[はじめに]
今回公開する映画はこちら!
「人魚の眠る家」
- [はじめに]
- [あらすじ]
- 正直、苦手な監督の作品です
- 映画の感想
- 堤幸彦史上、最高傑作でした
- 黒沢清意識しすぎ問題
- 薫子の行動を許せるか?
- 技術者としては、断じて許せない星野
- 開発した経験があるから言うが、電気刺激は本当に痛い
[あらすじ]
・人気作家・東野圭吾の同名ベストセラーを映画化し、篠原涼子と西島秀俊が夫婦役で映画初共演を果たしたヒューマンミステリー。「明日の記憶」の堤幸彦監督がメガホンをとり、愛する娘の悲劇に直面し、究極の選択を迫られた両親の苦悩を描き出す。2人の子どもを持つ播磨薫子と夫・和昌は現在別居中で、娘の小学校受験が終わったら離婚することになっていた。そんなある日、娘の瑞穂がプールで溺れ、意識不明の状態に陥ってしまう。回復の見込みがないと診断され、深く眠り続ける娘を前に、薫子と和昌はある決断を下すが、そのことが次第に運命の歯車を狂わせていく。
正直、苦手な監督の作品です
監督は、はぁ。。。
堤幸彦監督でございます。
もうお世辞とかいらないんと思うんで、正直に言います。
すげぇ苦手です。
もともとテレビマンだった人なんですけど、最近の活躍は目覚ましい。
年に何本ペースで撮ってるんだろうって感じです。
本広克行、君塚良一さんと並んで、フジテレビ映画を撮る専門家のような人だ。
テレビ的な過剰な説明セリフ、妥協に妥協を重ねた演出。本当に苦手な監督です。
だって、ロケしてる時でも現場にはいなくて、モニターで確認してるんだよ?
これ、テレビドラマのやり方だよねww
映画の現場で、現場にいないなんて許されるかよ!!
絶対に役者まかせだよな、この人。。。
個人的には映画の演出は監督が手取り足取り指導するべきだと思っているmachinakaです。
楽してるとしか言いようがないのです。
また、テレビとの繋がりが深いからテレビ局主導の映画ばかり作ってるわけですが、あまりにも作りが適当すぎます。
原作の読み込み不足、役者も台本を読んでるだけ、物語のつじつまが合わない、キャラクターが生きてない。。
総じて、堤幸彦監督の作品は死んでるんですよ。
うん、ここまでハッキリ言っていいのか分かりませんが、僕は彼の作る作品で泣いたことはないし、キャラが生きてると思ったことはない。
だから、あまり見る必要はないとも思っていました。
ただ、非常に気になることがあって、、
東京国際映画祭で掛かってたんですよ。
あの東京国際映画祭で!!
堤幸彦監督の作品がなぜ?
よくあることなの?
とにかく、世界に向けて発表した作品であることは間違いないです。
これ、駄作だったら凄く恥ずかしいんですけど、それを確かめるためにも鑑賞してきました。
映画の感想
堤幸彦作品で初めて泣いた、泣かされた。。
堤幸彦史上、最高傑作でした
はい、今まで堤幸彦監督の作品はあまり好きじゃなかったですが、今作だけは別物でした。
まず、驚くべきは
最後まで飽きずに見られる
これ、奇跡ですよ。。。
今までは途中でネタが分かったり、過剰な説明セリフに萎えたり、最後まで集中力が持たなかったんです。
もう脳が見るのを止めろって伝令が来るんですけど、今回だけは別でした。
あらすじは、篠原涼子と西島秀俊演じる播磨夫婦の娘が突然プール事故に遭い、脳死状態になるところから始まります。
娘の死をめぐって、脳死判定させてドナー提供するのが良いのか、そのまま生かせるのが良いのか、よく取り上げられる社会問題をテーマにしています。
が、この映画はそれだけじゃないんです。
さすが理系出身の東野圭吾が原作だけあって、娘が脳死してから、この映画はマッドな作品になる。
西島秀俊は医療用の電子機器・システムを開発する会社の社長。
その社員の中に坂口健太郎演じる星野がおり、星野の「人間の意識とは関係なく手足を動かせる技術」に西島は興味を惹かれる。具体的には電気刺激を脊髄に流して動かしてるんですけど。
そして、まだ実用化されてないその技術を利用して、脳死状態の娘の手足を動かし、あたかも生きてるように仕立てるんです。
意識がないが心臓は止まってる状態の人間に対して、人工的な装置を使って生かしてるように見せる。
妻の篠原涼子はさぞかし反対する、、と思いきや、手足が動くことに感動し、娘が生きてると盲信してしまう。
そして、ラストは娘が生きていることを証明するために、脳死状態の娘を自分の手で殺そうとする。
脳死状態で法律上は死んでる娘を包丁で刺せば、自分は娘を殺したことになるのか? それを裁判で証明したい、と主張する篠原涼子。。。
はい、ここまであらすじを書いておいてお分かりだと思いますが、この映画は単なるヒューマンドラマではありません。
ホラーです。
少なくとも、演出方法はホラーに見えました。
ヒューマンドラマとホラーを織り交ぜながら、社会問題を描くというのはあまり見たことがないし、拙い演出ではありましたが私にとっては新鮮でした。
何より、篠原涼子の演技が実に良い。
脳死状態の娘を本気で生きてるように盲信する妻の役は、見事なハマりっぷりでした。
ていうか、本気で怖かったです。
人にとって、死とは何なのかを徹底的に考えさせられる作品でありました。
また、今作は娘の死を巡る話しがメインのため、子役が非常に多く出演しているのですが、商業邦画にしては珍しく子役が良かったですね!
