- まえがき
- あらすじ
- 「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」のネタバレありの感想と解説(全体)
- 度重なる映画化も納得!自分らしく生きる女性を描く普遍的な物語
- マッチカットにより異なる時代をスムースにつなぐ
- 若草時代と実世界の描き分けに驚愕
- 色めがね映画評論「オレンジ色が紡ぐ若草時代と実世界」
- まとめ
まえがき
今回批評する映画はこちら
「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」
もともと3月27日に劇場公開予定でしたが、コロナによる劇場自粛のために公開が延期。劇場で何度も予告が流れCMも多く打たれており、期待大の作品でした。
先週も新作が公開されていましたが、アカデミー賞を取った本作が日本で公開されることで、ようやく劇場が本格稼働した感があります。
止まっていた時がようやく動き出したような。本当におめでたいことです。
グレタ・カーウィグ監督とシアーシャ・ローナン主演のタッグとなると「レディ・バード」が記憶に新しいですね。少女と母のコミュニケーションと言うベーシックなテーマにも関わらず、これまで見たことのないリアルな母娘のドラマが見れました。
本作の予告で記憶に残ってるのは「結婚が女性の全てじゃないのよ! ・・・でも、このままじゃ不安なのよ!!」と二律背反的なメッセージをシアーシャ・ローナンがローラ・ダンに言い放つシーン。
現代の映画だと女性=自立という姿勢が基本になってますけど、結婚することで幸せになりたいという気持ちも正直に吐露するのがねぇ、リアルですよねぇ。
舞台は19世紀ですが、現代にも刺さるメッセージがあるのでしょうか。
はい、それでは「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・「レディ・バード」のグレタ・ガーウィグ監督とシアーシャ・ローナンが再タッグを組み、ルイザ・メイ・オルコットの名作小説「若草物語」を新たな視点で映画化。南北戦争時代に力強く生きるマーチ家の4姉妹が織りなす物語を、作家志望の次女ジョーを主人公にみずみずしいタッチで描く。しっかり者の長女メグ、活発で信念を曲げない次女ジョー、内気で繊細な三女ベス、人懐っこく頑固な末っ子エイミー。女性が表現者として成功することが難しい時代に、ジョーは作家になる夢を一途に追い続けていた。性別によって決められてしまう人生を乗り越えようと、思いを寄せる幼なじみローリーからのプロポーズにも応じず、自分が信じる道を突き進むジョーだったが……。幼なじみローリーを「君の名前で僕を呼んで」のティモシー・シャラメ、長女メグを「美女と野獣」のエマ・ワトソン、末っ子エイミーを「ミッドサマー」のフローレンス・ピュー、ジョーの人生に大きな影響を与えるマーチ叔母をメリル・ストリープがそれぞれ演じる。第92回アカデミー賞では作品賞はじめ計6部門でノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』6月12日(金)全国順次ロードショー
「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」のネタバレありの感想と解説(全体)
#ストーリーオブマイライフ 鑑賞!
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2020年6月12日
ワンシーンとも見逃せぬ背景・美術・衣装・撮影。これぞ映画館で見る画!
過去はWBを太陽光に寄せ温かみのある「若草」な画に、現在はWBを白色光に寄せ「リアル」な画に統一。余計な説明なく、過去と現在のシーンを切り替える鬼の画作りに驚嘆。目が幸せでした。 pic.twitter.com/ORtnNPppSJ
度重なる映画化も納得!自分らしく生きる女性を描く普遍的な物語
グレタ・カーウィグとシアーシャ・ローナンの、「レディ・バード」コンビで送る本作。
本作もまさに「少女が羽ばたく」大切な「若草」な時代を見事に切り取り、何事にも縛られず自分らしく生きたい女性の苦悩と葛藤を描いた、何度も映画化されるのも納得の普遍的なメッセージが込められた作品であったと思います。
ただ今作の特徴は4人姉妹のそれぞれの人生を、①過去の若草時代=小説で描かれる時代と②実世界の二つに分けて描き、かつ一本の映画にまとめるという離れ業をやってのけているのです。
正直言っていいですか?
