ネタバレありで感想と解説を始めます
今回公開する映画はこちら!
「ミッドナイト・トラベラー」
それでは「ミッドナイト・トラベラー」、感想・解説、ネタバレありでいってみよー!!!!
あらすじ
・タリバン指導者について作品を作ったことで死刑宣告を受けた、アフガニスタンの映画作家夫婦が、子どもとともに欧州へ逃れるまでの3年間の旅の記録。家族がスマートフォンを駆使して撮影した旅の日常は、逃避行の不安と家族の親密さをリアルに描き出している。この作品を見る者は、未だ戦争の影響が残る不安定な社会から排斥され、寄る辺ない存在になっても続く一家の日常を、生々しく目撃することになる。
WILL2LIVE映画祭とは?
真っ赤なトマトのような外壁で、案内いらずのわかりやすさでしたw
大使館だったら、そこの敷地内は日本じゃないってことになるんだけど、文化会館はどうなんでしょうね。もちろん、パスポートは必要ないんですけどね。
地下に大きなスクリーンがあって、会場へ。映画館の椅子らしくない、革張りの椅子で!さすがはイタリア文化会館。革の国イタリア、是非ともイタリアに旅行したら革製品買ってくださいな( ´ ▽ ` )ノ
と思いきや、まさかのUNHCRのCMが入り、現状の難民の説明とUNHCRの活動概要の映像が!!
これもWILL2LIVE映画祭ならではですよね。ちなみに、このCMで知ったのですが、今難民が最も増えてるのは、中東よりも南米の難民の方が増加してるらしいんですって。しかも、メキシコではなくベネズエラ。
あまりニュースにはならないですが、ベネズエラでも政治クーデターが発生し国は内乱状態になっているらしいです。
今回見る作品は中東からヨーロッパに移住しようとする家族の話ですが、今後はベネズエラの難民が題材となる作品も出るかもしれませんね。
ちなみに、ベネズエラの難民は400万人だそうです。ちょっと人が多すぎて規模感が分からないですよね。400万人は、静岡県の総人口よりも少し大きいくらいだそうです。静岡県の人全員が難民になったら、どれくらい国が傾くか。少し考えれば分かりますよね。
という深刻な問題を考えながら、、、、鑑賞してまいりました!
映画の感想
監督自ら出演、撮影、編集、その他もろもろ!
劇映画でもドキュメンタリーでもない
やられました。
以前、イランのジャファール・パナヒ監督の「人生タクシー」という映画があったんですけど、一番この映画が近いかもしれません。
国によって映画を撮ることを極度に制限された監督。でも、映画監督の性があるのか、どうしてもカメラを回したくなる。
今回は自分が難民になりヨーロッパへ向かう様子をカメラに収めたのですが、まずは映画監督の根性って、本当に凄いですよね。
監督のハッサンさんは、アフガニスタンで映画を撮っていたんですけども、その映画の撮影中にタリバンに襲撃され、なんと主演俳優が殺されてしまいます。そのシーンも、少しだけ映ります(もちろん、モザイクありですが)
ちなみにタリバンとは、アフガニンスタンとパキスタンで活動するイスラム原理主義の過激派組織。活動期間と勢力的には、全盛期のイスラム国を凌駕する組織です。
そんなタリバンに目をつけられた監督ハッサン。なんか、こう説明すると劇映画のように見えてしまいますが、再度説明するとすべて実話の話です。実話が元ではありません、実話です。
主演俳優を殺され、自身も死刑宣告をされ、賞金首をかけられ、監督もさすがに危機感を覚えてアフガニスタンから逃げることにしたのです。
難民として逃げる姿を監督自らが写すという行為、、これはドキュメンタリーなんでしょうか? 明確な定義は分かりません。もしかしたらドキュメンタリーと言ってもいいかもしれませんが、なんかドキュメンタリーと言ってしまうと他の誰かが難民に密着したみたいな話に聞こえなくもない。
だから今作を紹介するとき、すごく悩むんですよねw こんな作品、滅多に見れないものですから紹介したいんですけどね。
あえて分類するならば、記録映画かもしれませんよね。