泣き叫ぶ演技だけでなく、嘘をつこうとキョロキョロ目を動かす演技だったり、非常にリアルだったと思います。
まぁ自然かどうかって言われると、自然ではないです。でもそれを言ったら堤幸彦作品はいつも舞台的というか、大袈裟なので仕方ないとは思ってます。
とにかく、斬新な物語と篠原涼子の演技に泣かされました。総じて監督の演出プランに泣かされてしまいました。。
黒沢清意識しすぎ問題
そして、今作は非常に独特な映像が終始続きます。
ホラー調に作っているので全体的に暗いんですけど、それだけじゃない。
局所的に光が当たり、まるでスポットライトを当てたように演出されてるんですね。
部屋全体は暗いんですけど、間接照明とか使ってないのに部分的に明るくなってるんですよ。
普通のホラーなら絶対にやらない手法です。
最初はああ、綺麗だなぁって風にしか見てなかったんですけど、中盤で薫子が娘に電気ショックを与えホラー展開になった時、ふと気付きました。
あくまで私の考察ですけど、これ、、
黒沢清を意識してる
と思いました。
もちろん、撮影監督の方は黒沢作品に参加してはないんですけど、ホラー映画でああいう証明の当て方をするのは、黒沢清作品以外ありません。
それに、西島秀俊を主演に使い、僕の中では完全に「クリーピー偽りの隣人」のイメージでした。
www.machinaka-movie-review.com
ホラー映画的に撮りたかったから、黒沢清作品を意識したのでしょうか。ただ、意識しすぎてる感じもしましたねww
なので、私の中では今作は「クリーピー 偽りの愛娘」というタイトルがぴったりきます。
薫子の行動を許せるか?
今作を見て子を持つ親の方は、薫子の行動にさぞかし抵抗があったのではないでしょうか?
突如起こった事故ということもあり、子供という立場ということもあり、延命して命を繋ぎとめるか、脳死判定するかが、親に委ねられる事案となってしまいました。
いくら自分の娘を愛してる、生きていてほしいとはいえ、脳死状態の娘を無理矢理動かして、生きているように見せるだなんて。
非常に理解に苦しむ行動だったと思います。
この行動について西島秀俊がセリフで言っちゃってるんですけど、「子供が望んでないことをしちゃダメだ」と的確なツッコミが入ります。
もう、的確すぎてぐうの音も出ません。
もちろん薫子の行動は肯定できるものではありませんが、脳死しても手足が動き、筋肉もつき、健康になっているという状態を、薫子が悲観するわけがありません。
そして、万が一、億が一の確率で娘が生き返ったら、、、という一筋の願いを掛けた行動は、愛情表現の何物でもありません。
もし自分が同じ立場に置かれたら、素直にドナー提供をできるのか、少しの確率でも娘が生き返るならば、果たして脳死判定をお願いできるのか、考えてしまいました。
脳が死に、法律上は死んだと判定される子供をベビーカーに乗せて散歩する様子も、本当に見ていて怖いし、弟の精神に確実なダメージを与えているのも事実。
客観的に見ても、家族全体を見ても薫子の行動は決して許されるものではありません。
ただ、私としては薫子一人を非難することは出来ません。
延命ばかりに目がいってしまい、娘の意識とは裏腹に身体を動かして、娘の人権を踏みにじってしまった凶行に走った薫子を、なぜ誰も止めることが出来なかったのか?
