まえがき
今回批評する映画はこちら
「MINAMATA ミナマタ」
ジョニー・デップの本気がここに! 「ブラック・スキャンダル / Black Mass」批評 - Machinakaの日記
日本人なら社会の時間に勉強した、4大公害病の一つ、水俣病を取り扱った作品。
昭和の最後に生まれた私からしたら、既に過去の出来事として思える公害病だが、映画で改めてこの病気について学ぶ機会を与えられたのは嬉しい。今さら社会の教科書を開くことは、永遠にないのだから。
アスベスト訴訟で被害者を10年近く追いかけた「ニッポン国vs石綿村」や、フリント市の工業廃水を取り上げた「華氏119」など優秀なドキュメンタリーは存在するが、劇映画として公害を見るのは珍しい。
ジョニー・デップが制作に携わっていることもあり、本気度が伺える。
それでは「MINAMATA ミナマタ」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・ジョニー・デップが製作・主演を務め、水俣病の存在を世界に知らしめた写真家ユージン・スミスとアイリーン・美緒子・スミスの写真集「MINAMATA」を題材に描いた伝記ドラマ。1971年、ニューヨーク。かつてアメリカを代表する写真家と称えられたユージン・スミスは、現在は酒に溺れる日々を送っていた。そんなある日、アイリーンと名乗る女性から、熊本県水俣市のチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しんでいる人々を撮影してほしいと頼まれる。そこで彼が見たのは、水銀に冒され歩くことも話すこともできない子どもたちの姿や、激化する抗議運動、そしてそれを力で押さえ込もうとする工場側という信じられない光景だった。衝撃を受けながらも冷静にカメラを向け続けるユージンだったが、やがて自らも危険にさらされてしまう。追い詰められた彼は水俣病と共に生きる人々に、あることを提案。ユージンが撮影した写真は、彼自身の人生と世界を変えることになる。「ラブ・アクチュアリー」のビル・ナイが共演し、日本からは真田広之、國村隼、美波らが参加。坂本龍一が音楽を手がけた。
「MINAMATA ミナマタ」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#MINAMATAミナマタ 」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年9月23日
社会の授業で必ず学ぶ四大公害病の一つ、水俣病を世に知らしめた写真家ユージンの伝記映画。
本人と見間違うほど瓜二つの役作りに脱帽。ジョニーデップの実力は、こういう映画にこそ表れる。
今なお続く水俣病の被害を知るためにも必見。 pic.twitter.com/5ZJZNF0whm
公害病という言葉の意味を噛み締める
最近見ていなかった伝記映画。
何故か日本では多く作られないのだが、アメリカはじめ各国ではよく見かける。
定期的に見るようにしているのは、伝記映画は必ず最後に現実にリンクする瞬間が見れるからだ。
良い映画は必ず、現実との接点を作ってくれる。
例えフィクションだとしても、フィルムの中に必ず自分が存在する、そんな映画が名作と言われる。
当時はそこに実在した、1人の人間に深掘りし、映画として記録する行為は、それだけ意味があるように思う。
日本人なら誰もが知る公害病、水俣病を取り上げた今作は、まさに当時、病気に苦しんだ人々を精緻に描き、現実に蘇らせた。
主人公は水俣病の現状を世間に知らしめたアメリカ「ライフ」誌で活躍した写真家ユージン・スミス。
「ライフ」では既に相手にされなくなり、酒浸りの日々を送る中、日本からとある訪問者と出会ったことをきっかけに、水俣病の写真を撮り始める。
本物のユージン・スミスと見間違うほどの役作りや、海外でロケした熊本の漁村の美術も素晴らしいが、今作で1番感銘を受けたのは、「言葉の持つ意味」だ。
「公害病」という言葉を聞いて、人はどんなイメージを思い浮かべるだろうか。
発疹が出来たり、足や手が不自由になったり、最悪の場合、死にいたる。
そんなことは誰でも言える。
しかし、具体的にどんな人が苦しい思いをしているか、彼らの想いは何なのか、答えられる人は少ない。
社会の教科書や試験には出てこないし、学ぶ機会もない。
単なる字面を暗記するだけだった我々には、公害の具体的な被害や、被害者の気持ちは分からない、分かるはずもない。
今作は、劇映画を通して、キャラクターという具体的な人物を通して、公害病の恐ろしさとそれを公表することの重大性を物語っている。
「公害病」という言葉が持つ真の恐ろしさを知る映画なのだ。
ユージン・スミスが一念発起して、再び写真を撮る時に言い放った言葉が忘れられない。
「写真は千の言葉を持つ」
公害病という言葉だけでは分からない、具体的な被害や言葉の重みが、写真に全て込められている。
何百も何千枚も写真を撮ったユージンだが、彼が撮った写真の中でも1番有名なものは、この1枚だろう。
ユージンスミス撮影
劇中でも、この写真が最も印象的であり、これを撮るためのストーリーが丁寧に語られていた。
女性に抱えられているのは、アキコという名前で、生まれた頃から水俣病にかかり目が見えず1人では身動きが取れない。実は、この2人は親子関係であり、母である昌子が娘のアキコを抱えている写真なのだ。
親子で風呂に入っている、日常の一コマを撮った写真。しかし、水俣病にかかり苦しむアキコを看取る写真であり、一度見たら忘れることができない。
実は、ユージンが日本で最初に暮らす家は、アキコが住む家だったのだ。おそらく、他にも撮る対象があったはずなのだが、最も身近にいたアキコの写真が刺さったのだろう。
何より、ユージン自身が忘れかけていたものを、この写真で補完したかのように思える。
彼は2人の子供がいるが、何故か子供の写真は一枚も持っていない。
実の子供の想いを、この写真に重ねたとも思える。
そんな複雑な心境を踏まえると、この写真の心理的解像度は何倍にも高まる。
伝記映画の魅力は、ここにある。
まとめ
水俣病を再び世間に知らしめた今作。舞台となった水俣市もさぞかし応援をするだろうと思っていたが、実際はその正反対で、今作を拒否している。
デップ主演映画上映、水俣市が後援拒否「制作意図不明」:朝日新聞デジタル
もう思い出したくない、蓋をしておきたいと、当事者たちは考えているのだ。
私は水俣病に一切の関係がないし、当事者に対しては何も言えない。
ただ、私は今作を見て本当に良かったと思う。
見なければ「水俣病」や「公害病」という言葉の本当の意味を知らなかったのだから。
ジョニー・デップはディズニー映画のポップアイコンのような一面が目立つが、シリアスな伝記映画をやらせたら超一流。ぜひ、ご覧ください。
90点 / 100点