- まえがき
- あらすじ
- 「ミナリ」のネタバレありの感想と解説(全体)
- 「水」が紡ぐ、家族が夢見たその大地
- 現代に「なじめ!」アジア人のフィールドオブドリームス
- 監督の実体験が映画の「源流」に
- 自然な作風はジェイコブ一家に「なじむ」
- ミナリが示すものとは?
- まとめ
まえがき
今回批評する映画はこちら
「ミナリ」
アカデミー賞作品賞にノミネートし、前評判とコメディというジャンルから、今最も見たい映画。
韓国人のスティーブン・ユァンが主人公で、「ウォーキングデッド」での好演をいまだに思い出す。逆に言えば、それ以外の印象がない。「オクジャ」にも出ていたそうだが、あまり記憶がない。
韓国語が主言語であるため、ゴールデングローブでは作品賞に入らなかったが、現在アカデミー賞は英語以外の作品も作品賞の対象となったため、ミナリでも十分に受賞する可能性がある。
昨年度は「パラサイト」がアカデミー賞を獲っただけに、2年連続の韓国映画受賞となるか。
賞レースの結果はさておき、マイノリティが南部で奮闘するという設定はアカデミー作品賞に選ばれやすい傾向にある。そんな卑しい目で見たくないが、設定は設定なので。
www.machinaka-movie-review.com
それでは「ミナリ」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・1980年代のアメリカ南部を舞台に、韓国出身の移民一家が理不尽な運命に翻弄されながらもたくましく生きる姿を描いた家族映画。2020年・第36回サンダンス映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞した。農業での成功を目指し、家族を連れてアーカンソー州の高原に移住して来た韓国系移民ジェイコブ。荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを目にした妻モニカは不安を抱くが、しっかり者の長女アンと心臓を患う好奇心旺盛な弟デビッドは、新天地に希望を見いだす。やがて毒舌で破天荒な祖母スンジャも加わり、デビッドと奇妙な絆で結ばれていく。しかし、農業が思うように上手くいかず追い詰められた一家に、思わぬ事態が降りかかり……。父ジェイコブを「バーニング 劇場版」のスティーブン・ユァン、母モニカを「海にかかる霧」のハン・イェリ、祖母スンジャを「ハウスメイド」のユン・ヨジョンが演じた。韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョンが監督・脚本を手がけた。
「ミナリ」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#ミナリ」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年3月19日
アメリカに移住した韓国人家族が大自然の中で生き抜く姿を、自然な演技と演出で切り取った、アカデミー賞最有力も頷ける大傑作。
印象的な「水」のメタファーにより自然な映画文法を紡ぎ出し、その土地に馴染めるかを表現している。
水は全ての源なり、そして実なり。 pic.twitter.com/7ePR6OXRxI
「水」が紡ぐ、家族が夢見たその大地
現代に「なじめ!」アジア人のフィールドオブドリームス
こうしたアメリカンドリームを掴もうとする話は「ロッキー」しかり、どんな時代にも受け入れられる。
物語やテーマという点に関しては、本作は非常に普遍的かつ王道な映画である。
多様性が叫ばれて久しい現代のアカデミー賞およびアメリカに、アジア人がメインである本作は間違いなく「なじむ」内容になっているし、「浸透」している。
昨年は「パラサイト」がアカデミー作品賞を獲り、次第にアジア人にも門戸は開かれるようになってきた。
しかし、アジア人がハリウッドもとい世界に通用するためには、パラサイト単発では上手くいかない。
パラサイトという「点」をきっかけに、本作で「線」となり、アジア人が活躍し評価される「流れ」を作ってくれた。
小さな流れが川となり肥沃な土地を形成するように、今後もアジア人が映画界で活躍してほしい。
その流れを、止めてはいけない。夢で終わってはいけない。
今年のアカデミー賞、全力で本作を応援したい。
監督の実体験が映画の「源流」に
単純にヒヨコの仕事だけでは生計が厳しいという経済的事情に加えて、アメリカンドリームを掴みたいジェイコブの気持ちとは、その仕事はあまりにもかけ離れていた。
また、雌は残し雄は捨てるという仕事内容から、「成功」と「失敗」は隣り合わせである意味も含ませている。このオープニングはラストを見終えてから、その意味が分かるだろう。