お母さんと言い、妹といい、薫子を娘から引き離すことが何故出来なかったのか、不思議でなりません。
薫子に対して苛立ちを覚えるというより、薫子の周囲の人間に対して、非常に強い怒りを覚えました。
技術者としては、断じて許せない星野
今作では薫子ばかりが非難を浴びそうですが、 私が一番許せないのは坂口健太郎さん演じる星野です。
あの技術が無ければ薫子が狂うこともなく、最初から脳死判定に持ち込めていたというのもあるんですが、私は技術自体を否定したいわけじゃないんです。
あの技術がきちんとしたテストを経て、確証性を持たないまま生身の人間に使ってしまったことが、本当に許せないんです。
そもそも、あの技術は手足が動かない生きた人間に対して使用するはず。生きてる人間に対して、本人の許可を経て行うものならば、まだ良いです。
しかし、電気を流す相手は子供で、しかも脳死状態にあります。
星野は生きた人間に対してテスト・実証は行ってるかもしれませんが、今回のようなケースで試したことはないでしょう。それに、あれだけ長期間にわたり人体に電気を流し続けることをテストしたわけもありません。
試してもないモノを、生きた人間に、しかも子供に、長期間に渡って。。
一応ですね、私も技術者として生計を立てている身にあるんですよ。
そんな私から見ると、星野は、技術者の風上にも置けないクソ野郎です。
少し専門的な言葉で言えば、星野は技術者倫理をまるで学んでない。技術者倫理に欠けた技術者は、マッドサイエンティストと呼ばれても仕方ありません。
一応技術者倫理の概念を説明しておくと、星野は「研究・設計・開発段階」にあるわけです。まだ製造段階でも、市場段階でもありません。
https://www.ipros.jp/technote/basic-engineering-ethics/
今回は特別なケースだった、と星野は言い訳するでしょうが、私から見るとそんなのチャンチャラおかしい。
今回と同じく、脳死状態の子供に適用したことがないのに、電気を流し続けるだなんて拷問でしょう。
そして、星野は技術者倫理だけじゃなく憲法にも違反する行為を働いてしまいました。
薫子の娘にも、当然ながら人権があり、人権は尊重されるべきです。
娘の意に反して、電気を流して手足を動かすだなんて、人権を踏みにじる行為と言われてもおかしくないです。
開発した経験があるから言うが、電気刺激は本当に痛い
そもそも、あの電気刺激を与えるデバイス・システムは子供にとって実に辛い、もはや拷問と言える苦痛を与えていたに違いありません。
なぜなら、私自身も電気刺激により人の意識に関係なく体を動かすデバイス・システムを開発した経験があるからです。
どのデバイスを使ったかは言いませんが、比較的簡単なプログラミングで実行することができます。
私が開発したケースでは、腕に取り付けるデバイスで、腕の筋肉に電気を流して指を動かしたり、手首ごと手を曲げたりする装置でした。
いわゆる「ハプティクスデバイス」=擬似的な触覚を与える装置です。
人の体に電気刺激を流すだけなら、そこまで大きな電流は必要ないんです。
整骨院で電気を流したりすることがあると思いますが、あれは微弱な電流です。
腕を動かしたり足を動かしたりするには、高電圧にして強い電流を流す必要があります。強くしないと、筋肉まで電気が届かないんですよね。手を動かすためには腕の筋繊維を動かす必要があり、相応の電気が必要なのです。
体験したことがある人は少ないのでイメージが湧かないと思いますが、手足を動かすほどの電流を流すと、メチャクチャ痛いです。大人の私でも本当に耐えられないくらい痛いです。
私も電気刺激を与えるデバイスを動かすシステムを開発した後、自分でテストしてみたんですよ。
でも、いくらやっても手が動かなくて、一気に電圧を上げてやってみたところ、まるで麻酔注射を打たれているような鈍痛が伝わり、とてもじゃないけど長時間耐えられませんでした。
大人の私でもこの有様です。
薫子の娘の瑞穂ちゃんは、もっと痛いに決まってます。しかも、脊髄に電気を流すということは、筋肉よりさらに体内にまで電気を行き届かせる必要があります。
これからは完全に私の妄想ですが、手足を動かすほどの電気を脊髄に流すと、生身の人間では耐えられないほどの激痛を伴うのではないでしょうか?
ゆえに、星野は生身の人間では存分に実験できず、脳死した瑞穂ちゃんなら実験できると確信し、彼女やプライベートを台無しにしてまで実験を繰り返したのではないでしょうか?
瑞穂ちゃんは脳死状態なので、痛みは感じない。絶好の研究材料だったのかもしれません。
そう考えると、ますます星野を許すことができません。
星野の開発したデバイスに激痛が伴うのかどうかは、実のところ分かりませんが、少なからずとも痛みを与えることは確実なはず。
私ならば、そんな拷問みたいな行為を脳死患者に行えません。
マッドサイエンティスト、許すまじ!!!!!