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映画「竜とそばかすの姫」ネタバレあり感想解説と評価 美女と野獣のオマージュはディズニーへの宣戦布告

 
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この記事では、「竜とそばかすの姫」のネタバレあり感想解説記事を書いています。
 
 目次
 

まえがき

 

 

今回批評する映画はこちら

 

「竜とそばかすの姫」

 
 
 
 

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(C)2021 スタジオ地図

 

「サマーウォーズ」、「おおかみこどもの雨と雪」、「バケモノの子」、「未来のミライ」。。

 

細田作品といえば夏。いつも梅雨明けの夏本番に、細田作品はやってくる。

 

カンヌ映画祭でオープニング作品として選定され、注目度が高い作品。

そういえば、カンヌ映画祭でアニメ映画ってこと自体も珍しいし、オープニング作品として選ばれるのもなお珍しい。

 

それだけヨーロッパ、とりわけフランスでの注目度が高いという事か。

 

細田作品は「未来のミライ」を見たのが最後。正直、あまり面白いとは思わなかった作品なのだったが、今作で細田作品の見方が変わるのだろうか。 

 

それでは「竜とそばかすの姫」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。

 

 

 

 
 

あらすじ

  
「サマーウォーズ」「未来のミライ」の細田守監督が、超巨大インターネット空間の仮想世界を舞台に少女の成長を描いたオリジナル長編アニメーション。高知県の自然豊かな田舎町。17歳の女子高生すずは幼い頃に母を事故で亡くし、父と2人で暮らしている。母と一緒に歌うことが大好きだった彼女は、母の死をきっかけに歌うことができなくなり、現実の世界に心を閉ざすようになっていた。ある日、友人に誘われ全世界で50億人以上が集う仮想世界「U(ユー)」に参加することになったすずは、「ベル」というアバターで「U」の世界に足を踏み入れる。仮想世界では自然と歌うことができ、自作の歌を披露するうちにベルは世界中から注目される存在となっていく。そんな彼女の前に、 「U」の世界で恐れられている竜の姿をした謎の存在が現れる。主人公すず/ベル役はシンガーソングライターとして活動する中村佳穂が務め、劇中歌の歌唱や一部作詞等も務めた。謎の存在「竜」の声は佐藤健が務めた。ベルのデザインを「アナと雪の女王」のジン・キムが担当するなど、海外のクリエイターも参加している。

eiga.com


 

 

 
 
 
 
 

「竜とそばかすの姫」のネタバレありの感想と解説(全体)

 
 

 
 
  

奇跡のような2時間2分。これまでの細田作品とは異なる「違和感」

私が先ほど鑑賞したものは、いったい何だったのか?

いまだに信じられない。夢幻だったのかもしれない。

 

そんな回顧さえしてしまう、奇跡のような2時間2分だった。

 

「サマーウォーズ 」のような電脳世界、「おおかみこどもの雨と雪」と酷似したキャラクターデザイン、「バケモノの子」のような獣人と人間との交流、これまでの細田作品が詰め込まれた、集大成的な作品とも言える。

 

しかし、これまでの細田作品と明らかに異なる違和感がある。

 

語彙力の無さを露呈してしまうかもしれないが、明らかに「感動」の度合いが違う。

Twitterでも書いたが、まだ指が震えている。

 

冒頭のベル(中村佳穂)による「U」から始まり、まるでミュージカル映画のような印象を受ける。これまでの細田作品にはない違和感は、冒頭から堂々と露出している。

 

現実世界に戻り、すずとして平凡な日々を過ごすのだが、仮想世界のように上手く歌えない。さらに、歌い始めた瞬間に嘔吐してしまう。

 

「歌」によって、現実と虚構とで対照的なキャラクターとなっているすず=ベルの姿を写す。

 

数少ない友人やクラスメイトとの交流によって、次第に歌を取り戻し現実と虚構との乖離が解消されていくのだが、このプロットから分かる通り、物語自体はシンプルかつ王道の成長譚である。すずが現実で歌を歌えないシーンが映った瞬間に、結末が分かる人も多いだろう。

 

しかし、物語がシンプルだからこそ、今作の「違和感」がよく伝わる。

 

まず1秒あたりのコマ数が日本のアニメ映画とは明らかに異なる。映画は1秒24コマだが、日本のアニメはその3分の1の「3コマ打ち」と呼ばれる手法で描かれることが多い。

一方の今作は、動きの滑らかさから分かるように、2コマ打ちで撮られていると思われる。

 

そして、今敏監督の「千年女優」などを思わせる圧倒的物量と圧倒的質量による超緻密な仮想世界の描写は、観る者すべてを圧倒する(今作の美術監督は今敏に従事した池信孝)。

