まえがき
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「キリエのうた」
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それでは「キリエのうた」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」の監督・岩井俊二&音楽・小林武史による音楽映画。
石巻、大阪、帯広、東京を舞台に、歌うことでしか“声”を出せない住所不定の路上ミュージシャン・キリエ、行方のわからなくなった婚約者を捜す青年・夏彦、傷ついた人々に寄り添う小学校教師・フミ、過去と名前を捨ててキリエのマネージャーとなる謎めいた女性・イッコら、降りかかる苦難に翻弄されながら出逢いと別れを繰り返す男女4人の13年間にわたる愛の物語を、切なくもドラマティックに描き出す。
2023年6月に解散した人気グループ「BiSH」のメンバーとして活躍してきたアイナ・ジ・エンドがキリエ役で映画初主演を果たし、主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」を歌唱するほか劇中曲として6曲を制作。「SixTONES」の松村北斗が夏彦、「リップヴァンウィンクルの花嫁」の黒木華がフミ、「ラストレター」の広瀬すずがイッコを演じる。
「キリエのうた」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#キリエのうた 」鑑賞!
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2023年10月13日
歌しか、うたえません。そうですか。辛いすね。
でもバレエもやってましたね。でも結局歌ですか。これ音楽映画ですか、本当ですか?
アイナ・ジ・エンドさんの表現力は素晴らしかったしラストは泣く準備できてましたよ。
でもあの編集じゃ泣けないです。
僕には100年早かった pic.twitter.com/IjMZly4kLe
偉いおじさん達にしてやられてる感
ん〜〜〜〜〜
ん〜〜〜〜〜
なんだかなぁ。
予告に惹かれて、これは年間ベストだって勝手に願っていた自分も悪いんですけど、いわゆる「コレじゃなかった」感。
今作は、前前作「リップヴァンウィンクルの花嫁」と非常に近い物語構造を持っていて、要は現代版「不思議の国のアリス」なんですよね。
行く場を無くし、路上で歌う若い女性に舞い降りた謎の広瀬すず。
すずに半ば強引に導かれ、たどり着いた豪邸。
何もかもが違和感な状況で深まる二人の仲。
「リップヴァンウィンクルの花嫁」の黒木華とCoccoの関係と同じなんですよね!
またこれは完全な私見ですが、(心身的に)危うそうに見える女性アーティストを俳優として起用する点も似ているんです。
似ているからこそ、どうしても比較をしてしまう。
そして私の結論としては、「リップヴァンウィンクルの花嫁」の方が遥かに良かったな、と思う訳であります。
アイナ・ジ・エンドさん自体は素晴らしかったです。
演技や歌に限らずバレエも披露してくれて多種多様なアプローチで表現してくれました。また、体を張った演技も本当に凄かったです。
ですが、どうしても彼女が偉い大人達にやらせている感が出てしまって、彼女が主体的に取り組んでいる姿をこの目で確かめられなかったのです。
上手く話すことができない、とかそういう問題ではなくて、積極性が見られなかったというか。
その原因となっているのが「音楽に対する姿勢」だと思うんですけど、プロの歌手になろうとする姿勢が著しく低いように感じられます。
せっかく掴んだレコーディング、事務所に加入にするチャンスも、なんだか曖昧な答えでやる気を見出せない。
もちろん行方不明になった広瀬すずを思案しての回答なのかもしれませんが、あまり心配している様子も見られない。
要はハッキリしないんですよね。微妙なニュアンスを使って表現しようとしているのは分かるけども、あと少しのタイミングで別の時系列に移り変わったり、とにかく見ていて居心地が悪い。
アイナ・ジ・エンドの壮絶な過去を3時間たっぷりと観させてもらった上でも、あまり心が動かない。
「キリエ」という言葉はギリシャ語で「主よ」という意味で、神に憐れみを求める時に用いられます。
アイナ・ジ・エンドをキリエとすることで、それぞれのキャラクターが犯した過去の過ちを懺悔しているような位置付けにも見えますよね。
つまり、キリエ→キリスト・イエス→キリエ、といったように。
ベッドで松浦拓也さんに押さえつけられているシーンは、キリストの磔のメタファーのようにも捉えられます。自らが犠牲なることで広瀬すず(逸子)のことを自由にしてあげる、という姿勢からも自己犠牲の精神が感じられます。
キリエはイノセントな存在で、どこか常人離れしている。だからこそ路上ミュージシャンからスターの道を駆け上がって行けるところも納得なのですが、、、
音楽の道に進むのか
逸子を探しにいくのか
それとも夏彦(キリエの姉の婚約者)のところに行くのか
それとも3人と幸せになる道を探すのか
どの道に進むのか曖昧でよく分からない。主人公キリエが成長してどんな決断をするのか見出せなかったのが、一番納得がいかない点ですね。
誰とは言いませんが、偉い大人達に言われてやらされている感が拭えないんですよね。
もっと自分でチョイスをしろと。チョイス・イズ・ユアーズだろうと。
今作の不満を表現するのにとても相応しい「うた」がありまして。
私が敬愛するRHYMESTERの「The Choice Is Yours」に
誰かのせいにしたい?それも限度
誰を犠牲にした?日本全土
次は誰にリスクを押し付けんの
誰が落とし前つけんの
そいつは自分たちの選択 マジ面倒
だがそれもできないんじゃもうジ・エンド
RHYMESTER 『The Choice Is Yours』 - YouTube
っていう歌詞があるんですね。歌自体のテーマは日本国家に対する怒りとそれに無関心な国民に対して喝を入れているのですが、今作を評するにはピッタリな歌だとも言えるでしょう。
キリエよ!選択できないんじゃもうジ・エンドじゃ!!!!
