まえがき
今回批評する映画はこちら
「この茫漠たる荒野で」
期待値が上がって仕方ありません!配信ですが、出来るだけ良い環境で鑑賞して参ります。
それでは「この茫漠たる荒野で」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・「キャプテン・フィリップス」のポール・グリーングラス監督とトム・ハンクスが再びタッグを組み、南北戦争後のアメリカを舞台に、各地を旅する退役軍人の男が、孤独な少女との旅路を通じて心を通わせていく姿を描いた人間ドラマ。南北戦争が終結して5年。退役軍人のジェファソン・カイル・キッドは、各地を転々としながら世界のさまざまなニュースを読み伝える仕事をしていた。そんな旅の途中、キッドはジョハンナという10歳の少女と出会う。6年前にネイティブアメリカンに連れ去られ、そこで育てられたジョハンナは、英語もわからず見知らぬ外の世界に困惑していた。見かねたキッドは、彼女を親族のもとへ送り届ける役目を引き受ける。2人は厳しい自然や人間たちによってもたらされる試練に直面しながらも、荒野を進んでいく。主人公キッド役をハンクスが務め、ジョハンナをドイツ出身の新星ヘレナ・ゼンゲルが演じる。原作は、全米図書賞の最終候補に選出されたポーレット・ジルズのベストセラー小説。脚本に「LION ライオン 25年目のただいま」でアカデミー脚色賞にノミネートされたルーク・デイビス。Netflixで2021年2月10日から配信。
「この茫漠たる荒野で」のネタバレありの感想と解説(短評)
「#この茫漠たる荒野で 」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年2月12日
南北戦争後のアメリカ南部を舞台に、元軍人と部族に育てられた少女との交流を描く。
サブテクストとして、南北戦争による南部惨状を描いた「風と共に去りぬ」、地理を掴むために「赤い河」がオススメ。
そして何より、「ダンスウィズウルブズ」を思い出した。 pic.twitter.com/xPvYUrxjU2
映画全体としては、物語を語り継いでいくことが人々に活力を与えるという普遍的なメッセージ性があった。最終的には映画賛歌まで願っていたのかな。
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年2月12日
トムハンクスが語る様子、絵があったら完全に活動弁士だよね。南北戦争から間もなくして、エジソンとリュミエール兄弟は映画を作り出していく。。 pic.twitter.com/SRPxicARZ1
西部劇のようで、西部劇でない。まさしく現代ロードムービー。
www.machinaka-movie-review.com
そして今作と同じくアカデミー作品賞が有力視されている「ノマドランド」は、荒野にさすらう白人労働者のロードムービー。
現代のロードムービーは、社会問題とロードムービー本来の要素を重ね合わせた作品が、トレンドであるように感じます。
ロードムービーで人間を描くことは当たり前。それプラス映画の外側の世界≒社会問題に触れようとする試みが、今多いように感じます。
出発点から目的地に着くまでがロードムービーの宿命的にシンプルなゴールなのですが、シンプルだからこそキャラクターの一挙手一投足に注目できるし、社会的メッセージを入れる余白も出来る。
いま、ロードムービーが非常に注目されていると感じるし、ロードムービーの可能性を改めて実感できた良作でございました!!
時代背景を知れるおススメ作品
特に前提知識がなくても、二人の交友を見届けるだけで満足できる作品です。
ただ、南北戦争のあと南部はどうなったのかなど、時代背景を知っておくと、深みが増します。
そもそも今作で、南北戦争はどっちが勝ったのか、説明してましたっけ?
そうした諸々の前提知識が必要なので、サブテキストとなるような映画をご紹介します!
●「風と共に去りぬ」1939、アメリカ
言わずもがなの超有名作。映画ファンなら誰しも見たことあるでしょ? あれ、見てませんか?
3時間という非常に長尺な映画ではありますが、南北戦争を取り扱った映画を見る前に、是非とも今作を見て史実を知って頂きたい。
もちろん、細かい点を挙げればすべてが史実ではないですが、①南北戦争が起きる前、②南北戦争中、③南北戦争後の3時代の南部が良く理解できるのが今作の最大の特徴。
①の時代は、奴隷制度が当たり前で、誰も異論を唱えず。国家が存在せず富豪が占領していた、一種中世ヨーロッパ的にも見える南部がたっぷりと描かれます。
そして②の時代、余裕と思われた南北戦争は北軍の圧勝に次ぐ圧勝。
ついに③の時代、戦争に負けた南部は、富という富が奪われ、農業をするしか道がない貧困者の地域となってしまったのです。
今作で富豪らしい富豪がおらず、着ている服装もみずほらしい人が多いのは、戦争に負け全てを奪われたからなんですよね。
そのため、いくらジョハンナのような孤児がいたとしても、養う余裕が全くない。今作で登場したジョハンナの義理の夫婦が荒んでいるのは、そうした時代背景があるのです。
キッド大尉が夫婦を過度に責めないのも、納得できるのです。
●「赤い河」1948、アメリカ
劇中に「赤い河」という言葉が出てきますね。赤い河とはカウボーイと牛が行きかった、西部開拓時代のシルクロード的な河道なんです。
赤色土のため赤く見える川が特徴的で、大量の牛が赤い河を渡るシーンがとても印象的です。だって、CGがない時代にCGよりすげぇことやってるんだもの!!
●「ダンスウィズウルブス」1990、アメリカ
今作を見て真っ先に思い出した映画が、こちら。
南北戦争中、突如僻地に行きたいと申し入れした中尉がインディアン居留地で監視という名目の1人暮らしを始めるケビンコスナー。インディアンと交流していくうちに、子供の頃に家族が皆殺しにされ、その後はインディアンに育てられた白人の女性とケビンコスナーが交流を深めていく話なんです。
非常に今作との共通点が多く、どこかしら意識をしてるなじゃないかと思ってしまいました。
ちなみに、この作品に登場するのはスー族というインディアンで、今作のカイオワ族はスー族によって端へ端へと追いやられてしまいます。
ちなみに、スー族もその後衰退の一途を辿るのですが、そのカギとなるのが今作にも登場したオックスフォードの大群です。
南軍の男たちがオックスフォードを捕まえては殺戮する描写が出てきますが、スー族にとってオックスフォードは食料であると同時に皮を服や住まいにも使用するほど、重宝している動物。スー族にとって衣食住であるオックスフォードを壊滅させることで、インディアンの勢力を失わせたのです。
今作と非常に関連する作品のように思えるので、是非ご覧ください。
まとめ
アカデミー作品賞ノミネートに値する、非常に複合的な要素を持ったロードムービー。どれをとっても一級品で、まるで隙が無い作品でございました。
ただ、隙がなく完璧すぎて、愛着のようなものが湧かなかったというのも正直なところ。
上手すぎる作品っていうのも、困ったものですね笑
個人的にはやはり、「ダンスウィズウルブス」のようにちょっと隙のあるインディアンものが好みですかね。
とはいってもアカデミー賞に食い込むこと間違いなしの作品ですし、アカデミー賞の時期を考えると間違いなく賞レースに懸けている作品であります。
是非ともご覧あれ!おススメです。
92点 / 100点