 

仮想世界の描写は、完全に現実を超えた美しさを持つ。アニメが現実を超えるとき、感銘を受け涙が流れるのは、自然の摂理なのかもしれない。

 

www.machinaka-movie-review.com

 

 

冒頭のベルの歌唱力に加えて、このような唯一無二かつ超美麗な映像によって、波の映画では得られないような「映画体験」を提供することができるのだ。これを体験と言わずして、何と言う。

 

今作が持つ「違和感」の正体は、既存の細田作品を継承しつつも斬新な映像表現とミュージカルアニメ演出の足し算である。これによって、そのクオリティは何倍にも飛躍し、いまだ誰も到達したことのない次元のアニメーション作品を完成たらしめたのである。

 

 

 

美女と野獣のオマージュはディズニーへの宣戦布告

 

そして、今作で一番の「違和感」は、誰が見ても分かる通り「美女と野獣」へのオマージュではないだろうか。

 

ベルが迷い込んだ美女と野獣を思わせる城、空虚な空間の中に美しく咲く薔薇の花。そして、奥には竜と呼ぶにはあまりにも醜い野獣のような男が鎮座していた。

 

作品があまりに有名なため、美女と野獣の映画を見ていなくても、確実に既視感がある場面だろう。

 

これまでの細田作品は仮想世界は描いていても、極めて抽象的な未来空間ばかりだった。なぜここまで具体的なモチーフを仮想世界に描いたのか。

 

何より、なぜ今になってディズニーアニメの言及をしたのだろうか。

 

それは、ディズニーひいては世界のアニメーション作品に対しての宣戦布告ではないだろうか。

 

もちろん、細田監督及びスタッフ達は自らが描きたいものがあって、その延長線上に美女と野獣との接点を発見したに過ぎないのが実際のところだろう。

 

しかし、今回は視点をあえて外に向けてみたい。

 

ディズニーの「美女と野獣」を思わせるような描写があり、フランスのカンヌ映画祭でオープニング作品に選ばれ14分間にも及ぶ拍手が起きた今作は、誰がどう見ても「国際的作品」に他ならない。

 

そんな現状の中で、細田作品とディズニー作品(美女と野獣)が比較されることは想像に難くない。そしてこの想像は、制作前から考えられたはずだ。

 

どの映画祭の賞が1番かは分からないが、最もメディアの露出が多いのは間違いなくアカデミー賞だろう。

 

そして、その中でも長編アニメーション賞の頂点に君臨しているのが、件の美女と野獣を作ったディズニー・ピクサーアニメーションである。

 

近年はソニー・ピクチャーズなど他の作品も受賞することも多いが、2001年から始まった同賞の歴史から考えると、ディズニーが覇権を握っているのは間違い無いだろう。

 

そんなディズニーにオマージュを捧げながらも、今作はアカデミー賞を虎視眈々と狙っているように見えて仕方ないのだ。

 

SNSのコメントやテレビ番組・ネット番組内の文字に英語が多く散りばめられているのは、偶然だろうか。今作が国際的映画であることを意識しての配慮ではないだろうか。

 

アカデミー賞長編アニメーション賞で日本作品が受賞したのは、2002年の「千と千尋の神隠し」のみであり、これ以降は賞を取っていない。

 

この「失われた20年」に終止符を打つのは、もしかしたら今作なのかもしれない。

 

日本のアニメーションの逆襲が、始まった。

 

 

 

1ピクセルにも命を灯す圧倒的な作り込み

 

現実世界(高知県)の写実的な作画の美しさも素晴らしいのだが、特筆すべきはやはり仮想世界の描写ではないだろうか。

 

「サマーウォーズ 」でも見せたように、様々なアバター(今作ではAsと呼ばれる)の大群が極めて細かい解像度で描かれ、巨大な構造物の端端にもきめ細かいデザインが施されており、平面のスクリーンにも関わらず奥行きや立体感さえ感じさせる。

結果として観客には圧倒的な没入感を提供しているように見える。

 

このような決めの細い背景は、作成に膨大な労力を要するため、通常であれば動かすことができない。しかし今作の仮想世界の背景はフルCGで描かれており、自由に動かすことが可能となっている。

 

この特性を最大限活かし、今作は大胆なカメラワークを実現している。地上や空中の境界線が薄く、自由に飛べる仮想世界をスピーディかつダイナミックに動かすことにより、観客はこれまで体験したことのない感動を呼ぶ。

 

他のアニメ作品でもCGは多く使われているのだが、乗り物だったり水面だったり部分的な描写が多かった。これでは今作のようなカメラワークは実現できない。

 

すべてCGで描くことによって、これまで信じられないような映像表現が可能になったのだ。

 

