まえがき
今回批評する映画はこちら
「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」
良い意味で、これほど見たくない作品も珍しい。
言い換えれば、この作品から逃げたくて仕方ない。
前作「クワイエット・プレイス」の感想でも正直な気持ちを吐露した記憶があるのだが、ホラー作品でなおかつビックリする系の作品は気持ちがしぼむ。
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極めて静かな環境で突然、爆音が流れて心臓がドキッとする。
ホラー映画では定石の「ジャンプスケア」と呼ばれる手法だが、今作のように設定自体が静かな環境である場合、ジャンプスケアの効果は倍増する。
考えただけで苦痛だ。私はホラー映画が大好きなのだが、同時にジャンプスケア的な演出は大嫌いだからだ。
ジャンプスケア演出はもちろんだが、そもそも沈黙が苦手な私にとっては地獄のような映画。
あぁ、逃げたい。いっそこのまま、映画の最初から最後までクワイエットで終わってくれれば良いのだが。
それでは「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
エミリー・ブラント主演で、音に反応して人類を襲う“何か”によって文明社会が荒廃した世界を舞台に、過酷なサバイバルを繰り広げる一家の姿を描き、全米でスマッシュヒットを記録したサスペンスホラー「クワイエット・プレイス」の続編。生まれたばかりの赤ん坊と耳の不自由な娘のリーガン、息子のマーカスを連れ、燃えてしまった家に代わる新たな避難場所を探して旅に出たエヴリン。一同は、新たな謎と脅威にあふれた外の世界で、いつ泣き出すかわからない赤ん坊を抱えてさまようが……。主人公エヴリンをブラントが演じ、リーガン役のミリセント・シモンズ、マーカス役のノア・ジュプも続投。新キャストとしてキリアン・マーフィ、ジャイモン・フンスーが加わった。監督・脚本も前作同様、ブラントの夫で前作で夫婦共演もしたジョン・クラシンスキーが再び手がけた。
「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#クワイエット・プレイス パート2」鑑賞!
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年6月19日
前作よりはジャンプスケアが少なめ。代わりにドラマ要素が増え、息子・娘の成長物語として優れた作品に。
モンスターによる新たな生活の424日目が描かれるが、コロナ禍の新たな生活も同じくらいの日数で、なんだかに沁みました。
ラストはビバ!父ちゃん! pic.twitter.com/AMeXVMMOSH
冒頭から並々ならぬ技巧が展開
アメリカ映画の王道を行くイニシエーション映画
前作で慣れてしまったのか、ジャンプスケア的な要素もあまり怖がらずに鑑賞することが出来た。
1では複雑怪奇で恐ろしかったモンスターだったが、完全に対策法を把握しているため、恐れるに足らない。
モンスターの行動は、我々の予想の範疇を超えることはない。
必至に戦うエミリーブラント達には申し訳ないのだが、正直な話、我々はモンスターを恐れていない。
モンスターの脅威は、既に程度が知れているのだ。
ジャンル映画だと致命的にも見えるが、今作はモンスターとの闘いに進化も発展性もない。
その代わり、今作はヒューマンドラマ的な要素が増長し、特に「イニシエーション」というテーマがより強調された作品になっている。
特に今回は、息子のマーカスや娘のリーガンの成長物語として、非常に見ごたえある内容だった。
モンスターに精通し、家族にも優しい無敵ヒューマンの父親リーが亡くなり、拠点にしていた自宅も離れた。
「ノマドランド」のように放浪する家族たち。エミリーブラントは赤ちゃんの世話があるため、なかなか身動きが取れない。
冒頭に出ていたエメットと再会するも、家族を失ったショックから抜け出せず、億劫になっている。
つまり、前作とは異なり今作は大人が主軸ではないように設計されており、その分リーガンとマーカスに焦点が当たるようになっている。
マーカスとリーガンで、何とかして生き延びなければいけないが、この2人の意見は割れる。
学校もなく家族に依存した影響しているのか、両親の考え方に依存する子供たち。
父親の意見を尊重するリーガン、母親の意見を尊重するマーカス。
当然ながら意見が分かれ、自然に単独行動が生まれる。
単独行動をするとピンチが襲ってくるのはホラー映画の定石だが、今作は単独行動するきっかけを丁寧に描いているのが素晴らしい。
単独行動して襲われるのは「自己責任」だと言われがちなのだが、今作にはちゃんと理由がある。
リーガンのイニシエーション
娘リーガンはリーの意志を引き継ぎ、ラジオから流れる「Beyond the sea」に導かれて電車、船着き場へ向かいモンスターと対峙する。
頼れる大人もいない中、単独で行動するリーガン。大人になるためのイニシエーションを描いているように見える。
途中でエメットに助けられながら、まるで父と娘のようなコンビで活動していく。
それぞれ父と娘を失った者同士、新たな関係を築いていくシーンは、問答無用で泣ける。
冷静に考えてみれば、かなり意図的な組み合わせなのだが、映画を見ている時は流れが自然過ぎて違和感を覚えない。それくらい、脚本が練りに練られている。
そして、イニシエーションの終わりとして、リーガンにしか出来ないモンスターの倒し方を見せてくれるのがたまらなかった。
苦手な周波数の音を流すという、唯一の弱点を突くやり方は今までと同じなのだが、まさか父親の形見を使うとは、、
リーはもう存在しないが、あの補聴器にリーの魂が込められているのだ。
もう本当に、本当に、、
アガルぅぅぅぅぅぅぅぅうう!!!!!!!!!!
マーカスのイニシエーション
一方のマーカスは、冒頭から足をケガする。
実は前作でも、エミリーブラントが同じく足を怪我しており、さりげなくマーカスとエミリーを足の怪我で紐づけているのが素晴らしい。
母親が不在の時にモンスターに襲われるのだが、彼は単独行動ではなく、「連れ」がいる。
クワイエットプレイスの設定上、最もモンスターに狙われやすい赤ちゃんを抱えながら、モンスターと対峙するのだ。
泣くことが仕事の赤ちゃんは、この世界と絶望的に相性が悪い。せっかくの厳粛な行動も、赤ちゃんのひと泣きで全てが台無しになってしまう。
しかし、今作は赤ちゃん対策が抜群で、泣き声を防ぐために密閉されたケースに酸素ボンベを付けて赤ちゃんを格納する。
こうした設定の細かさが、映画への没入感を増す作りになっている。
娘ではなく、息子が赤ちゃんの世話をし、無事に守り切る。
最後にはリーガンと同じく、モンスターをしとめる。
ギラギラした目をしながら銃を握りしめるマーカスの表情がたまらない。彼も彼なりのやり方で、大人になったのだ。
まとめ
ジョン・クランシスキーとエミリー・ブラント。
夫が監督、妻が主演のホラー映画。
まるで「バイオハザード」のポール・ダメな方・アンダーソン監督とミラジョボの座組のような関係だが、クオリティは全く異なる一作だった。
今作ばかりは、決してファミリー映画なんて言いたくない。
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ただ、監督が家族を想う気持ちは存分に伝わってくる。
性別は違うが、エミリーとジョンの間には二人の子供がおり、本作と同じ人数構成。
おまけに自身が監督と家族の父親を担当しているのだから、プライベートな想いも含まれているはず。
もし自分が死んだら家族はどうなってしまうのか? 強く生き抜いてほしいという気持ちがたっぷりに詰まっていた。
良い意味で、ウォーキングデッドのようなドラマを見ている印象。
続きをもっと見たい。面白かった!!
90点 / 100点