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映画「最後の決闘裁判」ネタバレあり感想解説と評価 三人の視座で過去をリプレイする大胆な構成が光る快作!

 
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この記事では、「最後の決闘裁判」のネタバレあり感想解説記事を書いています。
 
 目次
 

まえがき

 

 

今回批評する映画はこちら

 

「最後の決闘裁判」

 
 

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(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
 
マット・デイモンとベン・アフレック脚本、リドリースコット監督!
 
もう、見るしかない。
 
「グッドウィルハンティング」がオールタイムベスト級で、今作と同じコンビ。
期待しかない脚本。

 

 

それでは「最後の決闘裁判」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。

 

 

 

 
 

あらすじ

  
巨匠リドリー・スコット監督が、アカデミー脚本賞受賞作「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」以来のタッグとなるマット・デイモンとベン・アフレックによる脚本を映画化した歴史ミステリー。1386年、百年戦争さなかの中世フランスを舞台に、実際に執り行われたフランス史上最後の「決闘裁判」を基にした物語を描く。騎士カルージュの妻マルグリットが、夫の旧友ル・グリに乱暴されたと訴えるが、目撃者もおらず、ル・グリは無実を主張。真実の行方は、カルージュとル・グリによる生死を懸けた「決闘裁判」に委ねられる。勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者は罪人として死罪になる。そして、もし夫が負ければ、マルグリットも偽証の罪で火あぶりの刑を受けることになる。人々はカルージュとル・グリ、どちらが裁かれるべきかをめぐり真っ二つに分かれる。「キリング・イヴ Killing Eve」でエミー主演女優賞を受賞したジョディ・カマーが、女性が声を上げることのできなかった時代に立ち上がり、裁判で闘うことを決意する女性マルグリットに扮したほか、カルージュをマット・デイモン、ル・グリをアダム・ドライバー、カルージュとル・グリの運命を揺さぶる主君ピエール伯をベン・アフレックがそれぞれ演じた。

最後の決闘裁判 : 作品情報 - 映画.com



 

 
 

「最後の決闘裁判」のネタバレありの感想と解説(全体)

 
 

 

三人の視座で過去をリプレイ!大胆な構成と巧みな演出が光る快作!

 

凄い、としか言いようがない。

 

「グッドウィルハンティング」以来となるマット・デイモンとベン・アフレックの脚本・出演作。

 

実在したフランス最後の決闘裁判を描きつつも、性被害を裁くことの恐ろしさや、カルージュ、ル・グリ、マルグリットの3人の立場・認識のボタンの掛け違いが招く悲劇など、現代にも通じるテーマが明確な輪郭線として浮き上がり、立体的な物語設計に貢献している。

 

そして何より、決闘裁判に至るまでの過程を、三人の視座でリプレイさせるという大胆な構成が際立つ作品になっている。

 

冒頭から決闘裁判が開始されるシーンが映り、その後裁判に至るまでの過程をカルージュ、ル・グリ、マルグリットの順で見せていく。3人が同席する場面も多く、同じシーンを3回連続で見せる部分もある。

 

普通なら、何度も同じシーンを見せるのは得策ではない。

 

ただでさえ、冒頭の決闘裁判から時間を逆行させる展開になっているのだから、観客としては裁判の結末が見えず、退屈に感じてしまうからだ。

時間の逆行を3回繰り返すことは、大きなリスクを背負うことになる。

 

しかし、今作は巧みな演出力によって、同じシーンを見ても飽きが来ない。

むしろ、回を重ねるにつれて面白みが増していく。

 

自然と、誰が嘘を付いているのか、今回は何が違うのか、といった謎解き要素が加わり、常に新鮮な情報が与えられるのも素晴らしい。

 

ずっと親友として互いを讃えあってきた騎士カルージュとル・グリ。二人の決別と最後の決闘は壮絶で男の闘いとして堪能できる。

特に最後の決闘シーンでは、何度も槍を突き合い、それでも決着が付かず肉弾戦に入る泥臭い展開が魅力的で、泥沼の関係になってしまった二人を象徴するに相応しい戦い方だ。

どちらかが勝つか負けるか、単純明快で刺激的な展開は、映画好きとして興奮せざるを得ない。

 

しかし、今作の白眉は二人の騎士とは異なる第三の視座が用意されていることだ。

 

それは、男性優位社会の中で生き、性被害者となったカルージュの妻マルグリットの視座だ。

 

彼女の視座が加わることによって、これまで描かれなかった女性視点がようやく顔を出す。

性加害者のル・グリだけではなく、夫のカルージュからもぞんざいな扱いを受けていることが明らかになり、今作で何を描こうとしているのかが最後に明確になる。

 

3回も繰り返す展開は、実は彼女を描くためにあった。

 

どんな過酷な環境でも強く耐え抜き生きる女性。リドリー・スコットは、常に女性の強さを描いてきた。

 

リドリー・スコットしか撮れない、真の女性の強さを堪能できる一作となっている。

 

また、室内ではローソクの光しか用いない思い切った撮影手法や、中世ヨーロッパとしか思えない細かな美術や衣装の数々。アカデミー賞では脚本賞のみならず、美術・技術的な賞が期待されるだろう。