そして、すべてCGで描いているからこそ、きめ細かい星や粒子、群衆のAs達をパンフォーカスで撮影している。これにより、1ピクセル単位で生命を灯すことに成功している。

 

こんな背景、見たことがない。

 

 

  

 

 

「分断と融和」がもたらす現実世界への波及

細田作品に共通するのは、仮想世界vs現実世界、怪物vs人間のように異なる世界を構築する点である。

 

最初は分断されていた二つの世界が最後はシンクロし、分断から融和へと流れる。

 

そして今作にはもう一つの分断がある。ベルを巡っての「肯定」と「否定」の分断である。

彗星の如く現れたベルは仮想世界に混乱を引き起こし、賛否両論や炎上騒動にまで発展した。

 

この構図を作ったのは、明らかに現実世界への言及が根底にあるだろう。

 

今や誰が活躍しても賛否両論が巻き起こるネット社会。人によってはネット世界こそが現実とも感じる人が多いのではないか。

 

今作は仮想世界と言いつつも、起きていることは現実世界と何ら変わりない。

 

細田作品はスクリーンだけに留まらない、確実に現実に波及するのだ。

 

 

追記:ラストシーンの解釈について

公開から数日経ったので、ラストシーンについてもネタバレして良いはず。

 

*ここから今作の重大なネタバレが含まれます。ご注意ください*

 

 

 

 

ということで、皆が不思議に思っている、あるいは否定的なラストシーンについて、私なりに解釈してみたい。

 

ちなみに、ここでのラストシーンとは、すずがリアルの世界で竜を助けに行くところで、彼の父親と対峙するシーンである。

 

父親はすずを殴ろうとするが、その前にすずの顔に軽傷を負わせており、すずの左頬には血が流れていた。この傷を含め、すずの顔をまじまじと見つめた竜の父は、怖気づいいたように尻餅をついてしまった。

 

正直言って、意味不明である。

 

なぜ竜の父親がすずに何もできなかったのか、なぜ何も言わずに尻餅をついたのか。

 

まず考えられる理由は、細田監督の作家性である。

 

「おおかみこどもの雨と雪」もそうだったが、細田監督が女性を描くときには超人的な力を発揮することが多い。これが世間では「女性に現実味がない」だとか言われる原因にもなっているのだが、これは彼の作家性に他ならない。合わないなら、他の作品を見るしかないと思う。

 

何はともあれ、ラストのすずが謎の強さを発揮するのは、細田監督にとっては「当たり前」のことなのだと思う。何も説明がないのは、彼の中で既に完結しているから。

 

 

 

 

もう一つ、思いついたことがある。

 

結論から言う。

すずの頬に赤い血が付いている点と今作のタイトルから、「もののけ姫」を思い出した。

つまり、ラストシーンは「もののけ姫」にオマージュを捧げたのではないか?

 

 

今作は誰が見てもわかる通り、「美女と野獣」を大いに参考にしている。だからこそ獣の姿をした竜が描かれたり、「姫」といったディズニープリンセス的な肩書きをタイトルに含ませている。

 

しかし、よくよく考えて欲しい。あのラストは「美女と野獣」には存在しないし、仮にベルが「美女と野獣」の時のような旧来的なディズニープリンセスだとしたら、竜は父親に立ち向かうべきだ。

 

つまり、今作にはディズニープリンセス以外にもう一つの「姫」が元になっている可能性がある。そこで個人的に考えたのが、「もののけ姫」のサンである。

 

細田監督は子供時代からジブリに憧れを抱いており、入社試験に臨んだりハウルの動く城の監督になるチャンスを得たり、様々な形でジブリと仕事する機会を得ている。しかし、そのどれもが残念な結果に終わっている。

 

何かの形でジブリのオマージュを捧げたい、そういった気持ちが少なからずあったのではないか? 

 

今作のタイトルは「○○姫」で締めているが、これは「もののけ姫」を意識したものではないのか? 

 

そして、竜という「もののけ」とベルという「姫」が一緒になることと、すずの家には犬がいて足が不自由なことは、何かの偶然だろうか?

 

信じるか信じないかは、あなた次第。

 

ただ私は、どうしても今作と「もののけ姫」との関係を気にしてしまうのだ。

 

まとめ

「未来のミライ」であまり良い印象を持たなかった私だったが、今作で改めて細田作品の素晴らしさを味わった。

 

なんと言うクオリティ。長く世界で愛されてきた日本アニメーション。その世界的名声はこれまで宮崎駿だけだったが、今作で新たな歴史が刻まれるのだろうか。

 

アカデミー賞が今からの楽しみになってきた。

 

95点 / 100点 

 
 

 

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