ただ、自分で自分を記録してるのでセルフィー映画といった方がいいのかな?ただ、これじゃあ安っぽい映画に見えてしまうww
とにかく、監督自らが難民となってヨーロッパに移動しようとする唯一無二の作品を、是非とも鑑賞して欲しいのです。
事実は小説より奇なり、これが難民のリアル
映像に映るすべてが、リアルなんですよね。映画用に照明を調節したり演技をつけることもなく、難民として各地を移動する家族の様子を撮影していく。監督ももちろんカメラに映る。
舞台はアフガニンスタンから車で移動していき、タジキスタンやイラン、トルコ、ブルガリア、そしてハンガリーへと移動して行くんですけど、もちろんニュースで知られているように、難民受け入れをヨーロッパ側はかなり抵抗しているんですよね。
ヨーロッパでも中東出身の過激派がテロを起こしたこともあり、国民感情が高ぶっているというか。
この様子は「帰ってきたヒトラー」にて詳しく収められています。今のドイツではヒトラーが思ったよりも支持されるかもしれません。。
www.machinaka-movie-review.com
途中でヨーロッパに行くために業者と話をしてるシーンがあるんですけど、ボートが4000ユーロとか交渉してるんですよね。
これ、どう考えても違法な業者だよねww
でも、こうでもしないとヨーロッパにいけないんですよね。こういう映像が見れるだけでも、本当に貴重な機会だと思います。
他にも、国境を超えるシーンを走りながら捉えていたり、ブルガリアで移民排斥運動にあったり、娘が暴漢に襲われそうになったり、娘が行方不明になったり、、すべて事実の映像が、これほどまでに強烈だとは。。
劇映画ももちろん素晴らしい。俳優の演技も素晴らしい。演出も素晴らしい。
でも、本物の記録映像にだって力はあるんです。
それが難民を題材に描くことで、事実は小説より奇なり、と言っていいほどの作品が作り上げられました。
スマホだけで撮った作品なのに、信じられません。
ただ、難民の映画だからって、決して暗いように映らないように、監督がすごく配慮をしてるのが分かる作りになってるのが素晴らしくて。
子供が単に遊んでる映像が入ったり、奥さんが自転車に乗ろうと練習しているときに盛大に転ぶ映像も収めていたりwww(場内爆笑しましたが、冷静に考えるとアフガニスタンでは女性が自転車に乗ることは禁止だったんですね)
何よりも編集の力、音の演出も申し分ありません。撮影だけはスマホで、あとは処理を加えてよりクオリティを高くすれば良い。
スティーブ・ジョブズも、まさかこんなスマホの使われ方されるとは思ってなかったでしょうね。
難民の様子を難民が撮るという、至極稀な記録映画を、是非ともご覧ください。
劇映画ばかり見ている人でも、十分楽しめる内容になっています。
奇しくも、難民を記録することは平穏無事でない過酷な人生を記録することになり、映画にとっては見せ場が何個も何個も出てくるのです。
ただ、悲劇的な事案が起こるたびに、映画的にはおいしくても現実では悪い方向にいっている恐ろしさについて、監督自身が話しているシーンもありました。
すごく印象的に残っている言葉があって、「映画は時に残酷だ」と監督が話すんですよね。
先ほど、監督の娘が行方不明になったという話をしましたが、娘を探している時に監督は、「これは映画の見せ場になる、と思いながら探していた」と話していました。
映画監督の性とも言えるんですけど、これを劇中で暴露するという内省的な内容になっているのが、すごく正直で信頼できる監督だなぁと思いました。
これからも監督のハッサン・ファジリさんの作品に期待が持てる作品です。
ちなみに、ハッサン家族は現在、ドイツで生活をされているそうです。ただし、永住権が得られているわけでもなく、難民申請すら通ってないそうです。
この映画が世界的にヒットし、難民に対するイメージ、そして一人でも多くの難民申請が通ることを強く願います。
もちろん、日本でも難民申請が通ることを。。