- ネタバレありで感想と解説を始めます
- あらすじ
- 映画の感想
- 初めての蜷川作品、初めての体験
- 藤原竜也を始め、舞台出身の役者が光る
- 和色の美しさが堪能できる
- 殺し屋と料理という奇妙な組み合わせの意味は?
- 料理=生死の転換期=人生の転換期=今作のテーマ
- 割と露骨にリファレンスを出す大胆さ
ネタバレありで感想と解説を始めます
今回公開する映画はこちら!
「Diner ダイナー」
それでは「Diner ダイナー」、感想・解説、ネタバレありでいってみよー!!!!
あらすじ
・藤原竜也と蜷川実花監督が初タッグを組み、平山夢明の小説「ダイナー」を映画化。元殺し屋の天才シェフ、ボンベロが店主をつとめる殺し屋専用の食堂「ダイナー」。日給30万円の怪しいアルバイトに手を出したばかりに闇の組織に身売りされてしまった少女オオバカナコは、ボンベロに買われウェイトレスとして働くことに。ボンベロが「王」として君臨するダイナーには、全身傷だらけの孤高の殺し屋スキンや、子どものような姿をしたサイコキラーのキッド、不気味なスペイン語を操る筋肉自慢の荒くれ者のブロら、ひと癖もふた癖もある殺し屋たちが次々とやって来て……。ダイナーの店主ボンベロ役を藤原、物語の鍵を握る少女オオバカナコ役を玉城ティナが演じるほか、窪田正孝、斎藤工、小栗旬、土屋アンナ、奥田瑛二ら豪華キャスト陣が殺し屋役で出演。
映画の感想
俺はぁぁぁああああああああああああああああ
初めての蜷川作品、初めての体験
非常に繊細かつ大胆なカラーで非日常的世界を描き、藤原竜也をはじめとした舞台出身役者の仰々しい演技がかえって映画に相乗効果を生み出し、料理と殺し屋という奇妙にも思える組み合わせでストーリーを組み合わせることによって、唯一無二の青春映画でございました。
誰がどう言おうと、これは青春映画だと思う。
私が蜷川実花さんを映画人として初めて認識したのは、キネマ旬報社から出ている「知っておきたい映画監督100 日本映画編」という本と出会った時です。
この本の出版日は2009年。まだ「さくらん」しか公開されてない時期だと思いますが、それだけで「知っておきたい映画監督100人」の中の一人に選ばれてるなんて、さすがです。納得です。
玉城ティナ演じるオオバカナコ。幼い頃に親と離別し、以降非常に不安定な状態でこの世を「彷徨っている」少女。
冒頭、高層ビルを背景にサラリーマンが雑踏を行き交う中、彼女だけが佇んでいる。画面は青暗くレタッチが施されていて、なんとも不思議な絵に見える。ものの数秒で異世界に誘ってくれる蜷川監督の演出力に、ただただ脱帽です。
ちなみに、このシーンよりオオバカナコが現代社会の中で行方不明になっている=まだ何者でもない状態ことを端的に表しています。また、青黒い背景=青春真っ只中の未熟な状態ながら、どこか闇を抱えている主人公の心理状態を描いてるように感じました。
理由はないけど直感的にメキシコのカラフルな田舎町に行きたいカナコ。旅費を稼ぐために怪しいバイトに手を出してしまう。
バイトが採用された時に、なぜかゲーセンにいるカナコ。その時にクレーンゲームが動く絵が移り、そこで掴まれているのはカナコに似た少女。その後、バイト中にトチって自分がクレーンに吊るされるという伏線になっているんですよね。
これ、凄く細かいんですけど上手いわわぁぁぁぁ!!!そして手が凝ってるわああああああ!!!