 

  

 

 

1章. 騎士カルージュの視座:物語の説明と空白の生成

カルージュの視点では、ノルマンディやスコットランドの度重なる戦いによって深まる男の絆と、ル・グリに対する嫉妬を描いていく。

 

カルージュは無骨で、騎士としての実力は申し分ないが政治・経済の能力はル・グリに劣る。顔にメンツと書いてあるかのような、プライドに満ち溢れた男。

 

しかし、一度王を裏切った父の存在や土地を巡る反発によって、カルージュの評価は下がっていく。

 

そして、トドメを刺すかのように妻マルグリットからル・グリにレイプされたとの報告が。もう絶望的だ。

 

裁判をしても、立場的に絶対に勝てない。決闘裁判という裏技を使って、ル・グリの復讐を果たしにいく。

 

ここで重要なのは、カルージュは決して優れた人間ではなく、己のプライドが行動原理になる傲慢な人間であるイメージを植え付ける点だ。

 

確かに不遇な環境ではあるが、実はカルージュの些細な行動や言動こそが自分の首を絞めている。

 

例えば、王に接見する際に、軽く跪き挨拶をするシーン。ル・グリは何の問題もなく挨拶を済ませる一方で、カルージュの場合は「もっと近くに」と王に指摘される。

この些細な礼儀作法の違いが、カルージュとル・グリの立場の変化を示唆するものとなっており、最小限の演出が最大限の効果を発揮している。

 

そして、カルージュは当然ながらマルグリットが性被害に遭う場面には遭遇しておらず、我々観客も同じように「空白」の時間を生み出す。

 

映画の面白さを持続させるためには、スクリーンには映らない「空白」が必要だ。空白があるからこそ、観客の想像が膨らみ、最後まで集中力を持続させることができる。

 

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2章. 騎士ル・グリの視座:空白の補完と対立構図の完成

そして、加害者側であるル・グリの視座。

 

彼の目線によって、マルグリットに対する性暴力と、その動機が明らかになる。

 

ル・グリはカルージュとは似て非なる存在で、傲慢で無骨なカルージュとは異なり知的で狡猾な一面を持ち合わせている。

 

ベン・アフレック演じるピエール伯に上手く取り込み、彼の好みの部下として道化を演じる場面は実にふてぶてしい。

 

しかし、そんな彼も女性に対しては何の配慮もなく、自身の肉欲を満たすためだけにマルグリットを襲う。

 

なぜマルグリットが気になったのか。それはル・グリと交わす挨拶のキスだ。

このキスシーンがターニングポイントとなる。ル・グリの目線では、マルグリットから積極的にキスをしたかのように撮られており、自分に気があると確信を持ったと考えられる。

 

皮肉なことに、このキスを指示したのはカルージュなのだ。。

 

彼は彼なりの正義を貫き、決して性暴力はないと断言する。

 

ここで分かるのは、カルージュもル・グリも女性の立場になって物事を考えていないこと。

劇中で少し触れられるが、この時代においては妻は夫のプロパティ=資産の一部とされており、人間としての存在にはなっていない。

 

そんな社会背景もあってか、カルージュの気持ちは一切考慮されずに物語が進んでいく。

 

 

 

 

3章. カルージュの妻マルグリットの視座:対立の果てに見える真の主人公の定義

 

外で戦いに奔走するカルージュとル・グリを見ることもなく、常に室内の二人ばかり接している。

 

カルージュの視座では純粋な被害者としてのキャラクターから、ル・グリの視座では誘惑する女として、そして本人の視座では二人の所有物としていいように使われる過酷な現実が明らかにされる。

 

カルージュ、ル・グリは何回物語を繰り返しても同じ見方になるが、マルグリットだけは三者三様のキャラクターに変化する。

 

真の主人公は、間違いなくマルグリットだ。

だからこそ、最後の3章ではマルグリットの視座で物語が描かれる。

 

一番ショックだったのは、1章にも描かれている、カルージュに性被害を独白するシーンの直後。

 

カルージュの視座では、ル・グリに復讐を誓う夫として描かれているが、実は続きが存在していた。

 

なんと、独白した直後にカルージュが「俺とヤれ。最後に抱かれた男がアイツじゃ嫌だろう」という衝撃的なセリフを投げかけるのだ。

 

そして、動揺するマルグリットの気持ちも考えずに、ル・グリと同じように強制的にマルグリットを抱いてしまう。

 

これも一種の性被害だ。彼女はル・グリからもカルージュからも、性被害を受けているように感じた。

 

どちらからも蔑まれ、親友の女性からも見捨てられ、社会から見放されるマルグリットの過酷な環境こそ、注視しなければいけない真実だ。

 

決闘裁判の結末が大事なのではない。その先にある彼女の後世こそが、今作の答えだ。

 

 

 

まとめ

今週は特に上映時間が長い作品が多いが、今作は確固たる必要性を持って二時間半を使っている。

 

アカデミー脚本賞にノミネート、あわよくば受賞して欲しい。

 

94点 / 100点 

 

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