疲れました!!
若草物語を読んでない私も悪いんですが、4人のメインキャストを若草時代、実世界で描いているので物語を追いかけるのが本当に大変で大変で。
単純計算で4人×2時代=8エピソードですよ?
一本のドラマが出来るよ!!
シアーシャ・ローナン演じるジョーが一応の主人公なんですが、メグやベス、エイミーといった妹たちの過去と現在の物語を一本の映画にするなんて、本当に凄いことやってのけています。
4姉妹といえば是枝監督の「海街diary」がありますが、これは一つの家で1時代(実世界)を描いてますからね。まだ飲み込みやすかった。
初回は物語を追いかけるのに大変になってしまうので、事前にキャラクター説明やあらすじを読んでおくのも良いと思います。基本的に事前のネタバレを知りたくない私ですが、今作だけは事前に調べておいてもよかったかも。
はい、後悔先に立たずですが。。
そんな4人姉妹のたっぷりのエピソードが詰め込まれた本作ですが、結婚よりも仕事を優先させたいジョー、結婚を望むベスなど、多様な生き方に挑む女性たちの姿を描き4人4色な女性像を提示する物語は、今後も語り継がれるべき作品だなぁと率直に感じました。
ジョーは仕事を優先させたいと書きましたが、決してジョーも結婚をないがしろにしていない所が実にリアル。
何度もこのセリフを使いますが、「結婚が女性の全てじゃないのよ! ・・・でも、このままじゃ不安なの!」とローラ・ダンに言う所が良いですよね。
これまでも、そしてこれからも女性が抱える永遠の悩みだと思います。と男の私は勝手に思っております。
若草物語というタイトルですが、決して理想的な女性の生活だけを描いているわけでもなく、ジョーが小説を書いている現実の世界では4姉妹に悲劇が訪れるシーンもあるのです。
マッチカットにより異なる時代をスムースにつなぐ
明るく楽しい過去の若草時代と、シビアな現実の時代を交互に見せながら描いていく手法が今作の特徴ですが、例えが悪いかもしれませんが「ブルーバレンタイン」と同じでしたよね? あそこまで悲しくはないけれども。
しかも、過去と現実の交互に描く頻度が非常に高く、編集もマッチカット(同じ場所・構図で違う時系列のカットを入れたりする手法)を多用し、今のシーンは過去なのか現実なのか分からない・・という方もいらっしゃったのではないでしょうか?
例えば出版社帰りのジョーが電車で寝ているシーンや、ベスの看病をしているシーン、メリルストリープと会話するシーンなど、数え上げればキリがない。。
余計なセリフもテロップもなく時系列だけが切り替わるマッチカットによって、余計な情報の省力化と4人姉妹の物語に集中して鑑賞できるような工夫がされていたと思います。そうじゃないと、4人姉妹の話を一本の映画に凝縮させるのって本当に大変だもの!!
若草時代と実世界の描き分けに驚愕
先ほど、若草時代と実世界が交互に描かれて今どの時代か分かりづらいと言いましたが、見ているうちになんとなく描き分けが分かった方もいらっしゃるのではないでしょうか?
めちゃくちゃ簡単に言えば、過去を描いた若草時代(小説の中)はオレンジ掛かっていて、実世界では青白い画作りをしていましたね。
ただ、もう少し詳しく見ていくと、若草時代と実世界の描かれ方で撮影手法が全く異なっていることに気づいたのです。
過去の時代と実世界を描き分けるために、モノクロとカラーに使い分けるといった手法は「オズの魔法使」を代表として多くありますが、撮影手法ごと変えるのは本当に珍しいし本当に頑張ってるしハリウッドの底力を感じますよね!
