- まえがき
- あらすじ
- 「イン・ザ・ハイツ」のネタバレありの感想と解説(全体)
- 1つのHeightsから始まる俺たちのRights!
- ミュージカル映画でラップを歌う意味とは?
- ラストの解釈について
- まとめ
まえがき
今回批評する映画はこちら
「イン・ザ・ハイツ」
映画の予告が異常に煽ってくるタイプで、これは是が非でも観に行かないと、と見事に心が動かされた。「グレーテストショーマン」といい、ミュージカル映画の予告ってなぜこうも煽ってくるんだ? なぜ自信満々なんだ?
「ハミルトン」を作った人によるミュージカルで、トニー賞も受賞済み。それだけで期待値が上がってしまうのに、一体全体どんなテンションで見ればいいのだろうか。
声が出しにくい今の時代、映画館でマスク越しの歓声を上げたいと思う。
それでは「イン・ザ・ハイツ」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・ミュージカル「ハミルトン」でも注目を集めるリン=マニュエル・ミランダによるブロードウェイミュージカルで、トニー賞4冠とグラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞を受賞した「イン・ザ・ハイツ」を映画化。変わりゆくニューヨークの片隅に取り残された街ワシントンハイツ。祖国を遠く離れた人々が多く暮らすこの街は、いつも歌とダンスであふれている。そこで育ったウスナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニーの4人の若者たちは、それぞれ厳しい現実に直面しながらも夢を追っていた。真夏に起きた大停電の夜、彼ら4人の運命は大きく動き出す。「クレイジー・リッチ」のジョン・M・チュウ監督がメガホンをとり、「アリー スター誕生」のアンソニー・ラモス、「ストレイト・アウタ・コンプトン」のコーリー・ホーキンズ、シンガーソングライターのレスリー・グレイスらが出演。
「イン・ザ・ハイツ」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#インザハイツ」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年7月30日
中南米からの移民が集まる一つの集合住宅(ハイツ)で起きる小さな夢の物語。
ラテン系の陽気なBGMにキレキレのラップが流れる、従来のミュージカル映画とは一線を画す斬新な楽曲に心を動かされる良作。
ただ、主人公の名前が面白すぎて真面目なシーンでも爆笑を禁じ得なかった。 pic.twitter.com/Up3vi02HCv
1つのHeightsから始まる俺たちのRights!
ニューヨークの街の一角。プエルトリコやドミニカなど中南米からの移民が集まり暮らす「ワシントンハイツ」。
そこで暮らすウサナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニーの男女4人の恋物語と家族模様をパッション溢れる歌唱とダンスで見事に表現した、夏の始まりを告げるような良作ミュージカル。
ミュージカル映画はトーキー映画が始まった時代から親しまれるジャンルであり、一種の古典と言ってもいい。その主役は白人が多くを担ってきたが、近年になって黒人も活躍を見せ、そして今作では中南米のキャストが主役。
中南米の映画はあまり見ていないこともあって、キャスティングが非常に斬新。
彼らの陽気な音楽やノリがそのままミュージカルに反映されているため、劇中は肩と足を揺らして
「インザハイツっ!インザハイツっ!」
と心の中で歌っている自分がいた。心の中にまでマスクは付けられなかった。
主演の役者だけでなく、周りの住民でさえも歌って踊ってを繰り広げる全員参加型のミュージカルであり、ミュージカルの曲は「聴く」ものから「参加する」に変わった瞬間だった。
ちなみに、美容室で踊るシーンがあるのだが、何故か店内のカツラも縦横無尽に踊りを繰り出す。まったく。そんな粋な演出されたら、こちらも踊るしかないじゃないか。。
これがただの陽気なミュージカルだったら「楽しかった!」の一言で記事は終わり、本ブログも終焉を迎えてしまうところなのだが、さすがはトニー賞とグラミー賞受賞の作品。ただの陽気な作品ではなかった。
歌われる楽曲やダンスは「陽」以外の何物でもないのだが、移民である主人公たちが受ける差別や格差の問題は過酷で現実的。陽気な音楽の中にも社会問題が含まれ、日向と日陰の関係のように、「陽」のミュージカルの中にも「陰」が含まれている。
対照的な両者を一つの作品に合わせ、対位法的に描き切った点は見事としか言いようがない。「フロリダ・プロジェクト」を思い出す。
www.machinaka-movie-review.com
ポリコレが高まる現代映画。正しいのは認めるが少し生き苦しいのが正直なところ。
しかし、ミュージカル映画の中にさりげなく社会的なメッセージが込められていれば、そんな息苦しさは吹っ飛ぶ。
ただ、あまり主張しないため特に日本人では気付かない人もいるかもしれないが。。
さりげなくではあるが、1つのハイツ(Heights)から 俺たちの権利(Rights)を訴えかけるような、そんな社会派な作品でもあることを言っておきたかった。
さすが「ハミルトン」の原作者が参加しているだけある。
ミュージカル映画でラップを歌う意味とは?