表現の分散が編集に現れている
一番キツかったのは編集ですね。あれこれ表現したいのはよく分かるんですけど、流石に4時点の話を同時並行で進ませるのは無理があったのかなぁと思います。
編集がブツ切りで、もっと見ていたいシーンが途中で終わってしまう、逆にもういいよと思っているシーンが長続きしてしまう。
自分には本当に相性の悪い編集でした。
序盤は良かったんですよ。キリエと逸子が新宿で出会い、とあるセリフで2人は昔からの知り合いであったことが明らかになり、過去パートに切り替わり関係性を見せてくれる。そこまでは本当にドキドキしていました。
でも、過去パートが妙に長い。正直、逸子(真緒里)の受験シーンなんて10分でいいだろと思ってましたww
夏彦の過去にも触れたいから長くなってしまったかもしれませんが、あそこまで長くしなくても良いでしょうよ。
キリエ、逸子が高校生だった頃のシーンをギュッと縮めてくれたら良かったのになぁ。
物語的には中間地点なんですよ。まるでジョン・ウィック4のベルリン編をずっと見せられている感じなんですよw
大事なところはキリエが小学生の頃の2011年(3.11)と現在のパートなんじゃないかと思うんですよ。
2011年を60分、現在を60分、その間に高校生(2017年くらい?)のシーンを10分にすれば、ちょうど良いんじゃないですか!?どうですか!?
そして、何より辛かったのがラストのライブシーン。
キリエが声高らかに歌っているシーンが急に切り替わり、ライブに向かう逸子が刺されるシーンになってしまう。
いやぁ、、、ライブのシーンを切ったらダメでしょう。
これじゃ音楽映画じゃないでしょう。音楽をメインに撮ってくれよ。
せめてライブが終わってから逸子刺されてくれよw
と思って見ておりました。。。
まとめ
色々叩いてしまいましたが、序盤の新宿を映すシーンは1000億点でした。
もう20年近くも通っている新宿の街を、あそこまで綺麗に映すだなんて。
深夜・早朝の時間に撮っていることは分かるのですが、少しカメラの視点を変えたりコントラストを変えるだけであそこまで綺麗に見えるなんて・・・
話は変わりますが、私なりの新宿論があるんですよ。
新宿は「人の視点から見ると汚いけども、鳥の視点から見ると美しい」んですよ。
少し上から見ると新宿の街って本当に綺麗なんですけど、人の視点で見ると汚い部分が見えて歩くのも嫌になる。
でも、今作では人の視点でも鳥の視点でもない点から撮っているんですよね。
大人よりもずっと低い、子供の視点で撮ってるんですよ。
カメラマン腰やられてないですかねw
子供の視点から撮ると、新宿ってすごい綺麗に映るんですよねぇ。ワクワクするような輝きのある街に見える。
都庁前とかホント凄いですよ。近未来の街に見えるものw
新宿駅南口の撮影も見事でしたねぇ。俺はああいう新宿の風景が好きなんだw
それにしても、なぜ新宿で撮影したのか。ストリートミュージシャンの聖地的な場所ってのもあるでしょうけど、新宿と岩井俊二は深い関係があると思ってます。
岩井俊二は寺山修司に影響を受けていると公言しています。
寺山修司と新宿といえば「田園に死す」を思い出しますよね。
彼が子供の頃に見たであろう「田園に死す」のオマージュなのか分かりませんが、新宿で何かヤバいことをしてやろうと思っての新宿中央公園でのライブだったのでしょうか。
#キリエのうた
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2023年10月13日
世代的に影響を受けてないとは決して言えない寺山修司の「田園に死す」の新宿での路上パフォーマンス。意識したのか新宿で路上ライブを見せるが、あまりに予定調和な絵作りが続くのはいかがなものなのか。。 pic.twitter.com/JYmkWU57JS
89点 / 100点