まえがき
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「孤狼の血 LEVEL2」
3年前に前作を鑑賞したが、当時はあまり良い印象は持てなかった。
もちろん、「仁義なき戦い」のような熱量のある作品に仕上がっていたのは確かだが、どうしても仁義があるようにしか見えなかった。
制作陣や役者の真面目さが透けて見えてしまって、悪い役を演じているんだなと感じてしまうのが致命的なのだ。
仁義があるヤクザの方をやった方が良いように思えてしまった。
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今作も、仁義がある方のヤクザなのだろうか。それとも、こっちが引いてしまうほどの悪い奴らが出てくるのだろうか。
それでは「孤狼の血 LEVEL2」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・柚月裕子の小説を原作に、広島の架空都市を舞台に警察とやくざの攻防戦を過激に描いて評判を呼んだ、白石和彌監督による「孤狼の血」の続編。前作で新人刑事として登場した松坂桃李演じる日岡秀一を主人公に、3年後の呉原を舞台にした物語が完全オリジナルストーリーで展開する。3年前に暴力組織の抗争に巻き込まれて殺害された、伝説のマル暴刑事・大上の跡を継ぎ、広島の裏社会を治める刑事・日岡。権力を用い、裏の社会を取り仕切る日岡に立ちはだかったのは、上林組組長・上林成浩だった。悪魔のような上林によって、呉原の危うい秩序が崩れていく。日岡役を松坂、上林役を鈴木亮平が演じ、吉田鋼太郎、村上虹郎、西野七瀬、中村梅雀、滝藤賢一、中村獅童、斎藤工らが脇を固める。前作に続き、白石和彌監督がメガホンを取った。
「孤狼の血 LEVEL2」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#虎狼の血LEVEL2 」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年8月20日
大友の意思を継ぎ、暴力と権力が渦巻く世界で本物の狼になるヒューマンドラマ。
前作は「仁義なき戦い」と比較して消化不良だったが、今回は白石作品として楽しめた。
ハラスメント徹底防止策を遵守し、誰も傷つかない暴力を目指した、今の時代にこそ生まれたエンタメ作品。 pic.twitter.com/3DdGXiYaWf
白石監督作品は徹底してエンタメを貫いている。だからこそ、真面目な場面と同じくらい間抜けなシーンも入れる。
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年8月20日
今回はシェイクスピア俳優を贅沢に使って小心者のヤクザをやってるのだから、気合の入りようが違う。 pic.twitter.com/bRMbGwsEnQ
「仁義なき戦い」や「仁義の墓場」など実録モノが隆盛した時代は、暴対法もコンプライアンスという言葉もなかった。
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年8月20日
出演者が本物の反社会組織と付き合うことは、今では御法度。
だから今作は、一種のファンタジーで出来ている。エンタメのために作り出したヤクザであって、実人物を元にしていない。
ファンタジーだからこそ、作れる魅力もある。ヤクザ自体ではなく、ヤクザを通して語れる何かもあるはずだ。
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年8月20日
今作は過激なメンターの影響で一匹狼になろうとする男の物語であって、そこには正義か悪かの二元論は介在しない。
ただただ、狼になりたい人の話なんだよ。
ヤクザ映画という認識を撤廃すべき
前作は「仁義なき戦い」を始めとした実録ヤクザものを意識しすぎて消化不良だったが、今回はきちんと白石監督の作品として咀嚼が出来た。
最初に言っておくが、今作はヤクザ映画ではなく、ヒューマンドラマだと思っている。
このように咀嚼すると、白石監督の作家性溢れる優れた作品に見えやしないだろうか?
今回は、松坂桃李が演じる日岡が大上の意志を引き継ぎ、警察からも暴力団からも独立して一匹狼になろうとする物語のように見えた。
そこにヤクザだとか、正義だ悪だとかは介在してないように思える。
そういう視点でみると、今作は中々見ごたえのある内容になっていた。
白石監督のエンターテイメントに徹する姿勢は今作でもバチバチに映えており、シェイクスピア俳優の吉田鋼太郎やかたせ梨乃がぞんざいな扱われ方をされるのを見て、笑わない人がいるだろうか?
