を支えようとするも、荊の棘のような言葉で払いのけられるも、必死に添田に食らいつく。
完全な舎弟関係という訳でもなく、添田のメンターでもない。正直、彼が添田に何をする訳でもない。ただそばにいるだけ。
が、添田と一緒にいる時間こそが、彼の心の空白を埋めるように、次第に心が打ち解けていく。
このさりげない芝居が実に良かった。
端役である添田の娘の同級生なども、短いシーンながらリアリズムあふれる演技。
本当に素晴らしかった。
空白こそが映画を面白くする
今回、1番身に染みたのは、映画における「空白」の大切さ。
今回の肝となる交通事故、そしてスーパーでの万引き。両方の事件ともに、青柳だけが現場に居合わせている。
一方、被害者の添田は、上記の事件に加えて、娘の中学の様子や、娘自身のことも何も分からない。
添田は、全てが見えない存在として描かれている。
が、娘の死後、物語を動かすのは全て添田だ。
彼にとっては、全てが未知で溢れている。
誰からどんな説明を受けても、何も信じられない。
何が真実で何が嘘なのか、添田には分からない。分からないからこそ、必死にもがく。憤る。怒る。
添田と同じく何も見えてないのは、我々観客も同じである。
我々観客も、添田と同じ視点で物語を追いかけることになる。
青柳が万引きを見つけ、手を掴み事務室に連れて行ったシーンまでは映る。しかし、その中は一切描かれず、「空白」が生み出される。
映画では描かれない、誰も本当のことが分からない、そんな空白が、青柳を霧で包み隠す。
添田も最後に「モヤ」と表現していたように、曇りがかった存在の青柳。
その空白を邪推する添田、憎しみと疑惑が無限大に広がっていく。
映画に写ってない空白のシーンによって、こんなにも映画は面白くなる。
今作は、登場して早々に亡くなる娘の真実を巡る物語。が、肝心の当事者はいない。
まるで欠席裁判のように、不在の人物の真実を明かそうとする。言葉にすると、なんて矛盾した行いなんだろう。しかし、添田としては行動せざるにはいられない。
映画の中で、いかに空白が大切なのか、本当によく分かる作品だった。
もし万が一、自分が映画を作る立場になれば、絶対に空白を作ろうと、心に決めた。ただし、劇場に空席は作らないように。。
ふふ。
まとめ
散々やり合って、最後はお互い分かり合えたように見えた添田と青柳。
ラストは少し冗長的とも思えたが、序盤から心を鷲掴みにされたので、最後は心拍数を落ち着かせてくれるような展開で実に良かった。
娘の真似をして絵を描く添田、それに対してツッコむ藤原季節の掛け合いにも爆笑させてもらった。
最後、学校に残された娘の絵を見て、泣く添田はベタベタではあったが、泣かされた。
絵に何が写ってたのか、、劇場で確かめてほしい。
今年ベスト級といっても過言ではない。辛いので何度も見たくないが、本当に刺さる作品でした!!
96点 / 100点