- まえがき
- あらすじ
- 「パーフェクト・ケア」のネタバレありの感想と解説(全体)
- 悪女のベスト更新。頼むから地獄に堕ちてくれ。
- 単なる悪女ではない、一秒で人間味を見せる手腕に脱帽
- 彼女に正義の執行が下されるカタルシス
- まとめ
まえがき
今回批評する映画はこちら
「パーフェクト・ケア」
「ゴーン・ガール」で一躍世界中にその存在が知れ渡ったロザムンド・パイク。
怖すぎる妻を演じ、世界中の男たちのゴールデンボールを縮こまらせた。
その甲斐もあって、彼女はゴールデングローブ賞を獲得した。
つまり、金を二つ獲った。
劇場で観たロザムンド・パイク作品は、隻眼の戦場カメラマンで2012年に亡くなったメリー・コルビンを演じた「プライベート・ウォー」。この作品でも男と対等以上に渡り合っている。いや、もはや凌駕している。。
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今回は高齢者の金を貪る悪徳介護人を演じる。なんか、悪い役ばっかりやってないか・・・
後妻業とはまた違うかもしれないが、高齢者に優しくする裏側で金を奪うやり口は、まるで「後妻業の女」の大竹しのぶだ。
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今回は一体どんな恐怖を植え付けてくれるのか・・・
それでは「パーフェクト・ケア」ネタバレあり感想解説と評価、始めます。
あらすじ
・「ゴーン・ガール」のロザムンド・パイクが主演し、第78回ゴールデングローブ賞で主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞したクライムサスペンスコメディ。法定後見人のマーラの仕事はは、判断力の衰えた高齢者を守り、ケアすること。多くの顧客を抱え、裁判所からの信頼も厚いマーラだが、実は裏で医師や介護施設と結託して高齢者たちから資産を搾り取るという、悪徳後見人だった。パートナーのフランとともに順調にビジネスを進めるマーラだったが、新たに資産家の老女ジェニファーに狙いを定めたことから、歯車が狂い始める。身寄りのない孤独な老人だと思われたジェニファーの背後には、なぜかロシアンマフィアの存在があり、マーラは窮地に立たされるが……。監督は「アリス・クリードの失踪」のJ・ブレイクソン。共演に「ゲーム・オブ・スローンズ」のピーター・ディンクレイジ、「ベイビー・ドライバー」のエイザ・ゴンザレス。
「パーフェクト・ケア」のネタバレありの感想と解説(全体)
「#パーフェクトケア」鑑賞
— Blog_Machinaka🐻@映画ブロガー、ライター (@Blog_Machinaka) 2021年12月4日
年間ベスト10更新。いや、ベスト5更新。
悪徳後見人ビジネスに舞い上がる女の壮絶な人生を描く怪作コメディスリラー。
「舐めてた相手が実は○○でした」案件で「イコライザー」を彷彿とさせる。
鑑賞中「地獄に堕ちろ」と500回願った。
悪女にも程がある。頼むから失せろ。 pic.twitter.com/v9rBDVMyOK
悪女のベスト更新。頼むから地獄に堕ちてくれ。
ゴーンガールで悪女のイメージを獲得したロザムンドパイク。
しかし、今作で悪女のベストは完全に更新された。
いやぁ、これはひどい。ひどい女だ。
Twitterにもブログのタイトルにも「自国に落ちてくれ」と表現したが、もう本文では正直に言わせてくれ。
ロザムンドパイク演じるマーラよ。
頼むから、死んでくれ。
主人公のことを「死んでくれ」と思わせる映画も珍しい。
ちなみに私は、鑑賞中に「死んでくれ」と500回願っていた。
結末は映画を見てもらうとして、普段は平穏無事に暮らす私に、ここまでの憎悪を抱かせる作品も少ない。
まったくもって腹だたしい主人公だ。まだ腹の虫が治らない。
悪女を魅せることに注力した映画だから、こういう反応が大正解なのだろう。
ちなみに私は、アリを殺すこともはばかる超平和主義者だ。
主人公のマーラは高齢者の後見人となって資産を管理するビジネスを営むやり手の経営者
知り合いの医師から単身でかつ富裕層の高齢者を教えてもらい、後見人手続きに必要な情報を入手する。
後見人手続きは緊急の場合は後見を受ける本人は不在で良い。彼女はそんな法の盲点を突いて、本人の意思確認なく強制的に後見人となり、口封じのために被後見人を介護施設という監獄に送り込む。
彼女の仕事はパーフェクト。もちろん、介護施設ともグルで、被後見人を支配するために鎮痛剤の大量投与など逆に寿命を縮める行為を行なっている。
彼女にとって大事なのは、「金」。それ以外は考えてない。
単身の被後見人を介護施設に送ったらどうなるか。家には誰もいない。
通帳、宝石、権利書。ありとあらゆる資産を調べて盗む。しかし、法的にはまったく問題ない行為。それは、彼女が後見人だから。
アメリカンドリームを掴むためには何の犠牲も厭わない。
しかし、法は犯せない。
もちろん、暴力も振るいたくない。
あくまで合法的に、かつ乱暴に彼女は夢の階段を3歩飛ばしで駆け上がっていく。
サブプライムローンで失った家を強制的に買い取り利益を獲ていく「ドリームホーム」のような映画だった。
単なる悪女ではない、一秒で人間味を見せる手腕に脱帽
法的に完全に保護されたマーラの悪行。