特に、かたせ梨乃が上林を止めようと説得しようとした矢先に、銃で即死するのは爆笑させてもらった。
監督は、怖いヤクザ映画を撮ろうとしている訳じゃない。
日岡という男の成長譚であり、それと対峙するかのように暴力の化身のような上林が立ちはだかる。日岡と上林の対立構図はそのまま尾谷組と上林組(ひいては仁王会)の対立に繋げられる。
あくまでヤクザはキャラクターの設定であって、暴力は見せ場のために用意する。
ラストに日岡が上林を銃殺するのも、作劇上のルールに従っている。
白石監督の作品の多くは、「一線を超えてしまった」人物を主人公に据えている。
前作の日岡は、「組織の一線」を超えることにあり、県警のためでもなく暴力団のためでもなく、あくまで自分のために組織を利用する。
そして今回は、「人としての一線」を超えることが目標になっている。人を殺すということだ。
ラストに日岡が狼≒大上と再び出会えたのは、彼が人として外れて、狼に近づいたことを表している。
ここまで書いてきたが、かなりヤクザ映画から遠ざかったのではないか?
こういう見方をしてる人が、どれだけいるか分からないが。。
ちなみに、3作目でも、おそらく何かの一線を超える作劇になると予想される。
今度は何を超えるのだろうか。単に国境を超えるとか、そういうつまらない超え方はしてほしくない。
比較不可避なあの作品
どうしても比較してしまうのが、「仁義なき戦い」シリーズではないだろうか。
広島が舞台で、ナレーションや実際の写真(今回は作り物だが)を入れてドキュメンタリー性を高める演出など、間違いなく意識している作品ではある。
特に、鈴木亮平が演じる上林は、「広島死闘編」の大友を意識している。
何気ないセリフで「センズリ」というワードが入ってるのも、大友の
センズリ掻いて仁義で首くくっちょれ言うんかい
というセリフのオマージュであろう。サングラスをかけるのも、偶然ではないはず。
上林がやっている極悪非道な蛮行も、どこか大友と共通する点がある。
色々意識をした結果、まるで大友勝利のようなキャラが出来上がったわけだ。
しかし、今作と広島死闘編を比べるのは大変危険な行為でもある。
広島死闘編を意識し過ぎた人は、必ず今作に落胆してしまうからだ。
大友と比べると上林は弱いだとか、そういった比較論に陥ってしまった人は多いはず。
ただ、声を大にして言いたいが、今作は広島死闘編よりも劣っている訳ではない。
そもそも、目指している方向性が違うのだ。
広島死闘編を撮った深作監督が着目しているのは「暴力」だ。
自身の戦争体験をベースにして、暴力や暴力がはびこる社会を描くのが彼の一貫したテーマである。
一方で、今作を撮った白石監督は「人」に着目している。
だから敵役である上林の過去にも触れ、子供時代を描いている。
そして何より、人に着目しているからこそ、ラストで日岡が狼に出会うシーンまで含まれるのだ。
深作監督ならば、日岡が上林に弾をぶち込むところでジ・エンドだろう。
比較を回避することは難しいが、監督が目指している方向性が違うことも、理解して欲しい。
誰も傷つかないヒューマンスケールの映画撮影へ
「人」に注目している白石監督は、今作でなんとハラスメント講習を導入している。
「孤狼の血II」現場でハラスメント講習導入、白石和彌「今日で負の連鎖を断ち切る」(制作現場レポート) - 映画ナタリー
ヤクザが出る映画でハラスメント講習? 一見矛盾しているように見えて、監督の映画界を変えたいと思う気持ちが表れている。
昔の映画界は、日ハムの中田翔もビビるほど暴力の世界にまみれ、世間的には良い人に思われている高倉健でさえも、後輩をいびることで有名だった。(確か、八甲田山の時に後輩を裸で雪中行軍させた?)
素晴らしい心意気だ。おそらく、監督自身が相当ひどい目に遭ってきたのだろう。
ヤクザが出る映画であっても、誰も傷つかない映画作りでなければいけない。
仕事に直接関係のない説教や不要ないじめは、撤廃されるべきだ。
まとめ
前作で意識し過ぎた「仁義なき戦い」シリーズを、今作では全く考えずに鑑賞することが出来た。
テイストは似ているのだが、今回の上林を見てハッとさせられた。
上林を見て思わず、「キレイ・・」と思ってしまったのだ。
蛮行を繰り返す上林に対してキレイ? 汗1つかいてないし、クールな印象さえ感じる。
これでもう仁義なき戦いとの縁は切れた。。
そんなわけで、是非ともヤクザ映画としてではなく、ヒューマンドラマとして鑑賞して頂きたい!!
93点 / 100点