「これはミュージカル映画です」と言わんばかりに、セリフよりも先にミュージカルシーンから入る。
個人的に、ミュージカル映画で最初に流れる曲は映画を象徴する大切な導入部だと思うのだだが、今作の「In The Height」はまさにその大役を果たしたと言える。
まだ観てない方は、是非ともYouTubeか何かで検索して欲しい。
なんとこの曲は、ミュージカル映画にも関わらずふんだんにラップが取り込まれているのだ。日本は例外として、海外の音楽シーンはヒップホップ、R&Bが主流な現代なのは分かっている。
しかし、ミュージカル映画でラップが流れるなんて聞いたことない。本当に、度肝抜かれた。
多様性が叫ばれる現代に、もはや古典的とも揶揄されるミュージカル映画を対象に、目新しい楽曲を使うことによって「多様性」を表現したとも言える。
日本語字幕では元の歌詞が表示されないためリスニングが必須なのだが、素晴らしい韻を少しでも紹介したい。
例えば、主人公ウサナビが自己紹介をするパートでは、「エイ」の韻でラップが繰り広げられる。この巧みかつ高密度な韻を是非とも堪能して頂きたい。
I am Usnavi and you prob'ly never heard my name
Reports of my fame are greatly exaggerated
Exacerbated by the fact that my syntax is highly complicated
'Cause I immigrated from the single greatest
Lin-Manuel Miranda – In the Heights Lyrics | Genius Lyrics
他の歌と比べて、通常の会話により近い歌唱のラップを多用することにより、ミュージカルシーンに入るとテンポが悪くなることもなく、突然歌いだすことへの違和感も解消されている。
ただ現代の流行を取り入れた訳じゃなく、こうしたミュージカル映画の欠点(と思う人もいるはずだ)を補うためにも、ラップを多用したのは大正解なのだ。
最後に、ラップの使用にはもう一つ大事な意味が込められている。
それは、主人公ウサナビたちが移民1世でなく、アメリカ育ちの移民2世(以降)の世代であることをラップで象徴している点。
BGMこそ彼らの生まれ故郷の中南米の曲なのだが、このBGMが移民1世を象徴しているものだとしたら、アメリカ発祥のラップ(ヒップホップ)は、移民2世の象徴に位置づけられる。
故郷のBGM(1世)の上にラップを乗せる行為は、アメリカ育ちの移民2世の立ち位置と同じに見えるからだ。
そして、今作の原案者であるリン=マニュエル・ミランダ自身が、主人公ウサナビと同じく中南米からの移民二世であり、彼自身を語ったミュージカル映画でもあるのだ。
この作品を皮切りに、ミュージカル映画でラップが多用されるかもしれない。いや、この流れは止まらない。
余談だが、今作よりも遥かに早くラップミュージカルを実践した邦画があることをご存じだろうか? 園子温監督の「TOKYO TRIBE」では、染谷将太を筆頭に日本語ラップが流れる異色のミュージカル映画である。
「#インザハイツ」を観てて、ミュージカル映画でラップかよ超斬新じゃんって驚いてたんだけど、実は7年前に園子温がラップミュージカル映画をやっていたのを思い出したので共有しときます。
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年7月30日
染谷将太がラップ披露!園子温監督『TOKYO TRIBE』予告編 https://t.co/oRX4H9iocl @YouTubeより
ラストの解釈について
映画の冒頭から、ウサナビは故郷のドミニカに帰る事を夢見ているのだが、ラストになってアメリカに居続けることを望む。
彼女のウサナビが気がかりだったのは言うまでもなく、私も彼女に会いにアメリカに行きたいと思ったのが正直なところ。しかし、彼がドミニカに「帰国」しなかったのは、別の理由がある。
話しは変わるが、一つ質問をしたい。
そもそも、移民二世にとって「故郷」とはどこなのだろうか?
ウサナビにとっては故郷はドミニカなのか、それともアメリカなのか?
また、大学を辞めたくてニューヨークに戻りたいニーナ、対照的にニューヨークから出たいヴァネッサなど、今作は「新たな住処を求める話」でもある。
特にウサナビの決断は、移民二世としてのアイデンティティの確立を左右する。
移民二世にとっては、生まれた国こそが故郷なのだ。
人種差別を受け「〇〇人」と揶揄されようが、当の本人はアメリカ人以外の何物でもない。
そういったメッセージが、ラストのウサナビの選択に込められているのではないか。
監督のジョン・M・チュウは、前作「クレイジーリッチ」でも移民一世と二世の故郷について触れている。
アメリカ人である移民二世の主人公が、移民一世の故郷であるシンガポールに旅行する話であり、今作と同様に両方の故郷を比較しているのだ。
今作は陽気な音楽やダンスばかりが目立つが、実はこうした社会問題が内包されている点が実に素晴らしい。ジョン・M・チュウとリン・マニュエル・ミランダのコンビは、これからも輝き続けるだろう。
まとめ
自画自賛で申し訳ないのだが、「日向と日陰の関係」は言い得て妙だった。記念に引用しておこう。
日向と日陰の関係のように、「陽」のミュージカルの中にも「陰」が含まれている。
Machinakaの日記
ノリノリなミュージカルだけでは終わらせない、社会問題と作り手の想いが込められた素晴らしい作品だった。
が、物語の量の割には上映時間がかなり長く、冗長なシーンも目立ったように見える。
これが映画と部隊の違いなのだろうか。絶妙なコンバートとまでは行かなかった。
また、主人公ウサナビの命名理由がツボにハマってしまい、彼がどれだけ真面目な演技をしても笑いを禁じえなかった。
91点 / 100点