本作は監督の実体験を元に作られているようだが、彼の記憶の中では「点」であった内容が、映画にとっては大きな「線」であり、「源流」となっているところが、優れた映画文法を構築しているし、優れた映画監督たる証左だろう。
自然な作風はジェイコブ一家に「なじむ」
本作には過度な演出や説明の一切がなく、極めて自然な映画である。
自然な撮影
撮影も過度な照明は使わず自然光であり、逆光の映像も多いため、俳優の姿が暗く太陽が明るく写されていることも多い。これは、キャラクターが自然に飲み込まれていることを暗喩しているようにも見える。
自然な配色
本作では派手な色がほとんど登場しない。片田舎が舞台ということも大きいが、室内の装飾なども含めて、非常に落ち着いた色になっている。
例えば、本作で登場するマウンテンデューひとつとっても、我々が想像する派手な緑色ではなく落ち着いた緑色のビンになって表される。この色に対する気遣いが、実に素晴らしい。(時代の影響もあるかもしれないが)
本作で最も派手な(明度・彩度の高い)色は、太陽光と家屋が燃える際の「オレンジ色」くらいである。
これらのオレンジ色は自然現象であり、やはり本作の「自然優位性」は配色にも表れている。
ただ、人間側にも一人だけ、目立つ配色がなされている。主人公のジェイコブだ。
ジェイコブは主人公ということもあり、「赤色」をよく身にまとっている。
赤い帽子、赤い一人ソファ、赤い車の内装。
ジェイコブには明らかに赤の要素が多い。
韓国の服や建築物などは、赤・黒・黄・青・白の五方色をベースとしてデザインされることが多いらしい。
サッカーでも韓国人選手は赤のユニフォームを着ており、「赤」が韓国を代表する色であることは間違いない。
もしかしたら、ミナリ=セリと同じように、ジェイコブの赤にも韓国が込められたのかもしれない。
ただし、「赤」と言っても原色の赤ではなく、彩度や明度の低い赤となっている。
一瞬だけしか映らないが、本作で最も目立った「赤」はおそらく、農産物のパプリカの赤だろう。
自然な登場人物
一癖も二癖もあるキャラクターを何の説明もなく登場させ、彼ら彼女らがなぜその行動をしたのかの原因が特定できない。ごくごく自然に、ありのままにキャラクターを登場させ、余計な説明をしない。
自然な編集
また、本作はカットの繋ぎが非常にシームレスであり、マッチカットを使ったつなぎが多く見られる。
※マッチカット:本来は時間も場所も異なる連続していない2つの場面を、共通の動作や被写体の類似性で繋ぐ編集技法(wikipediaより)
特筆すべきは、映像によるマッチカットだけでなく、音声によるマッチカット。
息子とその友達が歯ブラシでゴシゴシする音から一転して、祖母の体をさする母の姿が。何かを「擦る音響」で繋いでいる。
映像のマッチカットは、例えばイーストウッド監督作品で多く見てきたが、音響によるマッチカットは珍しい。本当に素晴らしかった。
自然な作風が表すもの
そうした一連の自然さが農業に勤しむジェイコブ一家と重なり、単に農業をする様子を切り取っても大きなカタルシスを受け取ることができる。
同じくアカデミー作品賞にノミネートされた、2017年の映画「マンチェスターバイザシー」は、本作ととてもよく似ている。
過度な説明や演出がない自然な様子や、家屋が燃えることが物語の大きな転換期となることなど、本作を見て強烈に思い返した。
つまり、アメリカ映画を見ているようで日本の映画を見ているような気分になるというか。「わび・さび」が抜群に効いているとしか言いようがない。
また、音楽の使い方も非常に素朴で、物語の内容からも「北の国から」を思い出した。直撃世代ではないためストーリーの詳細は分からないが、本作の楽曲を聞いて頭の中にさだまさしが浮かんできた。
こうした自然な演出が、本作では際立っていた。実に、実に素晴らしい。
ミナリが示すものとは?
まとめ
「アカデミー作品賞最有力」というキャッチコピーも頷ける、大大大傑作だった。
スティーブン・ユァンはもちろんのこと、息子やおばあちゃんの名演技も脱帽。
脂の乗ったスティーブン以外にも、小さい子供やベテランの大女優に見事な演出を付けられたのが、本当に素晴らしいことだと思う。
いつの時代も、どんな作品を見ても、アメリカンドリームを掴もうとする映画は見ていて本当に気持ちが良い。
いつか自分も、夢を叶えたい。
そのための努力を今、全力でしなければいけない。
新しいことにも挑戦したい。
と、人生訓を授かった。
最後に、本稿では「水」と作品のテーマを絡めた文章ばかり書いてしまったが、ただただ純粋に面白かったと感じる。
というか、、、なんというか、、、
めっちゃ面白かった!!!!
95点 / 100点
※余談
ヒヨコ=人間以外の生き物が無残に殺され、一風変わったおじさんが主人公と仲良くなり、森の外れ道のような場所を歩いていく様子を見て、なぜか「ペットセメタリー」を思い出した。