こういった撮影の努力、画作りの素晴らしさがあるから映画館で映画を見たくなるんですよ、私は。。
ただオレンジだ青白いだで考察を終わりたくなかった私は、ぶしつけだとは思いましたが比較表を作成してみました!!
こちらです!!
若草時代と実世界の撮影法の違い
実世界(小説執筆) | 若草時代(小説内) | |
---|---|---|
ホワイトバランス | 白色 | 太陽光 |
色の質感 | 白中心の寒色 |
黄色中心の暖色 |
太陽とカメラ | 逆光 |
順光 |
撮影時間 | 昼間 |
夕焼け |
服の色 | 白・黒・グレー・水色 |
若草色・オレンジ・赤・黄 |
色の心象 | シビアで冷たい |
暖かで幻想的 |
若草の時代は住んでいる場所も影響ありますが若草や赤い樹木などが混じり合った、総じてオレンジ色となる映像が多くあったような印象があります。ジョーの服も草木とマッチしていて、髪も金色で背景に見事にマッチしている。
「ストーリーオブマイライフ」2020年6月12日公開 ©ソニーピクチャーズエンターテインメント
こちらは映画から色を抽出した図になります。暗く見える場面でも、使っている色自体は鮮やかな色が多いですよね。
「ストーリーオブマイライフ」2020年6月12日公開 ©ソニーピクチャーズエンターテインメント
また、鮮やかなドレスが多く出てくるのも若草時代の特徴で。黄緑色の若草に囲まれたドレス姿は、彼女らの若さと青春を伝えるのに抜群の説得力だったと思います。まさに「若草」を表すのに最適なカラーリング。
多種多様で色鮮やかなドレスは、本作のテーマである「自分らしく生きる」ことのメタファーでもあると思うんです。
若草時代にこそドレスが似合うんです。エネルギッシュで、色んな可能性があって、まさに「若さこそ武器!」という言葉が似合うような。それぞれの女性が夢を持ち、色鮮やかに着飾る姿こそ若草時代のイメージにぴったりなのです。
「ストーリーオブマイライフ」2020年6月12日公開 ©ソニーピクチャーズエンターテインメント
一方の実世界では、ジョーの服も赤からグレー・黒に変わり、非常に地味で淡白な色になります。 この画像が分かりやすいんですけど、夢破れて灰色の世界で生きているような心象を感じます。
若草時代の色鮮やかさを映えさせる効果もあると思いますが、ベスの死や小説の低評価、プロポーズを断るなどといったネガティブな出来事がある実世界にぴったりなカラーリングではないかと思います。
「ストーリーオブマイライフ」2020年6月12日公開 ©ソニーピクチャーズエンターテインメント
ちなみに、ララランドでも夢(ララランド)と実世界のカラーリングは全く異なっていて、実世界のエマストーンは本当に地味な服装をしてるんですよね。
www.machinaka-movie-review.com
こういった若草時代と実世界の撮影法の違いを徹底することにより、マッチカットで時系列をポンポン変えても、自ずと観客は違いに気づくという、離れ業をやってのけてるんですよね。
これはロジャー・ディーキンスもビビるレベルではないでしょうか、はい。今作はアカデミー賞のヘアー&メイクアップ賞を受賞しましたが、個人的には撮影賞もあげたい。。一つ一つの撮影は平凡であっても、この二つの撮影手法の合わせ技をやってる映画ってまずないですよ。私的にはアカデミー撮影賞ですよ!!!