まだ始まって10分も経ってないんですよw それなのにこの絵の力! なぜ今まで見なかったんだろうなぁ、俺。僕のように映像第一主義で映画を見る人間にとっては、蜷川監督の細かい映像演出・映像文法の巧みさにやられっぱなしでございました。
バイト中に殺し屋に捕まるが、殺されるのを免れて、殺し屋専用の食堂(ダイナー)でウェイトレスをする羽目になるカナコ。
この店の店長兼、ここの王(自称)の藤原竜也と、カナコ演じる玉城ティナとの奇妙なフードサービスが始まるのであった。
また後で解説しますけど、窪田正孝、本郷奏多、おなじみ土屋アンナなどの殺し屋の役者が本当に素晴らしい! 蜷川監督の役者演出ってまだ分かってないんですけど、みんな喜怒哀楽の起伏が激しくて、すぐにキレる危ないアウトロー集団たちを見事に描いていたと思います。
ただ、単に無差別に人を殺す奴らじゃなくて、殺すための「トリガー」を付けているのが良いところ。だってそうしないと、ただの危ない奴らじゃん。
ただ、そのトリガーが明示されず、細かい演出だったり「伏線」によってトリガーを暗示していくやり方が、非常に映画的であったと思います。
次々と訪れる客に頑張って対処する玉城ティナ。オムニバス形式のような映画かと思ったら、それぞれの客の間で実は人間関係があって、ちゃんと話は繋がっている。一本の映画として一本の太い線がある作りにしてるのも魅力的でありました。
そんな一癖も二癖もある役者たちを、見事な美術背景で彩り、赤色を基調としながらも、随所に花が盛り込まれる優雅で妖艶な画面を作っていたのが印象的でありました。
優雅といえば、劇中で女性が死ぬときには必ず花が散るように演出されてましたよね。特に真矢みき演じる殺し屋集団(女性ばかり)が殺されるシーンで、赤いバラとか桜が散る散るwww これは、花が散る=命が散る、ことのメタファーなんでしょうかね。
この映画、あんだけ殺されるシーンがあるのに血があまり出ない。その代わり花が散るって、どんだけオシャレなんですか蜷川監督ぅぅ!!!
何ここ!?どこだよ、ここwww と思わずツッコんでしまうw ダイナーって常連には個室用意するんだw 窪田正孝専用の部屋とか、本郷奏多専用の部屋とか、どんだけ部屋が用意されてるんだよww いつか俺も部屋作ってもらいたいなぁとか思ったりw
あと、ダイナーの外の街も描き方が秀逸で。
こういうアウトローたちの巣窟を描くんだったら、新宿歌舞伎町でロケ(あるいは、歌舞伎町を模したセットを組んで)するのが一番早いんですけど、作品の世界観にマッチするよう、あえて抽象的な街の描き方により、現実世界と断絶することに成功していたと思います。
全てが計算され尽くした美術背景とカラーコントロールにより、砂糖の一粒だけでなく画面の1ピクセルまでもが監督に従う、目が幸せになる美しい映画でございました。これは映画館じゃないと見ちゃいけない。スマホで見ちゃいけないんですよ。
あああ、もういろいろ言いたくて仕方がない!この映画!!
スゲェよ、邦画でも出来るじゃん、面白いの出来るじゃん!! 創意工夫があれば、日本のスタッフ・役者でも殺し屋映画が面白くなるんだと、本当に嬉しく思いました。
藤原竜也を始め、舞台出身の役者が光る
これまで舞台出身の役者が舞台と同じように映画で演技すると、必ず失敗すると思ってたんですよ。
進撃の巨人とかね。
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藤原さんが予告で見せたような、あの仰々しい演技も、映画にとっては不要だと思ってました。
ただ、今回は殺し屋という基本的に精神不安定な人間を描くときには、舞台役者くらい大胆な方がキャラに馴染むんですよね。
藤原さんもすごいけど、今回は本郷奏多ですよ。これまで本郷さんには散々ガッカリしてたんですけど、今回の小人の殺し屋は見事にハマってました。
ハマってるといえば、冒頭に出てきたショボい殺し屋、斎藤工の狂った演技も良かったですね。ドゥーユーアンダスタんっ!?
和色の美しさが堪能できる
私は色で映画を見るのがすごく好きで、個人的にはカラー映画と読んでます。この映画もねぇ、非常に独特の色使いがされていて、映画を見てる時釘付けになってました。
もう目が幸せ!!!モードになってしまうと、ブログで取り上げたくて仕方ないんです。
最近だとプロメアとか書いてます。
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さて、今作は赤色がベースとして使われていると言いましたが、厳密には紅色系統の色がたくさん使われていました。
花の色はもちろん、美味しそうな料理も紅色で構成されていましたよね。ハンバーガーの色とかも紅系だったんで、これ作るの大変だったらろうなぁと笑
紅色は、赤系統の中でも明るさが少なく、少し暗みをもたせた色になってます。少しマニアックな話ですが、HSV色相でいうところのBrightnessの数値が低い。RGB的に言うと、原色の赤に緑を+30、青を+60足したような色になっています。
監督の前作「さくらん」でも紅色系統が使われてますよね。
監督が好んで使う色だと思います。
この紅色は、日本の伝統色と呼ばれる色で、別名和色とも言われています。
すごく日本人に馴染みの深い色なんです。
今作ダイナーでこの和色が使われていて、本当に嬉しかった。
なぜなら私、和色をデザインに使うのが大好きだから(^ ^) 特に紅色を使うのが大好きで!!!!