しかし、公的な場所では彼女はお利口さんで、老人を守る正義の使者としてふるまうが、本当は悪魔だ。悪魔の片鱗が、垣間見える瞬間がある。
ロザムンドパイクの演技が絶妙で、「ゴーンガール」の演技と同じように彼女はウソは付けても笑いをこらえることが出来ない。
後半も笑った顔が治らないと自分でも言ってるが、彼女は自分の利益が確定した時には笑っている。顔を引きつった感じで不気味な笑みを浮かべる。
基本的には善人を演じられているのだが、笑みにボロが出ている。
完全に演じてるようで演じきれていない。そのほころびがキャラ造形に絶妙な深みをもたらしてくれる。
その絶妙な演技を象徴するのは、亡くなった後見人の顔写真をゴミ箱に捨てるシーン。
完全な悪人ならグシャグシャと写真を丸めて捨てる。
しかし、彼女は写真を丸めてゴミ箱に持っていってから、なぜか一度立ち止まって捨てるのを躊躇するのだ。
この、1秒にも満たない立ち止まりが、マーラというキャラクターの本質を表している。
完璧であるように見えて、実は不完全。
彼女が何を思ったか分からないが、仮に彼女に一抹の申し訳なさが残留しているように見えた。彼女のバックボーンはほとんど不明で、母親が毒親だったということしか分からない。彼女に人間味を与えるために、ゴミ箱で一瞬だけ踏みとどまる演出をしたのだろう。
キャラに人間味を与えるために、たいていの映画は何秒も何分も時間を掛ける。
しかし、この映画は1秒にも満たない時間で、パーフェクトな演技を見せてくれる。
これが怪作たる言えんだろう。本当に凄かった。
彼女に正義の執行が下されるカタルシス
次々と老人を手玉に取って、利益を貪るマーラ。
この悪女っぷりに痺れる!という人が大多数だろう。その気持ちは分かる。
しかし俺は完全に真逆で、いつ誰が始末してくれるんだろうと思っていた。
早くこんな悪女を消し去ってしまえと、彼女に対する憎悪が深まっていった。
早く消えろ早く消えろ早く消えろ
早く消えろ早く消えろ早く消えろ
早く消えろ早く消えろ早く消えろ
心の中で叫び続けていた。
調子に乗り続けるマーラに正義の鉄槌が下されることを願っていた。
序盤でマーラがターゲットにしたとある老女。ダイアン・ウィースト演じるジェニファー・ピーターソンという女性はいとも簡単に被後見人に仕立て上げられ、介護施設へと送られてしまうのだが、ここからが今作の白眉だった。
なんとジェニファーは、極悪ロシアンマフィアのボスの母だったのだ。
何というカタルシス。マーラを早く消し去って欲しいと望んでいた私の願いが叶った。
「舐めてた相手が実は殺人マシーンでした」系の映画で、私にとっては大好物の代物。
今回は、
「舐めてた相手が実はロシアンマフィアのボスでした」と言ったところか。
とにかく私は、「やれ!!!!やれ!!!!あのクソビッ◯をぶち○○せ!!!!!」とわめていた。周辺には大変申し訳ないが、少し声が漏れていたかもしれない。
序盤でマーラにブチギレる被後見人の息子のように、マーラに罵声を浴びせていた。
徐々に殺されていくマーラの仲間たち。
これから復讐劇が待っているのかとほくそ笑んでいた。
ボスのピーター・ディンクレイジが部下に次々と指令を下し、マーラと恋人のフランを拉致する。
ついに来たついに来たついに来た!!!
と昂る気持ちを抑えきれず、小さくガッツボーズをしてしまった。
個人的にすごく気に入ってるのは、駐車場でマーラを拉致した女工作員。あまりに慣れた手つきで薬をマーラの足に打ち込み、「あら、大丈夫?」と微笑みかけて気絶させる。
あの笑み!!そして手際の良い仕事っぷり!!!
全てが完璧!!ふぉおおお!!
はやくマーラをやってくれ!!!ぶちのめしてくれ!!!
とずっと願っていた。
しかし、何とマーラは驚くべき生命力でマフィアと対等にやり合ってみせるのだ。
・・・何なんだ、この生命力。
・・・凄いじゃないか。
今まで憎しみしかなかったマーラだが、マフィアにリンチされても意思を曲げない強さに、畏敬の念を持った。
間違いないのは、彼女に感情が振り回されてしまったということだ。
あんなに人を憎んだのも久しぶりだし、あんなにすげぇと思ったこともない。
純粋に、マーラという人間の強度に、惚れ込んでしまったのかもしれない。
しかし、彼女は最後の最後に、とある人物によって銃撃されてしまう。
その瞬間、私はカタルシスを得たと同時に、これで映画が終わってしまうのかと寂しい気持ちにもなった。
なんていう映画だ。
まとめ
正直、文句のつけようがない。
ゴーンガールで全てを出し切ったと思えたロザムンド・パイクだが、まだまだ力を蓄えていたとは・・
恐るべし!恐るべし!
マーラの悪行はフィクションとして描かれているが、実際にアメリカでは社会問題になっているのだろうか。
つい最近にも、ブリトニー・スピアーズが父親によって被後見人に指定され、後見人である父親に財産を没収され完全な支配を受けていたことが明るみに出た。
マーラの犯行は氷山の一角なのかもしれない。何という恐ろしく、魅力のある映画なのだろう。
ブリトニー・スピアーズといえば、「プロミシングヤングウーマン」でも劇伴に登場していた。
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もしかしたらマーラも将来を約束「されていた」女性だったのかもしれない。。
傑作。年間ベスト級です。
99点 / 100点