色めがね映画評論「オレンジ色が紡ぐ若草時代と実世界」
先に説明した通り、若草時代はオレンジ色が非常に目立つカラーリングをしておりました。
再度確認ですが、若草時代は日が落ちる直前の夕焼けを選んで撮影をしており、いわゆる「マジックアワー」の時間に撮られております。
ただ今作のニクいのは必ずカーテンを閉めてオレンジ色にブルームをかけて、少しファンシーに演出してるところ。カーテンを閉めると閉鎖的になってしまうんですけど、夕焼けによって天然の女優ライトがつくんですよね。
まるで日の光が4姉妹を温かく包み込んでいるような。若草が見えない室内でも温かみを与えるのが素晴らしいんです。
「ストーリーオブマイライフ」2020年6月12日公開 ©ソニーピクチャーズエンターテインメント
「ストーリーオブマイライフ」2020年6月12日公開 ©ソニーピクチャーズエンターテインメント
「ストーリーオブマイライフ」2020年6月12日公開 ©ソニーピクチャーズエンターテインメント
オレンジ色は心理的にも「喜びや多幸感、親しみ、元気、明るさ」や、「親しみが生まれ仲間意識を高める」効果があるらしく、まさに4姉妹のイメージにぴったりな配色だったと思います。
総じて青春時代の甘酸っぱい一瞬を彩るのが、オレンジ色だと思うんですね。
オレンジという色は今作に限らず色んな作品で用いられていて。例えばTBSドラマの「オレンジデイズ」やSMAPの名曲「オレンジ」など、オレンジ色が持つ意味にぴったりな作品が作られていると思います。
このように、今作にとってオレンジというのは若草時代の元気溢れる4姉妹を代表するカラーであり、オレンジを絶やしてしまうことは若草時代の終わり=現実と向き合うことに繋がります。
実世界に入り、夕焼けが見えることも少なくなり、服も地味な色になってしまいます。しかし、現実世界でもオレンジ色は生きています。
それはロウソクのオレンジ色。
若草時代と実世界を紡ぐのは、ロウソクのオレンジなのです。
現実世界でロウソクが象徴的に使われる場面といえば、ジョーが本を執筆する際のシーンが目立ちます。そりゃ昔の時代ですからね、ロウソクの灯りがないと本は書けません。
「ストーリーオブマイライフ」2020年6月12日公開 ©ソニーピクチャーズエンターテインメント
「ストーリーオブマイライフ」2020年6月12日公開 ©ソニーピクチャーズエンターテインメント
ジョーが若草物語を書くことで 、かつての4姉妹の若草な青春と実世界を紡ごうとしているのは分かると思います。
しかし、若草時代と実世界でオレンジを絶やさないようにすることで、色彩的に2時代の連続性を保とうとしたのではないでしょうか?
オレンジの灯火は単に照明としての機能だけでなく、若草時代のテーマカラーであるオレンジを象徴したものだと考えます。
若草時代から小説を書こうと努力したジョー。
実世界で世間の荒波に飲まれ、小説家としての人生も結婚する人生もまさに「風前の灯」となっているその刹那にも、ロウソクのオレンジは生き続けていたのです。
このオレンジの持続性にこそ、今作が持つ前向きな女性たちのイメージに繋がるのだと思います。
はい、以上今作の色めがね映画評論でございました!
よろしければ、他の色の考察もご覧になってください。
www.machinaka-movie-review.com
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まとめ
いろいろ書いてきましたが、ティモシー・シャラメの存在を完全に忘れておりました。
4姉妹の美しさも目立ちましたが、正直一番美しかったのシャラメじゃね?そうじゃね?
見ていて一番可愛かったのは、シャラメじゃないかなぁ笑
普通ですよ、あんな美女に男子が1人入り込むハーレム状態なんてイラッとしますよ。俺と代われよ!!って思いますよ。
でもね、シャラメなら全く気にならないんです。
なんていうんだろう、あそこまで男性性がない男性も珍しいというか。4姉妹の中に入っていっても全く違和感のない、むしろ美女率が上がりそうなのがシャラメのシャラメたる実力だと思います。
彼の名演によって結婚がさほど生々しく描かれることを回避したというか、「ブルーバレンタイン」みたいにならなかったのもシャラメのおかげだったと勝手に思っております。
はい、最後の最後でシャラメに対する凡コメを入れたところで、ブログをシメたいと思います。
見事なカラーリングが刺さった、まさしく劇場で観るべき映画でございました!
オススメです!!
95点 / 100点