派手な色を使いたくても、原色の赤は映画では使えない。目が痛くなってしまいますからね。。映画の大部分を赤色で占めるには、紅色のような暗みがかった色を使うのがグッドだと思います。
ハンバーガーとか、壁の色とか、全部紅色で出来ているシーンを見るとなぜかウットリきてしまうのです・・・ うん、なんかもはや映画の解説ではなくなってきたかもしれませんんw ただただ、統一された配色を見ていると目がキラキラしちゃうんです、私。
日本の監督でもポップな色使いが特徴的な人はたくさんいるんですけど、例えば中島哲也監督だったら和色よりは洋色を使って、明るい色を使うんですよね。草間彌生が好んで使うような色を、映画で使ってる感じで。
ちなみに、原色の赤のような明るいドギツい色が映画に登場するのは、仁義なき戦いなどの東映映画で使われている血の色ですね。
殺し屋と料理という奇妙な組み合わせの意味は?
殺し屋と料理。一見すると奇妙な組み合わせに見えますけど、実はこの二つは非常に相性が良くって。
殺し屋というのは、もちろん人を殺すので「死」のイメージがまとわりつきます。
一方、料理というのも「死」のイメージが多いです。だって肉を食べるためには、動物を殺さないといけないし、米を食べようとしたら、稲を刈り取らないといけない。
実は料理って残酷な行為なんですよ。命を殺さなければ、料理は成立しない。
藤原竜也が最強の殺し屋だった、という設定になってますが、料理を作っている時点である意味最強の殺し屋は健在だ、という意味にもなっているんですよね。
砂糖の一粒までが俺に従う!と料理を完全に操るということは、つまり死を操ることにもなるんですね。
そしてハンバーガーに大きなナイフを突き刺して提供していましたが、あれも凄く印象的でしたね。
調理のシメにナイフをぶっさすことで、息の根を止める、殺す的な意味合いをつけたかったんでしょうかね。そうじゃないと、あそこまで大きなナイフを意図的に使わないですよねw とにかく、料理と親和性をもたせるために、あんなナイフを使ったんじゃないかと思います。
まとめると! 一見奇妙に見える殺し屋と料理には「死」という意味で繋がってるんですよね。
料理=生死の転換期=人生の転換期=今作のテーマ
そして料理とは「死」と同時に「生」のイメージもある。人間の体に取り入れることで、人間が「生きる」糧になる。
料理こそ、「死から生」の転換期となるものなんです。
今作の大きなテーマは、「人生の転換期」
玉城ティナが人生に迷い、悩み、自分は何者かを見つけるのが今作のストーリーラインである。自分が何者でもない時は、死んでいる状態。何者かになる時は、生きている状態。
今作はそんな人生の転換期を料理というメタファーで伝えようとしてるんですよね。
だからこそ、真矢みきと戦う時に料理をわざわざ作ってるんですよね。
割と露骨にリファレンスを出す大胆さ
あと、これ一番驚いたんですけど、藤原竜也の店に蜷川幸雄のポスターがありましたよねwww このおじいさん、誰かなぁって思ってたんですけど。よくよく見たら、あの人じゃんってw
蜷川幸雄は著名な演出家でありますし、何より蜷川実花のお父さんですよね。そして藤原竜也を見つけて育てた張本人でもある。
藤原竜也がモロに言ってますよね。「この人は俺を見つけ、育ててくれた人なんです」と。
これ、藤原竜也的にもそうだし、何より蜷川監督的にもそうなんですよね。
ダブルミーニングで機能するんですよね。
自分の人生の転換期となった蜷川幸雄の存在を、主演俳優と監督に対して行うこの大胆さ・・・
あとリファレンスが露骨だったのは、ボートに乗って白鯨を読むシーン。
白鯨はモラトリアムの象徴ですよね。モラトリアムといえば、玉城ティナが自分が何者かを探すためにモラトリアムしてるのと重なるんです。
普通ですね、テーマと関係のある本って本棚にそっとしまってあったり、あまり露骨に出すことが少ないんですよ。でも、今作では、あまりに露骨に出してたので、思わず笑っちゃいました笑